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第十三話 1/4 「鉄の巨人」

 狼の夜から、五日が経った。


 いつものように冒険者ギルドに顔を出すと、受付嬢と窓越しに目が合った。トクナが会釈すると、慌てたように受付嬢が外へ出てきて、深呼吸すると、


「《ダスト・エッジ》の皆様ですね。今日は正面からではなく、裏口からお入りください」


 と機械的に言った。


 理由を聞く前に、視線で誘導される。ギルドの横の路地に回ると、目立たない木の扉があった。受付嬢とそこまで歩くとコンコンと2回叩いて開けた。


「ギルドマスターがお待ちです」


 トクナは前に出そうとしていた足を止め、思わず身構えた。





 ギルドマスターの部屋は質素だった。


 地図と書類が積まれた机、窓のない壁、椅子が三脚。飾り気がない。


 ギルドマスターはすでに椅子に座っていて、三人が入ると丸まっていた地図を広げて文鎮がわりに剣を載せた。


「ここのところの異変について、調査の結果を伝える」


 地図にはダンジョンの構造が描かれていた。三層までは以前の調査で把握していたが、その下に新しい層が書き加えられている。四層、そして最深部。


「え、俺たちにですか?」


 トクナは質問したが、ギルドマスターは特に答えず、


「質問は後で」


 とだけ言った。それ以上、私語を挟ませない威圧感があった。


「四層の最奥に、これまでと異質な反応がある。複数の調査隊を送ったが、いずれも手前で撤退している。ここに原因があるのは間違いない。強制はしないが、前回の件でお前たちの実力は見せてもらった。ギルドとしては君達に任せたい」


 トクナはリナとセラを見た。


 冒険者ギルドの調査隊が途中で帰ってきているということは、相当な手だれがいるか、特殊な能力がないと見つけられないギミックなどが行手を阻んでいる、と考えるのが普通だ。いくらなんでも荷が重い、そう考えたのはトクナだけではないようで、リナとセラも困った表情をしていた。


「当然、調査隊が達成できなかったことだ。君たちだけに頼むわけではない」


 ギルドマスターが続けた。


「今回は合同で動いてもらう。複数のパーティーで対処する規模だ。そのリーダーをお前たちに任せたい」


「俺たちが」


「異論はあるか」


 トクナは少し考えた。異論というより、実感が追いつかない。《ダスト・エッジ》はまだまだ結成したばかりで経験も浅い三人だ。ギルドに集まった冒険者たちを率いる立場になる。


「できればお受けしたいですが、自分たちが務まるとは……」


 思わず下を向いて口籠もるトクナに、


「だ、そうだ」


 その声はトクナの後ろにかけられた。いつの間にか、そこに一人の男性冒険者が立っていた。トクナは男の顔に見覚えがあった。


「俺たちの推薦だ」


 ニカっと笑った。男は廃坑でトクナが助けたパーティーのリーダーだったゲイルという名前だった。


「来いよ」


 ゲイルは冒険者ギルド内に続くドアを開けた。トクナは誘われるまま着いていく。





 表のフロアに出ると、冒険者たちが集まっていた。


 十五人ほど。顔ぶれを見ると、廃坑の生き残りのパーティー、狼討伐で一緒だったパーティー、今回の調査依頼で動いた面々が多い。初めての顔もあるが、全員がトクナたちを見た。


「《ダスト・エッジ》がリーダーとのことで」


 廃坑で会ったベテラン冒険者が口を開いた。異論ではなく、確認の口調だった。


「よろしくお願いします」


 トクナは思わず頭を下げる。


 それだけで場が決まった。全員が手をたたき、歓声を上げる。歓迎されていることが肌で感じられた。


 ただ、トクナは少し落ち着かなかった。横目でリナとセラを見ると目が合った。


 リナが隣で小声で言った。


「似合わない顔してるぞ」


「似合わないのはそうだ。リーダーを任されたのは小学校の発表会以来だよ」


「やるしかないだろ」





 四層は深かった。


 三層までとは空気が違う。湿気が増し、壁が黒ずんでいる。松明の炎が小さく揺れる。地形感知を使うと、構造が複雑に入り組んでいるのがわかった。


 調査隊が相当綿密に調べていたようでほとんど敵もおらず、すんなりと奥まで到達した。


 一時間ほど進んだところで、壁に当たった。調査隊の報告ではこの先に空洞があるとのことだったが、魔法か何かで塞がれており、それ以上進めないとのことだった。


 だが、トクナにはすぐに答えがわかった。


 ある。


 視界の端に宝箱が見えていた。他の冒険者たちは見えていないようだった。ミミックでないことも確認し、宝箱を開くと、溶けるようにダンジョンの壁が消えていった。


「どうやったんだ?」


 トクナは説明するか悩んだが、開けた宝箱はすでに消えており、


「この辺を触ったら壁が消えた」


 と答えるしかなかった。




 それはそこにいた。


 直接見なくてもすさまじい重圧を感じ、冒険者たちは緊張で口数がぱったりとなくなった。


 視界に入る。


 二足で立つ、人の形をした金属の塊。高さは四メートルほど。胴体も腕も脚も、表面に岩石や金属鉱石がそのままくっついているような見た目で、整った形をしていない。歩くたびに石が擦れ、ボロボロと表面から金属のようなものがこぼれるが全く気にしていない。目に当たる部分に赤い光が灯っていた。


「人型だ」


 リナが言った。


「ゴーレムとは違う。あれは石と土だったが、こいつは金属だ」


「鉄巨人ってところか」


 誰かが言った。他の人たちも見たことがないのだろう。


 トクナの指示で合同チームが展開した。十五人が広間に散る。前衛は剣と盾を構え、後衛は杖や弓を準備する。連携は悪くない。前回の合同依頼で顔を合わせた面々が多いせいか、動きが揃っていた。



「行くぞ」



 トクナが前に出た。



 鉄巨人は答えるように拳と呼ぶにはあまりにも無骨な鉄の塊を振り下ろした。

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