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コーチング

  北米大陸でリーグオブミソロジーという

 ゲームの世界大会決勝が行われた後のこと。

 ハロウィーンの翌週。

 

 ヤマト国に住むノブツナ・ヤマダのお金持ち

 の知り合い、セツナ・ムナから連絡があった。

 

 ヤマト国の代表チーム、ラストサムライゲー

 ミングのボットキャリー、すでに引退を宣言

 したが、ユトリセダイ選手がサラ・レッド

 フィールドのために個人レッスンを行うと

 いうのだ。

 

 サラは、まずチームメイトのコーネリアス・

 マクマホンと相談した。ユトリセダイが言っ

 てきている話は、ポジションチェンジを伴う

 からだ。そして、それに対して、パソコン部

 としては少し慎重になっている。

 

 というのも、パソコン部として来年の春に

 行われるハイスクールの大会に出場すること

 になったからだ。5人目のメンバーとして、

 ルファ・ブルダリッチも入部済みだ。

 

 ヤマト国とワシントン連邦では時差があるの

 で、早朝や深夜にカスタムゲームやトレーニ

 ングモードで一緒にプレイする。

 

 ただし、ユトリセダイはブリテン語が得意で

 はないので、ノブツナや弟のノブヒデが通訳

 する。

 

 するとわかってきたのは、サラがかなり慎重

 な性格であるということ。そして、ボット

 キャリーになるうえで慎重さが一番要求され

 る、ということだ。

 

 ただ、才能として開花させるには、ただ慎重

 なだけでは駄目らしい。最終的に、ぎりぎり

 の状況で飛び込んでいく勇気がいる。

 

 それを掴むには、散々な結果になることを

 覚悟のうえで、飛び込んでいく練習も必要、

 ということのようだ。

 

「ボットキャリーのキャリー、というのは、

 試合を運ぶ、という意味があるんだよ。

 つまり、ボットキャリー向きのヒーローは、

 試合を決めるだけのポテンシャルがある、

 

 ただ、その分序盤が弱く設定されているのと、

 遠隔での攻撃力がある分、試合通して防御力

 が弱い」

 

 その言葉を、ボイスチャットで同時に通訳

 していく。だが、練習マッチなのでノブツナ

 もゲームに参加している。勝負にこだわる

 必要はないが、なかなか忙しい。

 

「キャリーは、もちろん慎重さや冷静さが求め

 られる。キルを無理に取りにいくのではなく、

 ミニオンのラストヒットをとってコツコツと

 お金を稼いで装備を整える、

 

 相手がどのスキルを使ったかを冷静に見る。

 特に、必殺技スキルはクールダウンの時間も

 覚えておく。いつ攻撃に移っていいかを

 とにかく見極める、

 

 だけど、けっきょく一番重要なのは、行ける

 と思ったときに飛び込む勇気と判断力なんだ」

 

 ヤマト語と、ブリテン語をはじめとする欧州

 を起源とする言語は、構造からしてだいぶ異

 なる、とノブツナは感じている。所々、翻訳

 が非常に難しいのだ。

 

「実は、僕がこのゲームを始めたころは、

 ボットキャリーはほとんどやらなかったんだ。

 実は僕は中学のころからいじめられていてね、

 それで、現実逃避の意味でこのゲームを

 始めたんだけど、

 

 序盤に弱いボットキャリーは、なんだかいじ

 めを受けている現実を思い出してしまって

 嫌だったんだ。

 

 だけど、ゲームをやっているうちに、それで

 も序盤我慢して勝っていくキャリーたちに

 出会うんだ。それは、カッコよかった。

 

 そして、そのうち自分でもそういうことを

 してみたいと思うようになって、そしてある

 日触ってみた。そしたら、思った以上にいい

 結果が出た。

 

 自分の力で、ゲームを変えることができる。

 

 そして、それ以上のことに僕は気づいた。

 それは、ゲームだけでなく、自分の人生を

 変えることができるかもしれない、という

 ことに」

 

 ボイスチャットの向こうの、ユトリセダイの 

 声が少し震えている。

 

「そう、僕は人生を変えることができた。思い

 切って飛び込めば、人生は変えられる、自分

 のプレイひとつで、未来を切り開くんだ!」

 

 トレーニングモードが終わり、意識が部屋の

 リビングに戻ってくる。平日の早朝。

 

 サラがこちらを向き、にっこり笑う。が、

 目に少し涙が溜まっているようにも見えた。

 

 

