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悲しみ、怒り、妬み、寂しい、つらい、憎しみ、負の感情。
言葉が出ない。その一言に尽きる。剣の姿になっているカムラは唖然とした状態で、超巨大なナズーの目玉に突き刺さっていたのだ。そこから感じるのは、ナズーの感情だろうか。フレイヴと似た負の感情を抱いているようにも思える。どうして、理性のないバケモノがこんな思いを持っているのだろうか。なぜに彼と似ているのか。どうしてだろう。どうしてだろう。 訳がわからないまま、一秒が過ぎて――二秒が過ぎて――ナズーが暴れ出そうとする前に、フレイヴが自身に書き留めた感情とこいつの感情が心の中で肥大になっていくのだ。それは次第に体を成し始める。
フレイヴが柄を強く握ったときだった。剣をまとう美しい光は大きく広がり始める。何も大きくなるのは光だけではない。剣自体もだ。一気に巨大化する刃はナズーの頭部を真っ二つにできるほどまで広がった。そうしていく内に、どんどんカムラの心の中に二人の感情の波が押し寄せてくる。押し寄せてくる。その膨大な万感は受け止めきれるのだが、これ以上あっても――いや、彼らはどれほどの感情を表に出していなかったのだろうか。
もう一つ、カムラの剣は大きくなった。今度は重みで頭部から胸部にかけて切断する。いやいや、まだまだこれから。更に大きくなり、腹部まで切断。これでもかというぐらい巨大化して、完全に山ほどの大きさがあるナズーを両断してしまった。ここは美しい緑であふれていたのに。それが一瞬にして赤黒い液体が滝のように降り注ぐ。
上の方にいたフレイヴは剣の重みで地上へと真っ逆さま。だが、彼自身は地面を体に叩きつけられることはなかった。なぜならば、その剣が地面に突き刺さったから。ややあって、カムラも元の大きさの剣へと縮まっていく。そうする頃には、彼も地に足を着けていた。この血の海に。
結論から言わせていただくと、この二人――いや、フレイヴはたった独りでこの世のバケモノ、それも山ほどのサイズの超巨大なナズーを倒したということである。大した若者だと褒める以上に、なんともありえない話。人間の姿に戻ったカムラは頭から切断されたナズーを見ている彼を見て思った。「ありえない」を「ありえる」にしてしまった少年がここにいる、と。これまで、彼女があの青色の小屋から目覚めて今日までの常識としては、ナズーというバケモノは基本的に独りで倒せないということ。実際にフレイヴは倒したことがある。だが、それはカムラの助言や指示があってからこその結果だ。しかしながら、今回において何も指示を出していないし、助言すらもしていない。むしろ、「逃げる」ということを推奨していたほどだ。フレイヴだけで勝ち目はない、という確信があったから。そちらの自信があったから。
自分の目的達成の手助けをしてくれる友人を死なせまいとして、自分は正しいことを言ったつもりだった。それなのに、フレイヴは独りで倒してしまった。ということは、カムラが「逃げる」という選択肢を選んだのは間違いだったという話になる。いや、間違いは間違いでも構わない。それでもよかった。だが、こればかりは――。
「本当、かよ……」
我を忘れての男口調。驚きを隠せない発言を残すだけ。唖然とするカムラの傍らにあった瓦礫からは小動物の鳴き声が聞こえるだけだった。




