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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第七章 天使物語と謎◆
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71ページ

 初めて泳いだ感想。息が苦しいし、全身の筋肉が痛く思う。これが泳ぎというもの。ここまでにおいて、体力消耗はフレイヴにとって初めてだった。二人は船から海へと飛び込み、岸辺へと辿り着いた。彼らはどちらも泳ぎ疲れているようで、誰もいない石砂利の上に寝そべっている。


「おう、無事かぁ?」


 アルフレッドは体全体で息をしながら、フレイヴにそう呼びかける。なんとか大丈夫だ、と答えるために「はい」と言いたいが、言えなかった。息が切れているから。呼吸が整わないから。彼が答えられたのは数十秒立って、ある程度の息が整ったときだった。


「アルフレッドさん……は、大丈夫ですか?」


 こちらも訊かれたからこそ、反問をした。その答えは「そう見えるか?」である。確かに、言う通りではある。二人は地面に寝転がっているのだ。起き上がる気力も今はない。だから、これの答えとして正しいとされるのは――。


 息切れで上手く行動を起こすことができない、である。その場で男二人の息切れはまだ続く。やっとの思いで正常な呼吸に戻り、上体を起こすことができたのは岸辺へと辿り着いて、十分が経った頃である。その頃になると、この場から見える島の中の状況を把握し出そうとしていた。


「なんで、ここは人の出入りを厳しくしているんでしょうか?」


「それは俺にもわからん。だが、独立の国は新王国にここを明け渡したくないとは思っていることだけは事実だろうよ」


 誰もが聞いたことのある、二つの国の対立。今でこそ、ナズーという存在に世界中の誰もが脅かされているため、協力体制でナズー退治を試みているはずだ。しかし、それはただの上辺だけにしか過ぎない、というのもこれまた事実。どうやら、新王国はこの島を手に入れたいらしい。そうだとしても、それを阻止するために、独立の国は人の出入りを制限しているのでもある。ただ単に土地問題か、それとも――別の問題なのか。彼らは気になりながらも、水で重くなった服を絞り上げていると――。


「宗教関係もありえそう」


 ふと、フレイヴのポケットからカムラの声が聞こえてきたかと思うと、水浸しの千切れたページが現れてきた。それは空中に漂い、美しい光を放っていた。


「宗教だって?」


 その紙切れは半透明のカムラを映し出した。実体ではない、と彼女は言う。フレイヴはこれに驚きを隠せない。もちろん、アルフレッドだって。彼らが驚愕をしていても、彼女は説明をせずに、自身の憶測を話し出すのだった。


「その独立の国にとって、この場所は宗教関連の聖地であるとかね」


 天使物語というものが存在するのだ。その可能性は十分に高い、とカムラは言う。なぜにこのような憶測を立てることができたのか。それは、彼女は宗教に関連することで苦い思いをしていたから。要は経験から来る勘でもあると話すのだった。

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