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窓の外を眺めても、見えるのは一面の緑。遠くには山々があり、近くは田園だ。時たま、農家の家が見えるぐらい。そんな景色を見て、フレイヴは故郷を思い出すばかり。今頃、自分の家はどうなっているだろうか。あのとき、ナズーの災厄と共に大火災もあった。一度だけ、オルチェとあの青色の建物で出会ったときは――見ていない。見るのが怖かったからだ。
「…………」
ぼんやりと外を眺めるフレイヴに、本の姿であるカムラはそっとページを開いた。それに気付いた彼が開かれたページを見るとそこには――。
『口に出せない思いがあるなら、あたしに書いたっていいんだよ。』
カムラなりの優しさをフレイヴに与えているのである。あの日、自分も一緒にいたからわかる。自分の故郷のことを思い出している、と。別に以心伝心となっているわけではないのだが、なんとなく彼がぼんやりとしているときはそういう風に考えていると察していたのだ。それだからこそ、気遣う。一方でフレイヴはその気遣いに、熱いものが心の奥底から湧き上がってくるのがわかった。同時に目の奥も熱い。なんだか、泣きそうになる。カムラが言うのは『泣きたいなら、泣いてもいいんだよ』という慰めだろう。彼女が書いた文章の下に『ありがとう』と記す。そして、自分が思っていることを書き記していくのだった。
独りぼそぼそとカムラの本に記入しているフレイヴをよそに、オルチェとアルフレッドは別の席から見ていた。
「……フレイヴはただの子どもなんだよな?」
現在、この列車内はほとんどの人はいない。それをいいことにアルフレッドはフレイヴたちでさえも知らないようなことをオルチェから訊き出そうとしていた。光る石像からもっと詳しく魔王の影響のことについて訊きたかったのに訊けなかったから。たとえ、教えてもらったとしても、まだ理解できていないから。
この問いかけにオルチェは「多分」と答えた。
「魔王が『クラッシャー』と呼ぶなら、俺はフレイヴに忠誠を誓わなくてはならん。それがそこら辺にいるガキだろうが、石ころだろうがな」
「なんだか、魔王が世界を回しているっていうような言い方だな?」
「事実そうだろ。神様の日記は魔王が所持していた。見たんだろ? あいつと同じような本を」
それはあのピンク色の分厚い本のことだろうか。そうだとするならば、アルフレッドは大きく頷いた。それを肯定した、ということは――この世界は魔王のための物。そうと考えるならば――。
「それじゃあ、どうしてあんたはあの二人を試そうとした? もしかして、魔王と同等とやらのお嬢に倒してもらいたい、と?」
オルチェにそう問い質すと、にやりと不敵な笑みを浮かべた。それはまるで図星ですと言っているようである。
「もちろん、そうだ。俺とあの女は敵対同士。魔王の存在があいつと同じならば共倒れしてもらいたい」
「そういうのって、どこで知ったんだ?」
「あんたらが見たあの光る石像だよ」
そう、オルチェ自身もあの光る石像に出会っていたのだった。




