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カムラはどこに連れていかれたのだろうか。なんて考えるアルフレッドはこれで五冊目の偽カムラの本を発見する。明らかな人為的窃盗。その狙いは彼女であることはわかっていた。なぜに彼女を狙う? そうと考えるならば、一人考えられる。
島自治区へと渡る際にフレイヴたちはケレントという裏社会を操る首領を頼ったと聞いた。その際にカムラを渡せと言っていた。しかし、やつの手に行き渡ったはずの彼女は脱走を試みて、フレイヴのもとへと戻ってきた。ということは、だ。ケレントはカムラを奪還しようと考えているのだろうか。
――あいつはお嬢が武器になるってことを知っているのか? 確かにあの武器は強そうだ。実際には見たことはないが、ナズーの体を切り裂いたって。けど、そういう武器を欲しがるかね? 今更。あいつは巨大シンジケートに通じている。それこそ、強力な武器は密造したり密輸入したり……。
考えれば、考えるほど――辿り着くのはカムラの剣のこと。流石にいくらケレントであろうとも、魔王やクラッシャーのことは存じていないだろう。
「うーん、どこにあるんだ?」
アルフレッドが独り言を呟きながら奥の車両のドアを開けたときだった。視界の端に光が入り込んできた。どこかで見たことあるような光。視線を移せば一際目立つ鞄がそこにあった。というよりも、乗客は一人の中年女性しかいない。その女性が持つ鞄は見覚えのある光がある。
「…………」
まさかとは思いたかった。だが、どうもそのまさかのよう。女性はアルフレッドがこの車両に移ってきたことに気付くと、膝掛けを鞄にかけたからだ。それでも、光は眩しいほどに光っているではないか。彼女はどこか焦っているようにも見える。そのまさかは的中しているのではないだろうか。
一応は訊ねてみるか。この女性が何者なのかは知らないが、明らかに鞄の中身が光っていることに焦っている。だったならば、中身を開けて確認すればいいものを。彼女はそうしようとしない。ということはだ、その中にカムラがいる可能性が高い。
「あの、すみません……」
中年女性に話しかけただった。こちらを見た彼女は怯えた表情を見せる。だが、この怯えた顔はバレてしまったとかではない。なぜならば――。
「ひっ!?」
こちらに来ないで、とでも言うように、女性は小さな悲鳴を上げる。ここには自分たち以外の乗客がいないことには感謝している。いや、本当に。
「た、助けてぇ!!」
絶対に隣の車両まで聞こえているだろう。そこまでにおいて大声を張り上げる。思わず耳を塞ぎたくなるほど。
「殺人鬼がぁ!! 殺されるぅ!!」
「いっ!?」
これはいくら何でもまずい。アルフレッドが変装したとしても、次の駅で新王国軍人たちに囲まれたならば――。本当はカムラを取り戻さなければならないだろう。だとしても、この現状を上手く打破できるほどの頭脳を彼は持ち合わせていない。捕まってたまるか。その思いでこの場から逃げ出す。隣の車両へと逃げ込むと、他の乗客が怪訝そうな顔をしているようだった。絶対にあの中年女性の大声が聞こえていたのかもしれない。
ややあって、一人の男性が気になるのだろう。
「あの、さっき向こうで女性が悲鳴を上げていませんでしたか? もし、そうなら、その人は大丈夫なんですか?」
「えっ、あ……い、えっと……」
どう答えたならば、いいのかわからなかった。アルフレッドがまごついていると、そこへ救世主のようにしてフレイヴとオルチェが「何があったんですか?」とやって来る。彼らは二つ隣の車両にいたらしい。そこまであの女性の声は届いていたというのか。素直にすごい。
二人に事情を説明した。自分が殺人鬼だということを伏せて。そうでもしないと、他の乗客たちも状況を知りたいらしい。こちらの方に耳を傾けていたのだから。そして、その中年女性を頭がオカシイ人として通した。これにフレイヴは「わかりました」と頷く。
「えっと、その……ちょっとアレな人だというならば、カムっ……あの本を盗った可能性は高いかもしれません」
そう言うフレイヴであるが、嘘をつくのが下手くそだな、と思っていた。だって、視線が泳いでいるもの。そんなしどろもどろの彼は二人を率いて中年女性がいる車両へと移るのだった。




