覚醒
どうやら、リズム、というものが、
あるらしい。
それは、ノブツナ・ヤマダの父、シンジの
話として聞いた。確か祖母からだったか。
ある時、ある武術で、とてつもなく調子が
良くなるのだ。それも、達人レベル相手に。
スピードやパワー、というのは普段と変わら
ない。でも、タイミングが、合ってしまう
のだ。
どうやらその達人のリズムが、ノブヒデにも
起こりかけていた。現実の模擬戦でも、
仮想空間でも、何かが圧倒的に噛み合って
きた。
そうした時に、いよいよ実戦がやってきた。
時は8月の半ば。
ミシシッピ旧州の廃工場を根拠地にしていた
勢力が、アーカンサス、ミズーリを経由して、
民間のトレーラを多数擬装しながら接近して
いる。
オクラホマ旧州の北東部から侵入したその
勢力は、次々と主要な拠点を占拠しながら、
オクラホマシティの中心部、その最終目的と
なる拠点を目ざしていた。
同時に、ある市民団体が、その活動に資金
援助していることを公表するとともに、
連邦政府の復興と連邦準備理事会の再建、
大統領の再選挙などを世論に訴えてきた。
それに対し、侵攻を受けるセントラル新州
政府側は、はっきりとその行為をテロ行為と
認め、対抗する意思と他州、他国への協力を
訴えた。
その訴えに対し、各州、そして各国は様子見
となり、ただ欧州政府のみが、対話を行う
ための仲介役になりたい、といった声明を
出すのみだった。
しかし裏では、軍事力に自信のある20か国
が、セントラル新州へ少数精鋭の特殊部隊
を送っていた。
世界トップクラスの傭兵企業からも支援の
申し出が出ていた。
今回の戦闘が、かなりの良い実戦経験になる、
という風に捉えられているのだろう。歴戦の
猛者たちを吸い寄せる空気が出来つつあった。
旧連邦軍はタルサ市を完全に制圧し、
そこを拠点に各国に要求を上げていく気配を
見せた。
各地のセントラル新州軍は多少の抵抗は見せ
るものの、すぐ、降伏するといった有様
だった。
そして、招集があったのがその夜だった。
いったん陣を固めて長期の抵抗を見せるかに
見えた旧連邦軍だが、その夜のうちに南西へ
進軍し、オクラホマシティを急襲する、
という予測が出たのだ。
オクラホマシティ内のビル、元々何も入って
いなかったフロアに、小隊分の装備が集め
られており、そこに集合する。他の小隊は
おそらく別の場所だ。
深夜になった時点で、議事堂が占拠された
という連絡が入った。
そこから、出動のタイミングを計る。
敵はさらに南下し、ダウンタウン中心部に
あるエナジーアリーナを狙う。核兵器の
制御権を狙ってくる。
それをある程度引き付けたうえで、相手の
司令部を狙い、作戦遂行を停止させる。
議事堂からエナジーアリーナまでの間の、
3か所が示された。そのうちの、丁度
真ん中あたりにある位置が、我々小隊が
めざす位置だ。
機械学習により敵司令部が存在する可能性
が高い地点が時系列で数か所示されている。
深夜ちょうどあたりで、チーム、
ファミリーが先行して周辺域に入る
ことになった。
市内は非常事態宣言が出され、市民が
旧連邦軍と遭遇した場合の安全が保障され
ているわけでもない。
そこから数十分後、エナジーアリーナ付近
での戦闘が開始されたという連絡。
エナジーアリーナ付近では、新州正規軍と
特殊部隊が守っている。
いよいよ反撃が始まった。
セントラル新州正規軍でこちらの重要拠点
を守りつつ、各国の特殊部隊、傭兵、他の
新州軍により、敵を包囲し始めた。
それらの戦力に部隊を対応させた隙を突いて、
義勇軍特殊部隊が敵司令部を急襲するのだ。
が、もし隙を見出せない場合、そのまま
持久戦となる可能性もある。
我々5つのチームは、先行したチーム、
ファミリーを追うかたちで、市内へと
出て行く。
まず北進し、そして東進する。州間道路の
235号を超えるともう戦場だ。その時、
市内の灯りが消えた。
相手は補給線上のすべてのストリート地点
に兵を配置することが出来ていない。
センサーなどの情報も利用したドンピシャの
タイミングで防衛線を抜けることが出来た。
そこから、多少チームが分散しながら、
病院棟が集まるエリアの、目的の建物に
向かう。
チーム、ニンジャは、簡易の暗視ゴーグルで、
真っ暗闇には少し弱いが、視野が広い。
停電した市内を、かろうじて足早に進む。
周辺は大規模な火災のなどは発生しておらず、
混乱もしていない。さすがに旧連邦軍も
市街を破壊することはできず、拠点攻略のみ
をやるようだ。
チーム、ファミリーとの合流地点あたり
で、ファミリーのメンバーが交戦を開始した
らしい。
「チームアタック! 集合!」
チーム、アタックのリーダー、コングが声を
