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「訂正。そういうのを纏めて馬鹿って言うんだ」
「そう思っているなら、どうして戦ったりしたの?」
話が降り出しに戻る。聞かないでおくと言ったのに、これでは矛盾している。案の定、言われてしまった。
「聞かないんじゃなかったのか」
「言葉の綾よ」
「特に意味はなかった。そんなものだろ」
「それでは、騎士として戦ったわけではなく、ただの喧嘩ってことね」
両腕の手当は一通り終わった。額と足のどちらを先に手当しようか考えて、血が止まる気配のない足を手当することにする。
オルカは、箱を覗き込んで軟膏と包帯の残りを考える。あまりに使用箇所が多過ぎて、これでは足りなくなりそうだ。
「こんなに大怪我してる方を手当するのは、久し振りだわ」
「久し振り」
「居たのよ、ここへ来る前に。貴方みたいに無謀で無茶をしていた方が」
「そいつも馬鹿なんだな」
嘲笑するクラウスにオルカは苦笑する。複数対一とはいえ、ここまでやられた事が悔しいのだろうか。そういえば、あの時に手当した人とも同じような会話をしたっけ。
そうこうしている内に、足の手当も済んで額の手当に入る。気をつけて手当しないと、額は脳に近いから今後何か後遺症が起こるかもしれない。そう思うと自分の手に全てが掛かっていると言う事に気付いてしまい、その手が震えた。
「オルカ」
「え?あ、なんでもないの。後は額だけだから、もう少し我慢して」
大丈夫と心の内で自分に言い聞かせて、オルカは深呼吸する。片手でドレスの裾を掴みつつもう片方の手で、額の血を拭った。
「怯えるほどの怪我じゃないだろ」
「......怯えてなんていないわ」
この言葉は自身に言い聞かせたのか、クラウスに言ったのか。
こんなことで怯えていては鍵姫にはなれない。そう割り切ったオルカは手早く手当を済ませ、ようやく息をついた。
「終わったわ、どこへなりと行っていいわよ」
「急に扱い雑になったな」
「何か用事があって行くところがあったのではないの?」
何とか足りたものの、残り少なくなった包帯と軟膏を箱にしまう。元々いくつか入っていた軟膏の瓶は、丸々ひとつ空になってしまった。大きめの物を入れておいたはずなのに、それだけで怪我の大きさを物語っている。
「瓶が空になるの初めて見たわ」
「そりゃ驚きだな」
「自分の怪我でしょう、少しは気にしてよ」
「別に興味ない」
抑揚のない声でクラウスが言う。こちらがどれだけ心配したか、オルカの気も知らないでそれは少し酷くはないか。
「また襲撃されたんだってな」
「わたしか使者の方々、どちらを狙ったのかは分からずじまいだったけど」
「そんなの両方だろ」
当然、とでも言いたげなクラウスは、椅子の背もたれに頬杖を付いて暁の方向を向いている。
箱をクローゼットに戻したオルカは、適当に椅子に座ると紅茶を淹れるため盆を引き寄せた。
「どうしてそう思うの?」
「どうも何も普通に考えれば分かるだろ」
他国の使者を狙って時機よく命を救ったりしたら、それこそ英雄物だ。一方で目の上の瘤となっている鍵姫が消えれば、しばらく国は混乱に陥る。そこに漬け込んで、上手くいけば国を好き勝手出来るというもの。
英雄扱いされれば、当然鍵姫が消えた国の中も好き勝手動かしやすくなると言うものらしい。
「一石二鳥ってことね」
「まぁ、証拠がない以上は憶測に過ぎないが」
「それなら、今日の意見交換会のことも納得が行くわ」




