・
ベールを外して寝台に思い切り横になる。リスタと話した事で、自分が今までどれだけ気を張っていたのか知ったし、肩の力も抜けた気がする。
「またお話したいな」
着替える為に立ち上がり、クローゼットを開ける。聞き逃してしまいそうな程、小さな音が聞こえたのはその時だった。
不規則なその音は、少しずつこちらへ近づいてくる。一瞬動きを止めて固まったオルカは、頭の中で葛藤する。
「いつまでも臆病になっていては駄目。そうよ、少し扉を開けるだけじゃない」
扉の前まで来て、取っ手に手を掛けては引っ込めるを繰り返す。本来なら聞こえなかった振りをするなり、布団を被って息を潜めていればいい。
けれど、この扉はどうしても開けないといけない気がした。
「少しよ、少し。ほんのちょっとでいいのだから、何も難しいことではないわ」
深呼吸をひとつ。
胸に手を当てて、もうひとつ。
取っ手に手を掛けて、おまけにひとつ。
今度こそ、そう意気込んで取っ手を引く。しかし、オルカが引く前に外側から扉が開いてしまい、思い切り中に飛ばされる。尻餅をついたのに、上手く均衡を取れなかった足首が痛い。
一体誰が訪れたのかと顔を上げたオルカは、目を見開く。頭が真っ白になって言葉なんて出てこなかった。
「クラウス......?」
「何で、お前が」
「理由を聞かれても、自分の部屋に戻ってきただけとしか言いようがないわよ」
「行くべき部屋間違えた」
何とも言えない顔でクラウスが部屋を出て行こうとする。そこを引き留め、オルカは小さな箱をクローゼットから取り出した。
今の彼をこの部屋から出す訳にはいかない。夏服の騎士制服は既に原型を留めていないし、額からは血が流れている。数え切れない程の怪我が、クラウスの体を支配していた。
「どこへ行こうとしていたの?」
「いいから離せ」
「お生憎様、手当が終わるまではどこにも行かせないわ」
襲撃されることが常となりつつあるからと、あらかじめ薬などを用意して置いたことが功を奏した。怪我の手当は慣れている。あの頃は何でも自分ひとりでこなさなければならなかったから。
とにかく、テーブルと組みになっている椅子を引っ張ってきて座らせる。間違えてこの部屋に入ってきてしまったことを後悔しているらしい仏頂面のクラウスは、手当をしようと箱から包帯や薬を取り出してテーブルに広げはじめたオルカと目を合わせようとしない。
「よく骨までやられなかったわね」
「だから手当なんか必要ない」
「駄目よ、深い傷も沢山あるじゃない」
抉れている部分から軟膏を塗りつけていく。流石に染みるらしく歯を食いしばる姿を見たオルカは、ため息をついた。
「申し訳ないけど、痛くないようには手当出来ないのよ。もう少し我慢してね」
「こんなのほっときゃ治る」
「悪化するだけの間違いね」
ここまで往生際の悪いクラウスは、初めてかもしれない。だったら、最初から怪我をするなと言いたい所だったが、騎士は怪我をするのが職業みたいな部分があるから、そんなことは言えない。
「一体どうすればここまでの怪我になるのよ。拳銃を使っていないみたいだし、丸腰の不審者と戦ったの?」
「丸腰だったらこんな怪我するかよ」
「詳しくは聞かないわ。でもいくら強くても、複数人を相手にするなんて驕りか無謀よ」
包帯を巻きながらオルカは言う。王宮騎士団で一、二を争う程の強さを持つはずの彼が、一対一で戦ってここまで手負いになるとは思えない。例えクラウス以上の相手だったとしてもだ。そんな相手と戦ったとしても、お互いの強さはある程度図れるだろうから、怪我も少なく抑えられるはずだ。
それを聞いていたクラウスは、顔を仰向けて髪をかきあげ手で自身の目を覆う。
「驕りでも無謀でもあるかよ。そう言うのは、一言で馬鹿って言うんだ」
「同じようなものじゃない」




