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「一体誰の......?」
貰った記憶もないそれを手の中で転がしながら、オルカは考える。蒼とその同系色で作られたそれは、少女達が好んで身につけそうな代物だ。
そういえば王宮で暮らす前に少女向けの店で、こんなような物を見た気がする。日々の暮らしで精一杯で買っている余裕などある訳もなく、結局買わなかったけれど。
「姫様?使者の人達も無事だって」
「よかった、この後は食事会の予定になったいたわね?」
「姫様、それ似合ってたよ。クラウスもそういうの見立てるの上手いよね」
突然扉を開けて入ってきたシュバルツが、目ざとくそれを見つけて言う。それを聞いたオルカは、目を見開く。
「そう、なの?」
「姫様、それも知らないで付けてたの?!」
「だって、直接渡された訳ではなかったのよ」
今朝のあれはそういう意味だったのか。頭に触れた時にこれを付けてくれたと理解して再び頰に熱が集まる。嬉しくて少しこそばゆい。
ベールを被って貰ったそれを付けて、オルカは部屋を出る。
「お礼、言わないといけないわね」
「姫様、会場こっち!そっち違う!」
会場は、料理の熱気と香ばしい匂いで一杯だった。やはりここでも迷信が関わってくるらしく、鍵姫専用に特別に衝立が用意されている。その中に入るとベールを外した。それと同時に外から呼びかけられて、顔を上げる。
「鍵姫さま、わたくしアフィルトの娘でリスタネーラと申しますの。一度、鍵姫さまとお話してみたくて」
「そうなのですか、宜しければ中にお入りになって」
「え......ですがそれでは、鍵姫の記憶が」
「そういえば、そうでしたね。残念だわ」
声からして、同い年くらいだろうか。そう考えると話をしてみたくなって、つい漏らしてしまった言葉だったがそれは無理だった事を思い出す。実際前世の記憶がある訳ではないから、記憶が消えることも存在が消えることもないのだけれど。
どうすれば、きちんと向かい合って話が出来るのだろう。
どうすれば、他の少女達の様になれるのだろう。
「鍵姫さま?どうかされ、きゃあ」
「え?!」
何も言わなくなったオルカを心配したリスタネーラが声をかけた時だった。バランスを崩して転んだらしく、出入り口となっていた布が捲れて少女が姿を見せる。
「あ、鍵姫さま?!」
「落ち着いてください」
「わたくし鍵姫さまのお姿見てしまって......どうすれば」
「リスタネーラ様、落ち着いて」
名前を呼んで肩を掴めばようやく落ち着きを取り戻したらしく、リスタネーラが不安げにオルカの腕にしがみつく。
「わたし、記憶消えていないですよ。ですから、ご安心なさって」
「本当ですか?」
「あれは単なる迷信ですから、何も心配しないでください」
リスタネーラは、貴族特有の派手な顔立ちで艶やかに光る真っ直ぐな金髪の持ち主だ。
そんな彼女はすぐにオルカの前に座ると、笑顔で話をしてくれた。
「鍵姫さま、わたくしの事はどうぞリスタとお呼びください」
「えぇ、よろしくお願いしますリスタ」
「鍵姫さまは、珍しい色の瞳をお持ちのようね」
何処か高飛車な口調でリスタが言う。これは褒めてくれているのか皮肉を言われているのか分からない。
先ほどまでの、よそよそしい態度は何処へ行ったのか。
「えっと、ありがとうございます?リスタの髪もとても綺麗だと思います」
「わたくしのは当然よ、それなりに気をつけていますのよ」
「それは大変でしょうね、でもそれだけ大切にされてるのですね」
「当たり前ですわ、ところでわたくし達、対等にお話ししてもよろしくなくて?」
言われてみればそうかもしれない。立場は違えど、歳はそう変わらない。普通の少女達が友達同士で盛り上がるの同様、リスタともそうなってみたい。
「そうですね、ではわたしの事も鍵姫ではなく、オルカとお呼びください」
「オルカと言うのね、分かったわ。ではオルカ、わたくしの友人となりなさい」
「はい、喜んでリスタ」
そんな宣言を交わし合うも、後からおかしくなって二人は笑い合う。ここ最近は気を張っていることが多かったから、オルカにとってはいい息抜きになった。
「その飾り今流行っているものね、オルカが自分で選んだのかしら?」
「これは、頂き物。だから大切にするつもりよ」
リスタが指差したのは、ベールに付けている飾りだ。話によれば貴族の娘達の間でも流行っているらしく、最近では手に入れるのも難しいと言う。
「恋人から、かしら?上流貴族達では流行りも何も無いから、ご機嫌取りで贈ったものではなさそうね」
「恋人......?」




