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フレイヴとカムラがいる国の名前は『新王国』である。約千年も前から王権は変わらずに存在する強大な力を持つ王国だ。その中でこの国の軍隊は男女とも十六歳になれば、半強制的に五年間の兵役が課せられる。五年間の兵役を終えれば、そのまま軍に従事することだってできるし、退役することも可能である。この徴兵制が定められたのが七百年も前の話。元々は王国を潰そうとしていた反乱軍たちを抑え込むために制定されていたのだ。だが、ナズーの存在により、現在はナズーを討伐するための組織としての役割が大きい。だからこそ、あの真っ黒バケモノに急激的な出現に応対するために軍へと入っているようなものなのだが――。
「私たちに任せなさい」
元より、ナズーというバケモノは神出鬼没。更に一般市民たちは応対する術を学んだとしても、倒すための武器を持ち合わせていないことが多い。武器を持つことが許されているのは軍人と戦友軍のみ。王国がガチガチに固めた武器所持法という法律がある。そのせいで、地図上から町や村が消えてしまうほど被害状況が大きいというケースは珍しくないのだ。
「丸腰じゃ危険だ」
そう二人を町の中へと行かせまいと、軍人たちが止めた。彼らの手には剣やら槍、飛び道具を携えていた。これでナズーを仕留めるという。なんとも嬉しい好機だとカムラは思った。フレイヴが単身で町中へと突っ込もうとしていたのだから。彼女は「あの人たちに任せよう」と宥める。それでも行きたそうである。だが、行かせるわけにはいかない。所詮は他人だとしても、自分のことを優しくしてくれた彼を死なせたくないから。死んだら目覚めが悪いから。ナズーを憎む者がナズーになって欲しくないから。しかし、フレイヴは――。
「嫌だ」
意地の悪い子どものようだ。そして、軍人たちの前でとんでもないものを見せびらかした。 フレイヴがカムラの手を強く握った瞬間である。彼女の姿はあの柄が歯車のような形をした不思議な剣になってしまった。これに誰もが驚愕する他ないだろう。人が武器の姿になったのだから。
「なっ!?」
思わず、軍人の一人が声を漏らした。フレイヴはその隙をつこうとする気だろう。柄の部分を強く握りしめて突撃しようとするのだ。軍人たちは慌てて彼の動きを止めに入った。
「そっちは危険だ!」
「放してください! ぼくは、ぼくはっ――!」
一度目は自ら戦いを放棄した。二度目はカムラの手によってでもあるが、自分の意思。此度は――。
このままでは危険だと判断した軍人の一人が、申し訳なさそうな面持ちでフレイヴの後頭部に衝撃を与えた。そうするしかないと考えたのだろう。強い痛み。それと共に、彼の視界は真っ暗になってしまうのだった。
どうして、ぼくは今まで戦おうとしなかったんだろう。それが悔しくてたまらない。




