バレンタインデーゲーム
「朗報!朗報!」
「なんですか、八神先輩そんなに喜んで。」
八神先輩は部室の扉を急いで開けた。
「きっとお前も喜ぶはずさ。聞いて驚くな。なんと、今回、ゴミゲー同好会にフリマアプリのメルゴリから企業案件の依頼が来ました。」
八神先輩はそう言うと、手をぱちぱちと叩いた。
「えっ、僕たち、動画投稿者でもないのに、あのメルゴリから企業案件が来たんですか?」
「そうだ、俺たちが一生懸命、ゴミゲーをやり続けてきた努力が報われたんだ。
それでだ。メルゴリを使ったゴミゲーを考えたんだが、このゴミゲーに適任なのは、淡島と鈴音だと思うんだ。お前らが一番この俺の考えたゴミゲーにしっくりくる。で、一応案件だから、台本作ってきたんだ。これを二月十四日までにこの台本を覚えてきてほしいんだ。
別にメルゴリの宣伝内容を書いてあるだけだから、アドリブは入れてもらって構わない。じゃあ、この台本を鈴音にも渡しておいてくれ。」
八神先輩は、薄いホチキス止めの冊子を二冊、僕の方に手渡してきた。
「じゃあ、頼んだぞー。俺は今からメルゴリの人と詳しく話してくるから、よろしくー。」
先輩は部室を出て行き、部室の扉を閉めた。
「鈴音先輩、バレンタインデーゲームをしますよ。」
「やあ、淡島君、バレンタインデーゲーム?それはどういったゲームなの?」
「バレンタインデーゲームはですね。今日、二月十四日のバレンタインデーは、女の子が男の子にチョコを渡す風習があり、男女の生徒同士でチョコが行きかっているんです。なので、生徒のカバンと机をひっくり返して、手作りチョコを多く見つけることができたら、勝ちってゲームです。」
「面白そうだね。でも、本命チョコから義理チョコまでチョコにはいろいろあるよね。個数で競うより、チョコの価値で競った方がいいと思うなあ。
あっ、そういえばいいアプリがあった!メルゴリ!
集めたチョコを最終的にメルゴリで売って、手に入れた金額が多かった方が勝ちってことにしない?」
「いいですね!そのルールで行きましょう。制限時間は今日が終わるまでです。結果発表は三日後にしましょう。じゃあ、始めましょう。」
僕はそう言うと、部室にある催眠手榴弾数個とガスマスクを持ち、部室から一番近い一年の教室の扉から催眠手榴弾を一つ投げ込んだ。
最初は人がバタバタと倒れる音と悲鳴がしたが、僕がガスマスクを着けている間に、何も聞こえなくなった。僕は教室の扉を開けて、十分に換気をした後、教室の中に入った。教室の中には、力なくこの学校の生徒たちが倒れていた。僕は教室の扉から近い机を順番にひっくり返していった。
最初の席には、小さなチョコが二つ、透明な袋に入ったものがたくさん入っていた。おそらく、今、僕の足元で、倒れこんでいる女子が繰らず全員分に作った義理チョコだろう。そして、その机にかかっているカバンも物色すると、机に入っていた義理チョコよりも大きいチョコを見つけた。
「よし、これは高く売れそうだ。」
僕は思わず、声を上げて喜んだ。僕の見立てでは、JK、手作り、本命とタグをつければ、千円は取れるほどのチョコだった。そのチョコのの中の紙には、武藤将司君へと書かれていた。僕は彼女のカバンの中に、どちらのチョコも入れ、彼女のカバンを背負った。
僕は次の席の物色に移る。次の席は男子だった。その近くに倒れこんでいる男子は、ガスマスク越しにも分かるほど、イケメンだった。
「よっしゃー! 金づる見っけ。」
僕はうきうきしながら、彼の机をひっくり返した。すると、机の中からは教科書よりもチョコの方がたくさん出てきた。
「ざっと、七千円かな。」
そう言って。そのチョコを拾い上げていると、教科書に書かれてある名前に目が留まった。武藤将司と書かれていた。僕は将司のチョコを回収し、将司の顔面を踏みつけて、次の机に向かった。
すべての机で回収し終わると、上手くいけば、四万円ほど稼ぐことができるほどのチョコが回収できた。他のクラスでも、回収してみた所、大体一クラスの相場は、三万円程だった。高一のチョコを根こそぎ、集めた結果、二十万円程のチョコが回収できた。
