何もできない
追い詰められた君が取った行動はあまりにも浅はかだったけれど・・・・
僕の横で俯き地面を見つめる君を、僕は責めることなんてできない。
肉親の返り血を浴びた君は、どうして僕を呼び出したの?
深夜の公園。
薄暗い街灯の下。ベンチに二人座って、僕たちはただ黙っている。
君は黙ったまま、ただじっと地面を見つめていた。
君は僕に何をして欲しいの?
沈黙が息苦しくなって、僕は君を残して立ち上がると自販機に向かった。ペットボトルのお茶を二本買うと、すぐに君の座るベンチに戻った。
君は、さっきと変わらず俯いたままベンチに座っていた。
僕は思わず深い息を吐き出した。
もしかしたら僕は、
君がそのベンチからいなくなっていることを望んでいたのかもしれない。
敏感な君は僕のそんな気持ちに気が付いたのかもしれない。
君は僕からペットボトルのお茶を震える手で受け取ると、そっと立ち上がった。
「呼び出してごめん」
君はぼそりと呟くと、暗闇の中に歩き出していく。
僕は思わず呼び止めていた。
「待って!!・・・・警察に行くんだよな?」
僕の問いかけに、君はゆっくりと振り返った。暗い瞳に何か強い意志を宿し、君は黙って立っていた。
僕は、ベンチから立ち上がり友人を見つめた。
友人。
そう・・・君は僕の友人なのに。
僕は、君の為に何もできない。
君の犯した罪を否定することも、肯定することも・・・・・そして、今から君が取るだろう行動を僕は分かっているのに、気が付かないふりをしようとしている。
君は、どうして僕を呼び出したの?
もしかしたら、君は以前に吐いた僕の愚痴を本気にしていたの?
『未来に何の望みもない。つまらない。人生を終わりにしたい』
そんな僕の言葉を、君は本気にしたの?だから、共に・・・・そう思って僕を呼び出したの?
この異常な状況の中で、思い浮かべたのは僕の顔だけだったの?
でも・・・・僕は、僕は
そんな選択はできない。たとえ、友達でも、そんな選択はできない。
僕はいつの間にか涙ぐんでいた。君はそんな僕からそっと視線を逸らして、身を翻すと暗闇の中に歩き出していった。涙に滲む君の後姿が闇に飲み込まれていく。
僕は両手で顔を覆ってベンチに座り込んだ。
人生は何度でもやり直しがきく。
そんな言葉を君に投げかけることもできずに、僕は君を見送ってしまった。自分自身の弱さに吐き気を覚えながら僕は声を出して夜明けまで泣き続けた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




