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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第六章 渡航と犯罪者◆
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69ページ

 二人はずっとコンテナの中で潜んでいた。アルフレッドがコンテナから出るタイミングを計ってくれるらしい。これにフレイヴは安堵した。彼自身、こうした密航や不法入国などした経験は当然ないからだ。それだからこそ、カムラは頼れと言ったのかもしれない。これはただの憶測であるが。


「多分、島の出入りが厳しいなら、荷物検査は当然ある。それがある前に、海に飛び込むぞ」


 アルフレッドの作戦はこうだ。島に近付いてきた頃に海の中へと飛び込む。そして、船から島入口付近で監視をしている軍警備員を出し抜いて、島へと入る。実に浅はかな作戦ではある。だが、これをばかにはできなかった。それ以外での作戦は思いついたとしても、どうにかなる問題ではなかったからだ。このことについて、フレイヴは重々承知していた。自分たちの力量を考えると、この方法しかないということだ。


 しかしながら、一つだけ難点がある。


「アルフレッドさん……」


 そうフレイヴは不安そうにアルフレッドに声をかけた。これに「どうしたか」と海に飛び込む準備をしているようだ。


「まさか、泳げないとか?」


 事実その通りである。否定はできないし、嘘もつけないフレイヴは「はい」と申し訳なさそうに頷く。


「生まれてこの方、初めて海というものを見たんです。それに、ぼくの村には小さな用水路や川があっても、湖とか池がなかったから……」


「うーん、それは泳げないじゃなくて、泳いだことがないが正しいな。別に大丈夫だろ、その年で軍から逃げるようにしているガキだ。下手くそでも問題あるまい?」


 そういう楽観的な考えで問題ないだろうか、とフレイヴの不安の波は更に押し寄せてくる。泳ぐ、泳がないと言っているわけではない。果たして、泳いだことのない人間が、いきなり海に飛び込んで岸辺まで泳げることができるかどうか、の話なのだ。もちろん、彼は自分が泳げなくとも、泳ぐ気ではいる。そうしないと、この場に残って、大人しく軍警備員に捕まりたくないのだから。


「何かに掴んで行ったりはできますか?」


「掴むとなると、木の板にでも掴んで行ったりするのが一般的だが……浮くか?」


「それ以前に、海の中にナズーっているんですか?」


「俺は知らん」


 もう一つの問題、ナズーの話題になると、アルフレッドも閉口せざるを得ない状況になる。ただでさえ、必死になって泳いでいるときに襲われたら元も子もない。だとしても――それでも、それ以外の方法はない。戦えない。二人は武器を持っていないのだ。


 問題ないのだろうか、と愁眉を開くフレイヴをよそに、アルフレッドは心の準備ができていた。いつでも、海に飛び込めるらしい。覚悟があるらしい。彼はそれを見習って、飛び込むために己の恐怖心に言い聞かせていた。何も問題はない。恐れることはない。ただ、海に飛び込んで島へ行くだけではないか、と。


 その無理やりな覚悟の決め方もあってか、二人の計画決行のときが訪れるのだった。

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