第951話 前祝いですが何か?
リューとハンナ達の時間はあっという間に過ぎ、アニマーザルの長邸に戻ると、古代獣人族の中でも、魔力に優れた約五十名が集結していた。
他にも秘術を行う為に使用する魔法陣作成の専門家も十名いた。
「リュー殿。カミーザ殿によろしくな。あと、孫娘の事も頼む」
長のライガが、孫娘のシャームに視線を一瞬向けた。
シャームは改めて、リュー達について行くつもりのようだ。
「この度のご協力ありがとうございます。秘術使用後は、みなさんを安全に帰宅させますのでご安心ください。シャームの事は、本人が望む限り、僕達はいくらでも協力します。家族同様の扱いでもてなすので、こちらもご安心ください」
リューは、笑顔で長ライガに応じた。
「本当にカミーザ殿の孫はしっかりしているな。わははっ! ──成功を祈っている」
リューの頼もしさに笑うライガだったが、すぐに顔を引き締めた。
「はい。みなさんの協力もあるので大丈夫だと信じています。──みなさん、移動しますので、準備をお願いします!」
リューも真面目な顔になって頷くと、『次元回廊』を開くのだった。
「「「ここが魔境の森の外の世界……」」」
リューの『次元回廊』で移動してきた魔境の森の住人、古代獣人族達は、目の前に広がる夕暮れの城館や城壁に囲まれた街並み、そして、田園風景を見て、心打たれていた。
彼らにとって、地平線と言えば森だったし、街と言えば、アニマーザルの街だったから、それ以外の景色は新鮮以外の何物でもなかったのだ。
「みなさん、今日は遅いので、こちらで用意した宿泊施設でゆっくり休んでください。食事も用意していますので、文化の違いを楽しんでください」
リューが、古代獣人族の者達に簡単に説明する。
世話役は、長男タウロと、先に来て文化を経験しているシャームだ。
目新しいものばかりで困惑する古代獣人族の面々だったが、タウロとシャームが丁寧に説明して案内するので、不安を感じる事無く、宿舎で休む事になるのだった。
リューとリーン達も久し振りにランドマーク本領の自宅で休む事になった。
リューの部屋は、まだ残っており、掃除も毎日してあったので、泊まるのは問題ない。
夕飯も家族での食事となった。
父ファーザをはじめ、母セシル、祖父カミーザ、祖母ケイ、タウロの嫁エリス、ハンナ、ココも一緒だ。
長男タウロは、古代獣人族の宿泊施設で、ランドマーク家の代表として一緒に食事をしている事だろう。
次男ジーロは、自領にいるから、ここにはいない。
「リューは忙しくて、顔を合わせる機会も少ないから今日は嬉しいわ」
祖母ケイは、秘術の事には敢えて触れず、孫の顔を見れたので喜んだ。
「ケイさん、明日の秘術は不安か?」
カミーザは最愛の妻を気にかけた。
「それはありませんよ、あなた。私の為に夫と孫達が力を合わせてくれたのですもの。でも、成功しなくても私は何にも困る事はないから、その時は落胆しないでね?」
ケイは、自分の事より、大変な思いをしながら失敗した時の落胆する顔を見たくないようだった。
「大丈夫だよ、おばあちゃん。失敗する可能性が高いなら、うちの守護神である黄竜フォレス様が何か言うはずだもの」
リューは、笑ってメタい事を言った。
「つまらん事を言うな」
すると、次の瞬間、ギャル姿のイエラ・フォレスがリューの背後に現れた。
「うわっ! ……イエラさん、背後から現れるのは止めて……!」
リューは驚き、胸に手を当てながら、振り返った。
「かっかっかっ! お主がネタバレみたいな事を言うからだろう。成功した時の感動がなくなってつまらぬではないか」
イエラ・フォレスは、リューに注意した。
「フォレス様……。──という事は、成功するという事ですな?」
一番心配していたであろうカミーザが、真剣な表情で問うた。
「うむ。保証しよう。古代獣人族のところに残る魔法陣に欠陥はないし、千年樹を利用するのも、間違っておらぬ。『魔境の雫』も傷一つない完璧なものだ。用意した魔力に優れる者達もこれだけの数を揃えられるのは、カミーザの人徳だろう。あとはいい孫を持ったな」
イエラ・フォレスは、カミーザに保証を与えると、リューの頭にポンと手を置いた。
「自慢の孫の一人ですからな」
カミーザはようやく、その面に安堵と同時に、満面の笑顔を見せた。
「フォレス様、重ね重ね感謝します。ランドマーク家の今の安泰は、フォレス様の加護もありますから」
父ファーザが、ランドマーク家を代表して頭を下げた。
「我はほとんど何もしておらん。カミーザとリュー達が命をかけて、限界に挑んだ結果じゃからのう。加護の効力は、あくまでおまけじゃ」
イエラ・フォレスは、その実力に胡坐をかかず、日々努力を忘れないリュー達が嫌いではない。
いや、楽しませてくれる分、好きだった。
かといって、過剰な協力は当人達の驕りを招くし、他の皇帝竜を刺激しかねないので、控えていた。
それでも、このランドマーク家の者達は、黄竜フォレスのお気に入りである事は間違いない。
「イエラさん、良ければ食事していきますか?」
リューは、イエラ・フォレスに頭を乱暴に撫でられながら、問うた。
「やっと、誘う気になったか! 我はその言葉を聞きたかったのじゃ!」
イエラは、壁の横に置いてあった椅子を掴むと、リューの横に持ってきて座った。
「セバスチャン、我が家の守護神様にも同じものを頼む」
父ファーザが当家自慢の執事に料理の用意を頼む。
「すでに、用意させております」
セバスチャンが、頷くと近くのメイドが扉を開ける。
すると、廊下で控えていた他のメイド達がイエラ・フォレスの分の料理を運んできた。
「タウロとジーロが今日はいないが、家族で明日の成功の前祝いだな」
カミーザがいつもの調子に戻って、お酒の入った杯を手にする。
「今回、父さんと一緒に活躍したリューが、乾杯の音頭を取ってくれ」
父ファーザも杯を持って立ち上がる。
そこにいた全員も、父達に倣って杯を手に立ち上がった。
「それでは……、明日の成功と家族の健康を願って──」
「「「乾杯!」」」
リューの音頭に家族全員が杯を掲げると、この日は盛り上がるのだった。




