序章
序章
王宮のある一部屋は、少し歪だった。
何せ、広過ぎるくらいの部屋は丁度半分で背の高い仕切りに区切られている。その仕切りの内と外で、姫と騎士が互いの姿を認めぬまま、話をしていた。
否、姫が一方的に語っていると言う方が正しいか。
「好きな人が出来たの」
少し弾んだ声でセリスは言う。その手元では何を作っているのか、針が布上を踊りまわっている。
「一度しかお会いしたことがないのだけれど、試しにお手紙差し上げたら、すっかり仲良くなってしまって」
話し相手であるはずの騎士は、返事どころか相槌さえも打たない。しかしそれが、日常茶飯事だと知っているセリスは淡々と話を続けた。
「こんな息苦しい所、早く抜け出して僕のところへおいでって言ってくださったのよ」
「セレスティアーナ様、会議の時間です」
何の興味も無さそうな声が、セリスの耳に届く。針仕事を一旦止めにして、顔を隠す為のベールを被った。
「本当に無関心ね、好きな人とか居ないの?」
「居ますが、それが何か」
ベールを固定し、ドレスを整え立ち上がる。どうせ居ないと答えると思い込んでいたセリスにとっては皮肉を言ったつもりだったのだが、何気なくその会話を反芻し仕切りを移動させて部屋を出た辺りで動きを止める。
「意外だわ......どんな方なの?」
「臆病ですが、優しい人でしたよ」
部屋から会議場を目指すセリスは、前を歩く騎士が振り返らずに何かをちらつかせたのを確認した。メイドやら使用人達とすれ違う中騎士の意図に気づいた時、気に入っていたガラス玉のコサージュが廊下を転がっていく。
コサージュが目指しているのは、王宮外。
「貴方、そんなことしたら」
「ご時運を」
笑いもしない騎士の無表情に見送られ、セリスはコサージュを追いかけ城外へ消えていった。




