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やーにんじゅ

  翌日、ミナ・ヤマダの運転するレンタカー

 で島の南端のイトマン市から北上し、ナゴ市

 を越えてモトブ町へ3人で向かった。

 

 日中は、橋で渡れるセソコ島のビーチで、

 散々海を楽しんだ。そこは、自然の砂浜が

 残っており、浅い海底に魚がたくさん見える。

 

 3人はそれぞれ思い思いの楽しみ方で、

 セツナ・ムナは大きいドーナツ型の浮き輪に

 仰向けになってひたすら海に浮かんでいたし、

 

 リンゴ・ナナイシは砂浜沿いにひたすら

 泳いで往復していたし、ナミは砂浜に大き目

 のパラソルを立てて、ビーチチェアに寝そべ

 り本を読んでいる。傍らの小さな折り畳み

 テーブルには本が4冊ほど山積み。

 

 空港から遠いためか、人もまばらだ。

 

 このころ、本土の都心では大変なことに

 なっていたのだが、3人は知る由も無し。

 そんなものは別宇宙の話だ。

 

 そこには全く別の時間が流れている。

 

 夜になって、同じ町の海岸線近くにある

 ホテルへチェックインし、ホテル近くの

 リュウキュウ蕎麦の店で夕食をとる。

 

 そのあとホテルで酒盛りをしようということ

 になり、近くのコンビニで酒を少量買って

 帰ることにした。

 

 その少量の酒には、45度のアワモリ、

 750ミリリットルも含まれていて、セツナ

 が少し不安そうな顔をしたが、問題ない。

 

 リンゴとミナの二人は酒豪だ。放って

 おけば一晩でボトルも空くだろう。

 

 ということで、前日の話の続きとなった。

 

「あの本読み終わったら貸してほしいな」

「あ、これ?」

 

 昨日のブリテン国の話を聞いて、早速

 今朝、イトマン市を出て県庁所在地のある

 ナハ市を通ったときに、大き目の書店に

 寄って買ってきたのだ。

 

 ブリテン王国の歴史、地域並列歴史年表、

 各覇権国の歴史、欧州の歴史など関係書籍を

 5冊、ミナが購入していた。

 

「それで、どうなの?」

 

「どうっていうか、ま、弱冠ショック、ての

 はあるかな。だって、たいていの人は自国の

 歴史のほうが好きでしょ」

 ミナが語り始めた。

 

 ヤマト国にも、優れた人物たたくさん出てく

 る歴史上面白い時代もあった。もちろん欧州

 の歴史も多少知っている。

 

 しかし、それらを並列で見ると、中世から

 現代まで、やはり欧州が一歩リードしている。

 それは、あくまで一歩で、何かしら追随でき

 ないていどに大きく離されているわけ、

 ではない。

 

 しかし、その一歩の差が、結果として今の

 現実の世界を見ると、大きく見える。

 

 古くは、ローマ時代の、現代と比較すると

 まだ疑似的、と言えるかもしれないが、民主

 主義の制度の誕生。

 

 宗教改革により利子の概念が認められ、そこ

 から資本主義経済システムが誕生したのも

 欧州。

 

 そういった、生き馬の目を抜くような状況の

 欧州において、さらに一歩抜きんでたブリテ

 ン王国。

 

 その理由はいくつかあるが、あまり褒められ

 たものではない、海賊行為などにより得ら

 れた豊富な資金。

 

 農業改革による人口増加、植民地獲得は巨大

 な市場の獲得を意味し、最新の知識を身に

 付けたジェントルマンを主体とした、国策で

 はなく、民間による先端技術への投資。

 

 いちはやく立憲君主制を採用し、それらを

 強力に推進していく。

 

  一息ついて、ショットグラスに入れた

 アワモリを一口で飲む。

「勝てないね」

 

 と言うミナの言葉に、リンゴも肩をすくめて

 みせた。

「でもやっと、アジアの時代が近づいてきた

 感じじゃない」

 

「いーや、だめだね。今のアジアの発展は、

 ほぼすべて欧州で生まれた技術やシステムを

 使っている」

 そのミナの言葉にリンゴもフフっと笑い、

 

「そこはいいでしょ、むしろ、我々のために

 よく頑張ってくれた、ぐらいに受け止めて

 おけば」

 

「……与えよ、されば与えられん、の精神か。

 ま、いいけど。実際、助かっている部分も

 多いから。そこは否定せんよ」

 

 そこで、アワモリを薄めの水割りにしたもの

 をチビチビ飲んでいたセツナが口を開く。

 

「でも昨日の話はけっこう衝撃的だったな。

 ひい……、いや、前国王の父が、側近独裁に

 よってほとんど身動き取れない状況にあった

 なんてな」

 

「そこはさあ、自分たちが生活している中で、

 ヤマト人が善人ばかりではない、というのは

 当然の感覚だと思うよ、

 

 でも、歴史の中で、実際そうやって、国とか

 国民のことはどうでもいい、という人物たち

 がいて、そして国が崩壊していく、という

 のを見ると、やっぱね……、ふぅ」

 リンゴがため息をつく。

 

「完全に知ってて、悪意でやっている人間も

 いるけど、明らかに善意で動いて、でも

 間違った方向に進んでるひともいるんだよな。

 それだけ純粋と言うか、擦れてないと言うか」

 ミナもはあ、どうしたもんかとため息をつく。

 

 ベランダからの風もあるからか、

 南国の夜は意外と涼しく、彼らが住む盆地や

 都会のまとわりつくような暑さとは少し

 趣きが異なる気がした。

 

