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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第四章 アルバイト依頼とそのついで◆
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50ページ

<N336.猛暑の月 第1週目と3日>

ここは魔の手もこないはずの幸せの場所だった。

だが、先日から町の者たちの様子がおかしくなり始める。嫌な予感しかしない。


<N336.猛暑の月 第3週目と5日>

隣に住むジバルディドも苦しそうに「腹が立つ、悲しい、寂しい」とぶつくさ言っていた。

何がそんなに怒り、悲しかったり、寂しかったりしているのだろうか。


<N336.猛暑の月 第4週目と2日>

ついに、噂でしか聞いたことのないバケモノ「ナズー」が姿を見せた。

姿、形は真っ黒なバケモノ以外どうたとえようか。

ナズーの表情は苦痛に満ちているが、その裏では怒りや悲しみ、寂しさといった感情が見えていた。


<N336.冷涼の月 第2週目と1日>

もうこの町はダメだ。

私だけを残してほとんどの者がナズーの犠牲に。この町を捨てる他ない。

 通りすがりの町に住むクルレラの依頼、神殿でいなくなってしまったペット捜索はついでで頼まれたナズー討伐よりも至極簡単に見つかった。当然だ。依頼としての受諾レベルに差があり過ぎるのだから。彼女のペットは破壊されてしまった神殿の瓦礫の下――そこにあった大量の紙切れの中で小さくなっていた。どうやら、紙がクッションとなって助かったらしい。カムラが優しく抱き上げる。


「うん、怪我はないみたいだな」


「こっちとしては、フレイヴが無傷であることにびっくりなんだけど」


 現在のフレイヴは所々服などに血が付着しているのだが、これは討伐したナズーの返り血である。本人は至って健康体。多少の打ち身はあるにしても、血を流していないのが驚愕的だった。だが、この血があるせいで、クルレラのペットが不信感を抱いているようだ。


「ははっ、運がよかっただけだよ」


「運がよかったって……。とりあえず、その血をどうにかしないと。町に入る前に」


「うん、そうする」


 今回の戦いにおいて、運がよかっただけで済まされるような内容ではないはずだ。それでも、カムラは何も言わなかった。これ以上、話をややこしくしたくなかったから。そして、何より――。


「お兄ちゃんたち、ありがとう!」


 感謝の言葉を述べるクルレラを含めた、周りの人たちにはフレイヴが独りでナズーを倒した、なんて言わない方がよいだろう。それを聞いたときの彼らはどんな目を向けるのかわからないから。彼みたいな人間がどういう人間であるかわからないはずだから。だからこそ、カムラはたまたま通りかかった新王国軍に助けてもらいながら、討伐したとだけ言っておいた。


 どういたしまして、というフレイヴをよそにカムラはじっとこちらを見ているクルレラのペットを見ていた。彼女とは話す気はないらしい。それはクルレラも同じのようで「ねえ、お兄ちゃん」と彼を見上げた。


「寝床もご飯も洗濯もしてあげるけど、もう一つお願いがあるの」


 まさか、またナズーの討伐ではないだろうか。


「あのね、最近ナズーが多いでしょ?」


 討伐じゃないか。これはもう。


「それで、郵便配達とかできないらしくて……」


「任せてよ」


 フレイヴはちゃんとした依頼内容を聞く前にして、クルレラの依頼を引き受ける。これにカムラは眉根を寄せた。だが、何も言わない。


「本当? いいの、お兄ちゃん」


「いいよ。今度のナズーはどこにいるの?」


 なんて自信満々に訊いたときだった。クルレラは「え」という硬直する。ややあって、首を横に振って否定した。


「違うよ、違う。ナズーを倒すんじゃない」


 どうやら違うらしい。それにフレイヴとカムラは顔を見合わせた。そして、クルレラの言葉を待つ。


「あのね、『英傑の町』までお手紙を届けて欲しいの」


 クルレラはおずおずと、二人の前に一通の手紙を差し出すのだった。

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