思わぬハードル
初級回復薬のレシピと講習でお値段銀貨50枚?
いやいやいや。高い。高いよ。思っていたより全然高いよ。思わぬハードルの高さにびっくりだよ。
所持金じゃ全然足りないぞ。リュックの中の薬草と耳を売っても到底届かないレベルだぞ。
どうしよう…って言っても金が足りない以上どうにもできないよな…。
初級のくせになんと言う高級志向だ。ブルジョワジーご用達か。半端ねえ。練金術半端ねえ。
どこぞのMMOだと無料でホイホイ教えてくれんのによ、この世界は世知辛いなおい。金が全てかおい。
いや、仕方ないのか?知識の安売りはしないのか?リアルガチだとこれが普通か?
「ええと、薬のレシピって、大体こんな感じですかね?」
「え?はい。価格の方ですとマオ様のランクでご紹介できるレシピは概ねこの価格ですが」
マジか。
錬金術ってブルジョワジーが嗜む系の技術なんだな。
「そうですかぁ…。あ、じゃあその中で一番安いやつってなんでしょう?」
「一番安いものですと、解熱薬です。銀貨15枚になりますね」
おおう…一番安いのでもそんなにするのか。
えぇと、色々買ったりしたから手持ちは現金とカードの中のを合わせても銀貨5枚とちょっとだ。
足りない。全くもって足りないぞ。
パンパンのリュックの中身を全て換金しても足りる気がしないぜ。
「薬学のレシピは1度覚えてしまえば生涯使用できますから。レシピを覚え、生業として薬品を作っていくのでしたらすぐに元はとれると思います」
むむむ、と考え込んでいたらお姉さんが仰った。
あ、はい、そう、ですね。
お姉さんの仰る通りだ。レシピを覚えて使わなきゃ高い買い物だが、そのレシピを活用すればその内、元は取れるだろう。
「どうなされますか?」
黙りこむ俺にお姉さんからのクエスチョン。
もちろん俺はこう答えるさ。
「すみません。今日はちょっとやめときます」
ぐう、恥ずかしい。恥ずかしいぜ。
お金が足りないので買えませんって言ってるようなもんだからな。
しかし、しかし無い袖は振れんのじゃ。仕方ないのじゃ。
「そうですか。では、他のご用件はございますか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございました」
「そうですか。では、またのご利用をお待ちしています」
お姉さんのにっこりとした笑顔の向こうに「今度はちゃんと金持ってこいよ」って雰囲気が見え隠れするのは俺の気のせいだろうか。
気のせいさ。
うん、そうさ気のせいさ。おばけなんてないさ。おばけなんてうそさ。
そうと決まればここに用はない。
さっさと退散だ。
さっさかさーと退散だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
錬金術ギルドを後にしてとぼとぼと大通りを歩く。
わいわいがやがやとした喧騒がやけに大きく感じるぞ。
いやー、まさか薬のレシピがあんなにバカ高い物だとは想像しなかったわ。
確かにいつの世も知識は力だもんな。
そうそう安売りはしないよね。そらそうだ。
くそう…回復薬でウハウハ計画があっさりと頓挫しよったで…。どうしようか、と言ってももっとお金を貯めないとどうにもならないな。
午前中でカバンがパンパンになるんだから、午後も森に行って薬草刈るか。
出来るなら行ったり来たりして稼ごう。ゴブリンの耳も貯まるしな。
稼ぎはたっぷりだ。一人だしな…くっ!