  けっきょくその後、ノブツナとノブヒデは

 彼らのゲームチームのコーチに任命された。

 オフィシャルではなくボランティアだ。

 

 チーム名も、イニシャルダイアモンドプロ

 ジェクトと決まった。

 

 ノブツナとノブヒデの担当は、ゲーム内容に

 関するコーチングというより、ゲームの

 パフォーマンスを上げるための体づくりの

 コーチングだ。

 

 それで、ハイスクールの授業が終わるころに、

 二人で学校まで出かけて行く。二人とも、

 よせばいいのに武術の稽古に使用する道着に

 袴姿だ。

 

 そして、体育ジムの片隅を借りて、5人の

 メンバー相手に主に体幹を鍛える武術の

 トレーニングを行う。

 

 このトレーニング、まず、見た目にあまり

 かっこのいいものではない。そして、地味に

 つらい。慣れないうちは、何か力の入り

 づらい動きを強要されている気分なのだ。

 

 理不尽なつらさ、というべきか。

 

 マットに仰向けに寝転がり、足を蹴り出し

 たり、足を回転させたり、屈曲して足を

 頭側へもっていった状態で足を蹴り出し

 たり、

 

 腹ばいの状態から片方の足を支点にもう

 片方の足をくぐらせて仰向けになったり、

 変な腕立て伏せをしてみたり。

 

 そういったことをおかしなアジア人ふたり

 に指導されながら、5人は黙々とこなす。

 まわりには他の生徒の目もある中で。

 

 ゲームのパフォーマンスを上げるために

 体を鍛えることが有効だ、ということは

 この時点でかなり実証されていた。

 

 だが、どういったトレーニングがより有効

 なのか、という点はまだまだ明らかになって

 いない部分が多い。

 

  休憩を挟みながら1時間半ほどトレーニン

 グを行うと、その後部室へ行って、戦略を

 練る。

 

 一応パソコンの台数もあるのでゲーム自体を

 プレイできなくもないが、やはりそれ以上に

 事前に戦略を練ることの方が大事だ。

 

 その際参考になるのはやはりプロの試合だ。

 それぞれ分担を決めて、各地域のリーグを

 研究する。

 

 しかし、その日はそれ以上に重要なこと、

 ポジションチェンジについての話し合いが

 行われた。

 

「経緯はだいたい分かってもらったと思うん

 だけど、それぞれの意見を聞こうか。

 ルファはどう思う」

 癖の強い髪を短く刈って来た黒人のガリレオ

 ・ムーアが仕切っている。

 

「私もまだ新参で、新チームでまだ10試合も

 やっていない状況だけど、ヤマト国の元プロ

 が直感で感じた、というのは興味あるわ」

 

 その後に続いた、私もプロを目指しているか

 らチームが強くなるのはウェルカムよ、

 という言葉はそこにいるメンバーにとって

 初耳だった。

 

 ガリレオはそこには触れずに進める。

「誰がボットレーンに来ようが、勝たせるのが

 遊撃手の務めだよ」

 そう答えるのは髪を肩ぐらいまで伸ばし、

 最近のトレーニングで少し体も引き締まった

 ように見えるケノービ・ミント。

 

「まあしばらく試してみるのもいいと思う。

 ダメなら戻せばいいだけだし」

 そう答えるのはサポートに変わる予定の

 コーネリアス・マクマホン。

 

 最後にサラの意見を聞くと、

「ごめんね、実は私も最近になって、プロを

 目指したい、とそう思ったの。もちろん、

 今のこんな実力じゃあ全然話にならないこと

 はわかってるよ。でも、何と言うか、一度

 それを言葉にしてみることに意味がありそう、

 って思ったの」

 

 という言葉に、男子の3人もついに吹っ切れ

 たのか、実はおれたちも、プロになって金を

 稼いで、3人で会社を始めよう、って話を

 けっこう前からしてたんだ、と告白した。

 

「しかしなあ、プロの道は本当に厳しいぜ?

 死ぬほどつらいトレーニングを君たちは

 これからこなしていけるのか?」

 

 というノブヒデの言葉に、もちろん、と5人

 とも答えて、それぞれ、ノブツナも含めて

 握手とハグを交わしていく。

 

 この国の人間の、こういう気軽さは、実際

 その後の結果がどうなるかは置いておいて、

 ヤマト国の人々にはあまり見られない良い

 面ではないかな、とノブツナも思った。

 

 いつの間に来ていたのか、顧問のマルコ・

 カステラが部室の入り口あたりで微笑み

 ながらその様子を見ていた。

 

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