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剣の刃が相手を通さない。通れない。その事実にフレイヴは苦渋を飲まされていた。ナズーの皮膚があまりにも硬くて握りしめている手をつい緩めてしまうほど。痺れて上手く握れないほど。それほどまでに、ナズーというのは厄介な存在なのである。これでわかっただろう。これで思い知らされただろう。このバケモノを相手にするのは一般市民ではない。出る幕でもない。国が統率する軍隊か非政府軍隊の戦友軍。彼らがいなくてはこいつを町から追い出すことは不可能だ。そう断言できる。
それくらいは知っている。何を当たり前のことを。できないから、と逃げる気なんて毛頭ない。誰がここから退却するって? フレイヴは歪めた眉をしっかりと端の方を吊り上げて、歯を食い縛った。痺れる右手に鞭を打つようにして、強く握り直した。ああ、歯が削れそう。今にも歯の削りかすが出てきそうだ。
ナズーは自分に攻撃が当たったことは知っているらしい。それを踏まえて、こちらに対しての攻撃体勢を示し出す。握られた拳。再度構えられた不思議な剣。その二つは今一度ぶつかり合った。絶対に勝ってやる、その気迫で立ち向かおうとする。フレイヴは自身の濃い青色の目でナズーを強く睨んだ。それはもう真っ黒の体にさらなる真っ黒な穴が空きそうなほどだ。
しかし、その一方で剣になっているカムラは不思議でたまらなかった。普通はナズーに勝てないと理解しているはずだ。もちろん、フレイヴだって。あの悲しみの村で。それなのにだ。彼は勝率がゼロパーセントに近かろうが諦めようとはしない。むしろ、自分が勝つと信じて疑わないらしい。なんという心中か。誰よりも強い信念があるかのように見える。
叫ぶ者同士。ぶつかり合ったそれらは見事フレイヴの勝利が少しだけ跳ね上がった。彼はナズーが差し出してきた拳を叩き斬ったのだ。地面に落ちるその手は重たいのだろう。自身が立っている場所が少しだけ地響きするほどだったから。切り落とした途端、フレイヴは年相応の少年らしい笑みを浮かべた。ああ、その笑顔の背景がこのようなことではなければ。これが日常で見せるはずの笑顔なのに。皮肉なものだ。
「よしっ!」
普通の人でもナズーに勝てる。そんな希望の光が見え出した頃、痺れている両手でもう一度剣を握りしめたときだった。カムラは相手をするな、と言わんばかりにフレイヴの両手を引っ張り出した。
――逃げろ、逃げろ、逃げろ!
それはあまりにも切羽詰まっていた様子だった。何事なのか。改めて周りを見た。逃げ惑う人々は完全に避難したかに思えたのだが――実際はそうではなかったのだ。
「フレイヴ! もうこの町はダメだ!」
焦りのあるカムラの声。周囲にはこちらをじっと見てくるナズーの集団。その集団の一体の手には見覚えのある毛糸が引っかかっていた。それを見て、フレイヴの目は大きく見開くと共に茫然と涙を流す以外どうすることもできないだろう。彼らの目に映した光景は「最悪」の一言で片付くのだから。
――おばあちゃん……。




