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「側に居なくて。あんなこと言わせて」
あんなこととは一体何のことか。思い当たる節を探ってみて、オルカは思い切り固まる。そういえば、大分恥ずかしいことを言った気がする。
「貴方が守ってくれるって話よね?」
「それ以外何が」
「あ、あれは別に一緒に居たいとか、そういう意味ではないのよ」
「当然だろ」
あっさりと切り捨てられ、慌てていたオルカは自分が恥ずかしくなってくる。クラウスがしてくれる事に、一挙一動はしゃいでいる自分が馬鹿みたいだ。
「それ、今日の分の詫び」
「そうなの?大切にするわ」
「じゃ、俺行くから」
「明日は、こっちの役職に戻るのよね?」
まだ、期待してる。
何を彼に期待しているのか、オルカ自身も分かっていないけれど。
少しでも一緒に居たいと思うのは、いけないことなのだろうか。この感情は、ずっと押し隠していないといけないものなのだろうか。
この感情は、クラウスにとって迷惑なのだろうか。
ぐるぐるしたまま、だけど真っ直ぐにクラウスを見つめた。そんなオルカに彼もまた複雑な顔をした。
「午後から、だけど」
「次のお詫びは、髪留めがいいわ」
「お前はそれ目当てかよ」
「さぁ?どうかしら」
少しおどけてみせると、呆れたような顔をさせて。
クラウスが出て行って、扉がやけにゆっくり閉じられていく。そこにはすでに彼の姿はない。
「どうすればいいのよ」
ぽつりと呟いた言葉に返事は返されない。この感情の名前が恋なのかすら、オルカには分からない。
「姫様?もう起きたの?」
遠くからシュバルツの声が聞こえて、オルカは目を開ける。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。そういえば、午前中は彼が専属の騎士だった。
「姫様、居るの?朝食会と見送りが残ってるよ」
返事をするのさえ億劫になった。
朝食会も見送りもさぼって、鍵姫さえも辞めてしまいたい。こんなに思いを詰め込んだままではきっと、何もかも上手くいかない。
仕切りの向こうでは、シュバルツが騒いでいる。恐らく部屋に居ることは普通にばれている。
「珍しいよな、こんなこと。姫様どこか調子悪いの?」
「......苦しいの」
毛布をきつく抱き締めた。
本物の鍵姫になろうと思っている人が、こんなではいけないのに。どんな逆境も乗り越えて、完璧に何でもこなしてこそ鍵姫の理想像なのに。
どうして自分は、こんなことで立ち止まったり悩んだりしてしまうのだろう。ある程度は割り切ればどうにかなるのに、この感情は割り切れない。
「ごめんなさい、今行くわ」
「急いでよ、もう時間迫ってるから」
起き上がってドレスを着替える。髪を梳かしながら、鏡に映る自分の顔に笑った。ベールを被ってしまうから、何とかなるだろう。ふと、貰った飾りが目に入るも付けるのを止める。仕切りを片付けて、急かされるまま朝食会へ向かった。
「おはようございます、姫様」
「おはようございます」
衝立の中に入り、ベールを外す。飾りをつけていないそれは、どこか寂しそうに見えた。まるで自分の心を透かしているようだとオルカは思う。
「シュバルツ」
「あれ、クラウス?」




