第949話 テイムしますが何か?
ランドマーク本領。
リューはリーンとスードを伴って、古代獣人族シャームの様子を見に来ていた。
「リュー、来ていたのね」
シャームは完全に馴染んだ様子で、やってきたリューに気づいた。
そばには、ムササビデビルのサビを頭に乗せている妹ハンナ、ノーマンの妹でハンナの親友であるココ、ハンナの親衛隊であるイトラとフレトもいた。
「リューお兄ちゃん、丁度良かった!」
ハンナがリューに気づいて喜んだ。
「丁度? 何かあったの?」
リューはハンナ達が目を輝かせているので、不思議に思った。
「ハンナ達が、アニマーザルの街に行きたいらしくて。リューが大丈夫なら、案内すると約束したの」
シャームは悪いと思ったのか、少しバツが悪そうに拝み手を見せた。
「別にいいよ。こっちも一段落ついているからね。今日来たのもシャームの様子を窺った後、アニマーザルの街に行って、おじいちゃんの秘術についての打ち合わせをしようと思ったからなんだ」
リューは丁度タイミングが良い事を伝えた。
「「「やったー!」」」
それを聞いてハンナ達は素直に喜んだ。
「でも、大丈夫? いくら街とはいえ、あそこは魔境の森の奥地だからね」
リューが警告する。
「私も同じ事を言っているのだけど、ハンナが色々興味を持ったみたい。私のペットのフレバとか魔境の森で取れる薬草とか」
「ああ、そういう事か! ──ハンナはもちろんだけど、ココちゃんや護衛の二人も気を付けてね?」
リューは、好奇心で命を落とす事が当たり前にある魔境の森、それも奥地なので再度注意を促す。
「「「はい!」」」
ハンナ達は先程の喜ぶ顔から一転、真面目な面持ちになって返事をした。
「……(単に浮かれているわけではなさそうだな)、よし、じゃあ、行こうか」
リューは全員の様子を窺い、大丈夫だと判断するのだった。
アニマーザルの街に到着すると、リューはハンナ達を連れて、まずは長邸宅を訪れた。
ハンナ達を紹介すると、孫娘よりも小さいので、長ライガは目を細めて、歓迎した。
「英雄リュー殿の妹達か。いい目をしている。それに、まだ若いが、日々の鍛練にもしっかり励んでいるようだ」
長ライガは、一人一人握手を交わしただけで、すぐにハンナ達の努力の跡を手の感触で理解した。
「自慢の妹とその友人達ですので。なにしろ──」
リューは妹自慢を始めた。
長ライガも小さい頃のシャームの話を始めたので、すぐにシャームとリーンが止めに入り、長話は避けられた。
「──そうだった。カミーザ殿の恩に報いる為、魔力に優れた者達を五十人程選抜したから、いつでも派遣は可能だぞ」
長ライガは、魔力が枯渇している祖母ケイの為に、惜しみない協力を申し出ていた。
「夕方までにみなさんを集めてもらってもいいですか? その間、僕達はハンナ達を案内するので。ランドマーク本領では歓迎準備もしていますし」
「うむ、わかった。──皆の者に夕方集まるよう伝えよ。シャームは彼らの案内を頼む」
長ライガは頷くと、部下に指示を出すのだった。
シャームはペットである地獄火炎鳥のフレバをハンナに紹介した。
普段、自分以外には懐かず、威嚇するくらいなので、気を付けるように注意したのだが、意外にフレバはすぐハンナの肩に止まってみせた。
ハンナの頭の上に乗っているムササビデビルのサビは、フレバに対し、視線は向けても威嚇はしない。
どうやら、ハンナに対して敵意を向けないので、安全と判断したようだ。
「驚いた……。この子、リューにも最初威嚇したくらいなのに……」
シャームは、ハンナの才能に感心した。
「リューお兄ちゃん。『火の森』で、私も地獄火炎鳥をテイムできないかな?」
普段、無茶を言わないハンナが、余程、気に入ったのかリューに危険なお願いをした。
「……全員を連れて行くと、いざという時守れないから、『火の森』には僕とシャーム、ハンナだけならいいかな。リーンとスード君は、ココちゃん達を案内してくれるかい?」
「私も行きたいけど……、わかったわ。テイムするなら同じ地獄火炎鳥のフレバを連れて行くのが手っ取り早いものね」