「当時は現在よりも王庁に多くの権限が

 与えられていて、しかしそこに実は落とし穴

 があった、とはね」

 セツナの話すのは前日の、前国王が話した

 内容だ。

 

 敗戦前、ヤマト国はヤマト王国だった。

 王室はもちろん今も継続しているのだが、

 より王の実権が現在より強かったのだ。

 

 しかし、そのベースの部分は、ブリテン国の

 制度を模倣していた。立憲君主制だ。

 

 当時の制度では、現在のように内閣が王庁の

 職員を決める権限はない。しかし、当時も、

 王が直接職員を雇うわけではなかった。

 

 人事権が、王ではなく王庁にあったのだ。

 

 では王庁のトップを自分で決めればいいでは

 ないか、ということになるのだが、そこには

 様々な条件が要求されるので、誰でも簡単に

 なれるわけではない。選択肢がなさすぎる。

 

 そうすると、王庁のトップにそういった方向

 性の人間が付けば、王の権力も自由自在、

 とまではいかないが、王の行動がかなり

 制限されることになる。

 

 それが結果として、開戦を止めることが

 出来なかったり、適切な戦略を選択させる

 ことが出来なかったり、といったことに

 繋がったという。

 

 そういった立場の人間には、国内外から膨大

 な資金も流れ込んだのだろう。実際のところ、

 その戦争に関しては王家も受け取ったの

 だけれど、スイス銀行に今も入ってるよ、

 

 といったことまで前国王は話してくれた。

 

  簡単に、善悪、というもので割り切れる

 類の経緯ではないのはわかるのだが、若者に

 とっても、明らかにマズい方向にヤマト国民

 が進み、そして敗戦を経験し、そしてその

 後遺症を引きずっているように、

 

 この国は見える。

 

「それに対する対策も凄い。むしろ執念を

 感じる」とセツナ。

 

 それは当時の国王ヒロトにとって屈辱的な

 状況であったわけだが、王家にとって、王庁

 という制度を背景に、家族というものが

 機能していなかった。

 

 つまり、何をやるにも王庁の職員の助けが

 必要になるのだ。だから、悪意のある人間が

 王や王族を黙らせるのにそれほど手間は

 いらない。

 

 簡単な調理すら、自らの手ではできないのだ。

 そしてそんなことが、国を亡ぼす遠因、いや

 そこそこに直接的ともいえる原因となった。

 

 だから、家族を作った。

 

 ヒロトは、それまで無かった、自分の子ども

 を教育する時間を、週一回ではあるが無理

 やり作った。

 

 そして、皇太子、つまり前国王アキトの配偶

 者に、民間人を選んだ。そこには、王室系の

 女性には家庭を作る力がないだろう、という

 厳しい見方も入っている。

 

 その流れは、現国王ナルトの配偶者選択にも

 繋がっている。

 

「その辺の流れは今の皇太子、えーと誰だっけ、

 エイゴウ、と言ったかな? 続けるのかなあ」

 と、気になるリンゴ。

 

「そのはずだよ。次も民間から選んでるでしょ。

 いずれにしても血統が濃ゆくなりすぎる説も

 あるし」と答えるセツナに対し、

 

「そんな話、公式に出てたっけ。セツナは

 詳しいんだね、自分で調べたりしてんの?」

 というミナの問いに、

 

 急にミナの使っていたショットグラスに

 アワモリをそのまま注ぎ、一気に飲み干す

 セツナ。おいおい大丈夫か、という二人に

 対して意を決した顔で、

 

「だって、うちの家の話だからそれ。

 すまん、ミナ、言うタイミングを探して

 たんだよ、本当に申し訳ない」

 

 まずミナが驚いた声をあげる、

「はあ? てことは私は王家に嫁入りする

 ってこと? ていうか君はいったい王家の

 何?」と多少の酔いもあって支離滅裂になり

 かけているが、

 

 リンゴの方がさらに驚いている。

「はあ? うちの家だ? 嫁入り? 

 誰が? どこに??」

 

 しかたなく、ミナが、自分を指さし、そして

 セツナを指さす。それをほうと口を開けて

 みているリンゴ。

 

「ごめん、わしちょっと酔い醒ましてくるわ。

 ていうかあんたたち確かにあやしいから

 付き合ってんのかなぐらいには思ってた

 けど……、結婚て……」

 洗面所へ向かい、顔を洗い出すリンゴ。

 

「つまりその、おれはエイゴウの双子の

 弟なんだ。そしてね、話すと長くなるんだ

 けど、おれたちが生まれたときに……」

 と話そうとするセツナを遮るミナ、

 

「ちょっと待って、もしかしてその話、

 ナミも絡んでる? ……ああ、エイゴウを

 テレビでも何度も見たことあるのに気付か

 んとは……、我ながら迂闊……」

 

 ナミとは、ミナの双子の姉、ナミ・ヤマダの

 ことだ。今は主にヤマシロ府の大学に通って

 いるはずだ。

 

「あー、何かナミの態度がおかしいと思って

 たんだ、でも色々と事象が繋がってきたよ、

 で、言ってごらん、誰のどういう思惑で何を

 しようとしてんの?」

 

 ……いや、だから前国王も言ったとおり……

 

 セツナはいつの間にかその場に正座して

 いた。そして、説明を始めながらもいったん

 大きな壁を乗り越えた感覚のあとで、猛烈な

 眠気にも襲われていたのだった。

 

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