うん、頑張ろう。世の中金が全てだからな。ちかたないね…。
とにかく一度冒険者ギルドに行ってカバンの中身を精算しないとな。カバンを空けるのだ。
昼前にカバンパンパンとか言ってられん。
金だ。金を稼ぐのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あら、マオさんこんにちわ!どうしたんですか?依頼受付カウンターは表通りの方ですよ?」
今日も可愛いラウラ嬢が首をかしげながら聞いてくる。うん、可愛い。
「いやぁ、ちょっと買取りをお願いしようかと思いまして」
「まぁ、何か大物でも取れました?こんな早い時間に買取りなんて…。はっ、まさかまたホブゴブリンですか?」
ぬお、ラウラ嬢の期待が重い。
ホブゴブリンとかやめてくれ。周りの先輩方の視線が強くなった気がするから。
「いやいや、ただの薬草と普通のゴブリンの討伐証明ですよ」
「そうなんですか。じゃあどうぞ。あ、ギルドカードもお願いしますね」
「はい、お願いします」
背中に背負っていたカバンをカウンターにどすり。
カバンに隠れてラウラ嬢が見えなくなったので、カバンの脇から耳袋とカードを差し出した。
「………………」
しかしラウラ嬢からの反応がない。
あれ?何だろ、どうした?
「あの、ラウラさん?」
カバン越しに声をかけてみる。
「これ、全部薬草…ですか?お、多いですね?昨日にも増して…」
「そうですか?えぇと…」
「耳もこんなに…?」
いや、ちょっと、何かこの空気やめてください。
いらん注目されるじゃないですかやだー。
「あの…ラウラさん…?」
「いえ!詮索はダメですね!失礼しました!精算ですね!少々お待ちください!」
ガバッと顔を上げたような気配がすると、ラウラ嬢は薬草でパンパンのカバンとこれまた耳でパンパンの耳袋をひっ掴み、カウンターの奥の扉へ走っていった。
何か…気を使わせちゃったかな。
まぁ、良いか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「マオさーん!お待たせしました~」
清算カウンターからラウラ嬢の呼び掛けが響く。
おう呼ばれたぞ。
「はいはいはい」
カウンター前に立つと、ラウラ嬢から空になった薬草カバンと耳袋が返却された。
薬草カバンの中に耳袋をしまって背負うと、銀貨と銅貨の乗ったトレーがカウンターの上に差し出された。
「今回の常設依頼二種類の清算ですね。薬草類がセリチ草、クラウト草合わせて77束で銅貨385枚、ゴブリンの耳が32匹分で銅貨320枚、合計で705枚です」
おおう、今回も良いお値段や。
まぁ、カバンパンパンだったしな。
これからもう少し頑張れば更に資金が貯められるな。
さすがに午前中ほどは刈れないだろうけど。
「それでは確認をお願いします」
はいはいっと。ひーふーみー、っと問題なし。
「大丈夫です」
「確認ありがとうございます。今回の支払いはいかがなさいますか?」
む、あんまり小銭ばっかり持ってても仕方ないな。
重いし、かさばるし、変な輩に付け狙われる可能性もある。
今回は全部カードに入れてもらうか。
「今回は全部カードにお願いできますか」
「かしこまりました。それでは…、はい、確認をお願いします」
ラウラ嬢がちょちょいとおまじないをして、手渡されたカードを手に確認確認確認…と念じてみる。
するとカードの上に文字がぼんやりと浮かび上がるぜ。
銀貨: 9枚 銅貨:95枚
おう、ばっちり入金確認だ。
「あ、大丈夫です。確認できました」
「それでは常設依頼の精算は以上となりますね。他に何かご用件はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。これからまたお仕事ですか?お気を付けて」
にこりと微笑むラウラ嬢。
おおう、君の瞳は百万ボルテッカーやで。
社交辞令とは言え胸に突き刺さるわ。ズキューンてズキューンて。
「ありがとうございます。気を付けていってきます」
緑髪の天使に別れを告げて向かうは我が仕事場、南の森だ。
お日様は、真上からやや西側かな?
昼時は過ぎているようだけど、せっせか頑張れば昨日くらいの量は刈れるはずだ。
稼がねば。ゆっくりまったり生活のために今、若い内から稼いで貯めねば。
手に職つけて稼ぎを安定させねば。
やるぜやるぜ。俺はやるぜ。
刈るぜ狩るぜ。俺は狩るぜ。




