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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第十章 神様の日記と刺客◆
115/263

115ページ

 唖然とする中年女性。そんな彼女を睨みつけるカムラは当然として、珍しくフレイヴも同様だった。なぜにカムラの本を盗ったのか。その真意を知りたくて、「誰ですか?」と不審な目で見ていた。それもそうだ。こんな走行している列車の上まで逃げるなんて。しかも彼女を大事そうに、奪取されないように鞄の中に入れてまで。


 カムラを連れ去ろうとした女性は彼女が鞄を突き破ってまでも、人間の姿になって目を丸くしていた。その表情から読み取れるのは「そんなの聞いていない」だ。


「えっ、人に……?」


 女性にとっては予想外の出来事。だが、こちらの二人もこの現状は予想外だ。まさか、列車内にケレントの手下が潜んでいようとは思っていなかったのだから。


「ババア、バックヴォーンの部下か?」


 相当な怒りを感じるカムラは男の口調でそう言う。そんな彼女の発言にフレイヴは驚いたりしない。なぜって、彼女は元男なのだから。いつもは窘めるが、カムラに便乗するかのように「答えてください」と睨みを利かせる。


「あなたは誰ですか?」


「チッ、ガキが調子に乗るなよっ!」


 とうとう本性を露わにした中年女性は着ていた服からリーチの短い双剣を取り出した。これらの意を言葉で表すならば、力ずくでも奪い取ってやるだろう。そう、奪ってやるから最初はお前から。彼女が狙うはフレイヴである。カムラを先に相手するのは骨が折れそうだ。それならば、凡人そうなそこの少年を殺せば――。


 素早い動き。それはするりとカムラのもとを通り抜けて、銀色に光る刃をフレイヴへと――。


 鋭い金属音。これは何度も聞いたことがある。生き物の体を引き裂く音ではないのは当然承知しているし、この音が何であるかを知っていた。


「あとを追ってみりゃ、ちょっと厄介そうだな?」


 フレイヴの危機を救ったのはオルチェだった。彼はこの時代においては貴重な拳銃を片方の剣に。残りの剣は柄を握っている女性の手を制していた。


「お前はっ!?」


「はいはい、俺が誰なのか当てたら拍手をくれてやるよ」


「フレイヴの手下」


 緊迫感のある状況だというのに、カムラは飄然たる面持ちでオルチェの問題に答えるのだった。そこは彼女が答えるような場面でも――なくはないか。だが、彼にとって、女性以外が答えるというのは面白くないと思っているようで――。


「お前が答えるなよ」


 金属同士の競り合いを行っているのにもかかわらず、律儀に反応を見せるオルチェ。しかしながら、ここで固まっているわけにもいかない。自分は謎の中年女性の相手をしてやるから逃げろと申し出す。


「どうせ、お前たちにとってこのババアは役不足だ。俺の鍛え磨かれたこの肉体で事足りる」


「あー、わかったから。そういうどうでもいい情報は要らない」


「なんだと、この野郎ぉ!」


「ちょっと、カムラ! ぼくたちのためにやってくれているんだから!」


 一言多いカムラを引きずるようにして、二人は退散。その場に残ったのはオルチェと女性のみ。そんな彼らを列車は連れてトンネルへと突き進むのだった。

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