僕はさすがに勝っただろうと、部室に引き返した。僕は部室の帰ると、チョコ一つ一つの写真を撮った。できるだけ綺麗に映るよう、光の加減も気を付けた。そして、商品の紹介文は、できるだけ女子に寄せた。
金額はできるだけ、強気の値段設定をして、出品した。僕はすべての作業が終わると、部室に残っている催眠手榴弾の在庫を見た。
「高二も行くか!」
バレンタインデーから三日後、僕の出品したチョコは、四十三万円分売れた。少し予想よりも高く売れたようだ。僕はこの勝負の勝ちを確信し、にやりと口角を上げた。
「結果発表ー!」
鈴音先輩は部室に入って来るなり、そう言った。先輩も僕と同じくにやりと口角を上げている。先輩も自信があるのだろう。
「じゃあ、僕から発表しますね。
ずばり、四十二万円です。」
「おおー、頑張ったねえ。チョコだけでそんなに稼ぐことができるとは。」
先輩は口に手を当て、びっくりしていた。だが、先輩の驚いた顔には、余裕が見て取れた。
「残念だね。私が開いてじゃなかったら、絶対に勝てていたのにね。
合計百二十一万円。」
先輩は帯のついている札束と少々の札束を部室の机に置いた。僕は目を見開いて驚いた。
「ひゃ、百万円以上も稼いだんですか?」
「そう、二つ回った甲斐があったよ。」
「ニクラスでそんなに稼いだんですか?」
「いや、町二つ。町二つ分の小中高から集めた全部のチョコを売った。」
これには、僕も降参せざる負えず、自然と両手を上げていた。
「先輩には敵いませんね。その強さなら、どんなゲームでも僕は負けちゃいそうです。」
「……そうかな?
……でも、一つだけまだ君に勝ててないゲームがあるんだ……。」
先輩は僕の目を見て、恥ずかしそうに目を逸らす。心なしか、先輩の頬は赤くなっているような気がする。
「その僕に勝てないゲームって何ですか?」
僕は何となく期待をしながら、先輩を見る。先輩はカバンから包装された四角い箱を取り出し、僕に渡してきた。
「実は、私、さっきのゲームで稼いだ金額は、百二十一万円じゃなくて、百二十二万円なんだ。これを買いたくて、一万円使っちゃった……。これ、プレゼント。」
僕は、先輩からのプレゼントの包装を開くと、有名なブランドのマグカップだった。
「淡島君、コーヒー好きじゃない?だから、欲しいんじゃないかなって思って……、どうかな?」
先輩はもじもじしながら言った。僕はそのマグカップを見て、思わず大笑いしてしまう。
「何、私がプレゼントをするなんてそんなにおかしかった?」
先輩は顔をしかめ、僕をにらむように見てくる。
「いや、違うんですよ。実は僕もこのゲームで手に入れた金額よりもさっき言った金額の方が一万円少ないんです。何故かって言うと……」
僕はカバンから包装された四角い箱を取り出し、先輩に渡した。先輩はその僕からのプレゼントを驚いた表情で受け取った。
「開けてくれますか?」
先輩はプレゼントの包装紙を綺麗に剥がすと、出てきたのは、先輩がプレゼントしたマグカップと同じものだった。先輩はしばらく口を開けて驚くと、突然、彼女も笑いだした。僕もそれにつられて笑い出す。
「本当、淡島君には、敵わないや。」
「どうでしょうね。もう、僕は先輩に負けちゃってるかもしれません。」
先輩は笑いを少し抑える。
「それってどういう意味?」
「それを言っちゃったら、完全に僕の負けですね。先輩。」
僕も笑いを抑えて、見つめてくる先輩の目を見る。
「先輩……」
「淡島君……」
「な~んてことになっちゃうかも。
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今すぐインストール!メルゴリ!」
部室に入ってきた八神先輩はそう言った。
「はーい。オッケイです。じゃあ、案件はこれで行きます。淡島と鈴音、いい演技だったよ。案件決まったら、また頼むわ。じゃ。」
八神先輩はそう言って、部室を出て行った。
「じゃあ、このマグカップ売りますか。」
「もちろん、メルゴリでね!」




