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強い地響きがあった後、破壊されてしまった神殿の辺りは静まり返っていた。いつもは叫び声を上げながら、破壊をし尽くすナズーも今だけは黙っているではないか。そこにいる超巨大なナズーは手の平を地面に押しつけていた。これのせいで、周りに地震があったのだろう。そうとなれば、近くの町はこれからのナズーの被害に気をつけなければならない。いや、待て。それだけではない。時間を一分ほど前まで遡らせると、この大きな手の平の下にある地面には一人の少年が立っていたはずだ。己の力量の差を顧みずに、独りで立ち向かおうとしていた少年が。確か、彼は――そう。近くにある通りすがりの町で、神殿にいるペットを捜して欲しいと女の子に依頼をされていたのだ。その『ついで』に「めちゃくちゃ大きなナズー」の討伐をしようとしたのだろう。この現状はすべての結果である。これにて、少年フレイヴの物語は――。
終わらない。
――誰が、ここで終わるものか。誰が、ここでくたばるものか。ぼくにはやるべきことがある。それをせずに、死ねない。死んだら、父さんや母さん……大切な人たちが、ぼくが報われない。だから、ここで終わりだなんて言うな。その言葉を誰にも言わせやしないんだから。
地面に押しつけられた手の平。それに何かしらの違和感があったのだろうか。超巨大なナズーは小さく反応を見せた。その直後だ。
「ぼくはここで終わらない!」
一瞬にして、手の平一面が毒々しい赤へと変貌する。ナズーは何があったのか理解不能! すべてを理解するためにあの煩わしいと思っていた美しき剣を見るしかなかった。赤黒い自分の体液から覗かせるは淡くて美しい光。それを手にした一人の少年。彼は真っ直ぐの、濃い青色の目でこちらを見据えていた。超巨大なナズーの血に塗れ、自身の哀話を知る彼――フレイヴは雄叫び声を上げながらも、ナズーの腕を上っていく。何事においても必死。生半可でどうにかなる相手ではないことは十分に知っている。だからこその、全身全霊を振り絞って動きを見せていた。
目障りな光り輝く虫けらは、自分の腕をちょろまかと動いている。捕らえられないことはない。こんなのは手で軽く追い払うだけでいい。もう片方の手を使って腕から払おうとするのだが、それに負けじとフレイヴはカムラの剣を振るった。これは決してまぐれではないということを証明してやろう。光る刃がナズーの指を一本だけ切断する。その切断された指からは血潮が噴き出ているではないか! なんだ、こいつは。確かに手応えがあったはず。確かに潰した感覚はあったはず。それなのに、こうして生きているとは。なんという意地の悪さ。諦めの悪さ。
ナズーは周囲十キロぐらいまで聞こえるような大声を出した。ということは、だ。近くにいるフレイヴの耳は平気だろうか。相当な大音量が彼の耳の穴へと直撃しているのに。それでもお構いなし。まだまだ走る、走る。絶対に立ち止まろうとはしない。そうするべきではないと思っているからだ。
やがて、フレイヴは超巨大なナズーの頭部まで来ると、大きく飛躍した。彼の狙いは――ナズーにもお見通し。だが、それを回避したり、防ごうとする時間はなかった。なぜならば、そうしようという考えに至る前にはフレイヴがナズーの目玉にカムラの剣を突き立てていたからだ。
――いつだって、ぼくはナズーという存在が憎くてたまらないんだっ!