リーンはリューが何を考えての判断かすぐに理解した。
フレバを連れて行くなら飼い主のシャームも一緒でないといけないからだ。
「じゃあ、行こうか!」
リューは楽しそうだ。
実はリューも地獄火炎鳥については、テイムの瞬間を見たかった。
自分がテイムするのが一番だが、時間的にテイマーの才能もあるハンナが手っ取り早いだろう。
リーンも同じ考えだったから、大人しく見送るのだった。
『火の森』の真っただ中。
リューが古代黒竜の棲家まで行くのに作った『火の森』の横断路にやってきた。
「す、凄い! 本当に森が燃えているんだね!」
ハンナは話に聞いて理解しているつもりでいたが、実際に燃えている森を目にすると、その光景に圧倒された。
シャームの肩に乗っていたフレバは、楽しそうに頭上を鳴きながら飛び始めた。
ムササビデビルのサビは、圧倒的な火に対し本能的に危険を感じるのか、ハンナの頭の上で周囲を警戒した。
「サビ、大丈夫だよ、落ちついて。それに、サビが警戒したら、フレバの仲間が近づけないからね」
ハンナは、頭上のサビを撫でて言い聞かせた。
サビは、ハンナに撫でられる事で安心したのか、大人しくなる。
しばらく周囲の様子を窺っていると、フレバの鳴き声に反応したのか、轟々と燃える『火の森』から鳴き声が返ってくるようになった。
「反応が返ってくるようになってきたね。『火の森』の魔物って警戒心が強いって話だし、いい傾向じゃない?」
リューは、カミーザから聞いていた情報を口にした。
その時である。
反応していたいくつかの鳴き声が、驚いたような甲高い鳴き声に変わると、燃える木々から飛び出して散っていった。
そして、それを追い立てたと思われる鳥が、飛び出してきた。
「「青い炎の鳥!?」」
リューとシャームは思わず声を上げた。
見た目はフレバと同じ地獄火炎鳥のようだが、鶏冠のような部分と、羽の部分に青い炎を纏っている。
「もしかして、亜種かもしれない! 初めて見るわ!」
シャームは嬉々とした声を上げた。
頭上を飛んでいたフレバは、その青い炎の鳥に驚いて、シャームのもとに逃げ戻る。
それを、青い炎の鳥は、追ってきた。
どうやら、フレバを他所者と判断して攻撃しようとしているようだ。
他の臆病な地獄火炎鳥と違い、攻撃的なところも含めて、亜種である可能性を大きく示していた。
すると、ムササビデビルのサビが、フレバを守ろうと、頭上から飛び立ち、皮膜を広げて炎の上昇気流に乗り、上空に舞い上がった。
それに気づいた青い炎の鳥が、標的をフレバからサビに変更した。
「サビ、こっちに誘い込んで!」
ハンナが魔物には難しいと思える命令を出した。
だが、サビは「きゅる!」と鋭く鳴くと、青い炎の鳥を挑発するように、上昇気流に合わせてひらひらと舞う。
青い炎の鳥は、挑発に乗って、サビに突っ込んでいくが、ことごとく躱された。
サビは、徐々に高度を下げて、ハンナのもとに戻っていく。
青い炎の鳥は、サビを標的に自身も高度を下げて、攻撃を繰り返した。
その度にサビは躱していたのだが、一瞬、ハンナの頭上近くで交錯した。
サビは慣れた様子で青い炎の鳥の羽に爪を引っかけて捕らえると、一塊になってハンナの足元に落下した。
サビは高温の青い炎に一瞬包まれるが、ハンナが水魔法で、相殺する。
青い炎の鳥は、サビに羽を傷つけられて落下したので飛びたてず、地面でバタバタした。
ハンナはサビを治癒魔法で治療し、次に青い炎の鳥を優しく抱きかかえた。
青い炎の鳥は、最後の抵抗とばかりに炎を全身から噴出したが、ハンナは火耐性魔法を発動し、優しく撫で続けた。
青い炎の鳥は、しばらく抵抗しようとしたが、段々大人しくなっていく。
そして、ハンナは見計らったように、治癒魔法で青い炎の鳥の羽を治療した。
「ごめんね、傷つけちゃって」
ハンナが謝ると、青い炎の鳥は、青い炎を出すのを止めた。
「ありがとう」
ハンナがお礼を言うと、青い炎の鳥はハンナの頭上に羽ばたいて一周した後、肩にそっと留まるのだった。