あげ、対処する。ちょうど、ファミリーと
挟み撃ちのかたちだ。問題ない。
そして、この小隊のひとつの特徴が、麻酔弾
だ。それも、化学的ものではなく、自然の
植物などから抽出した成分を使う。
移動中の敵、6名ほどを瞬時に行動不能に
させ、後詰めの救護隊を呼ぶ。
その間にも、残りの4つのチームが目的地に
進んでいた。
目的の建物を目視できる距離になって徒歩と
なっていた6人、ノブヒデがザリアに
話しかける。
「ひとつ北隣があやしい……」
その方向を指さしながら話すノブヒデ。
「わかった、やってみよう。責任は私が取る」
瞬時に決断するチームリーダーのザリア。
4チームをふたつに分け、チーム、アイアン
とギークは元々の、大学付属病院の研究施設
と思われる標的建物、ニンジャとメカが、
北隣の古びたホテルを狙う。
アタックとファミリーもほどなくカバーして
くれるはずだが、待たないで進める。
瞬時にチームリーダー間で突入時刻が専用
アプリにより交わされ、配置に付く。
チーム、ニンジャだけが古ホテルの裏手に
回り、配置に付いた。
正面側は隠れる場所が無いので、チーム、
メカは少し離れた場所から急接近を試みる。
「よし、時間だ」突入開始時刻だ。
古ホテルの窓のひとつと裏手の扉に接近し、
マキシムとジョルジョが軽爆薬を仕掛ける。
そこからきっかり18秒後、古ホテルと
研究施設の正面側両方で、銃撃戦が開始
された。
一方的な火力を浴びせたあとで、両方の
建物側からも反撃が来る。
麻酔ガスのグレネード弾が撃ち込まれ、
白煙が上がったあたりで、扉と窓の爆薬を
爆発させる。
この麻酔グレネード弾も、自然成分を基に
しており、化学兵器禁止条約や生物兵器
禁止条約に触れるかどうかグレーだ。
もとより、相手の殺傷より捕獲を目的と
した兵器なのだ。
都合がいいのは、麻酔成分が空気中ですぐ
薄まるので、撃ち込んだあとにすぐ突入
できるところだ。
ノブツナとノブヒデが裏手の窓から、
マキシムと残りの3人がその近くの扉から
突入する。
転がり込んですぐ、二人の人影、ノブヒデ
がふわりとした動作、
棒手裏剣がふたつの方向に飛び、ふつう
なら絶対に狙えないような、装甲の薄い
皮膚の露出部をかすめる。
そこはホテルフロントの裏手の部屋。
ひるんだそのうちの一人を、ノブツナが
カスタムの麻酔銃で動作不能にする。
もう一人をノブヒデが、麻酔ナイフで
数か所切りつけ、後ろに回り込んでいた。
「ヒデ!!」
さらにもう一人が床にいた。
拳銃で狙いを付け、発砲したが、外した
ようだ。ノブツナが、すぐ飛び掛かる。
そこへマキシムも走り込んできた。
ノブヒデが制していた相手に、手に持った
小型マシンガンを突きつけ、
「停戦させろ、勝ち筋はもはや、無い!」
低い威圧感を感じさせる声音。
その男は、頭を抱え、その場で膝を付いた。
ノブツナには、その男が司令官かどうか
判断が付かなかったし、おそらくマキシムが
カマをかけているのかと思ったが、ノブヒデ
の表情もどうやら確信がある風。
とにもかくにも、その男がどこかに通信を
入れたのち、少なくとも近辺の銃撃音は
やんだ。
2階を制圧しにいったザリアとジョルジョ、
アントナンの3人も戻ってきた。上には
さらに多くの敵隊員が居たようだが、制圧も
済んで、あとのことはチーム、メカに任せた
らしい。
男は、泣いていた。
泣きながら、我々は、もはや特殊部隊でも
何でもない、みんな、去っていった、
というようなことをボソボソと呟いていた。
もうその次の日から、テレビが
うるさかった。
ヒュー・ウェア元帥と、ユリウス・コーク
「中佐」が、画面の向こうで吠えていた。
特に、作戦全般を構想したとされる
コーク中佐のコメントが多かった。
「今回の作戦では、州正規軍のみでなく、
義勇軍も大きく貢献してくれた。まさに
セントラル全州が協力してくれた。
しかし、実態としては、ほぼ私一人の
勝利だ。旧連邦軍は、あれだけの力を誇り
ながら、私一人の頭脳に負けた」
相変わらず歯の隙間から空気の漏れる気の
抜けたような喋り方だが、言っていることは
あながち外れてもいない、らしい。
敵特殊部隊の主力部分は、ユリウスが臨時で
作った傭兵会社に引き抜かれたらしい。敵軍
部隊は、急場の追加隊員を無理やり用意して
の作戦となったようだ。
それでも旧連邦軍が作戦を実行したのは、
吊るされた餌がおいし過ぎたからのようだ。
加えて、空軍の支援も期待していたようだが、
ユリウスは、そこも想定して、決行当日に
裏切るように段取りしていた。
若干20歳を超えた程度らしいのだが、時代
は時にこのような人材も生み出すらしい。




