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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第十章 神様の日記と刺客◆
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116ページ

 圧倒的に有利なのはどちらなのだろうか。双剣を手にした女性、オルチェは拳銃一丁――しかも入っている弾はたったの六発だけという。もしも、オルチェが拳銃の達人ならば、一発で終わる話。で、あるが、腕に自信がないのかは定かではないが、それを使おうとはしなかった。むしろ、拳銃本体を使用しているではないか。飛び道具なのに、鈍器としてである。


 トンネルの中だからか、よく音が響く。この男――わざと自分が不利に追い込んでいるのだろうか。いくら女性の得物がリーチの短い剣だとしても、銃身を武器として扱うのは負けると思えた。その武器に何かしらのギミックや秘密が仕掛けられているのか。そう考えるだけでも、己の戦いに集中できそうにもない。訳のわからないこの雰囲気に邪魔をされているから。風下にいるせいで、こいつから酒のにおいがプンプンと漂う。臭い。気分が悪い。自分の本来の力を発揮できない。


「うぅっ!」


 ほら、早速油断を見せてしまった。


 オルチェの蹴りを二つの剣で受け止めようとするのだが、それが適うこともなく――体勢が崩れてしまう。そのよろけた隙を見ても、彼にためらいは一切ない。まだまだ攻撃は終わりませんよ、とでも言うようにして二度目の蹴りを。完全に腹の隙を見せていた相手にお見舞いした。それでもなお、女性は諦めようとしない。この戦いから。このふざけた連中に勝つために。改めて柄を強く握ると、駆け出した。化粧で塗りたくられた顔をグシャグシャにしながら。理性というものをそこらへんに捨ててきたようにして。


「このっ……飲んだくれがっ!」


 強気の一発。これをオルチェは拳銃で防ぐが――甘いっ! 得物は一つではないのはてめぇも知っているだろうがっ! これでこの男は致命傷を負ってお終い。残りは殺人鬼と凡人ガキを殺せば、あの訳のわからん人なのか、本なのか――それを手に入れることができる!


「あの世で後悔してろ」


――十分な武器を手にしなかった己を憎みながらな。


 残り一本がオルチェの首へと向かおうとしたときだった。その場で何かが爆発したような音が鳴り響いた。思わず、受け止められていた剣が震えてくる。


――何があったってぇ? その隙を待っていましたぁっ!!


 にたり、と不気味に口元を吊り上げるオルチェ。中年女性が気付いたときは眩しい光が目に入った。列車からの風はもう受けない。なぜならば、彼女がいる場所は列車の真上ではなくて、その下――線路脇だったからだ。何が起きたか、自身のあごに強烈な痛みを覚えた頃には自分を乗せていたはずの列車が追いつけないほどまでに先へと進んでいたのだった。その列車が向かう先に見えるのは――終着駅である新王国の首都『秘匿の都市』である。


 そこで茫然と遠退いていく列車を見つめながら、女性は歯噛みをした。拳を地面に叩きつける。逃げられた。


――これで終わりだと思うなよ。まだ終わっていないんだから!

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