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だから殺した

「だから殺した」



刑事さんは見たことありますか?

人間が壊れていく様子を?


私は毎日見ていたんですよ。

私を産んでくれた母が・・・大好きだった母が壊れていく様子を、私は毎日見ていたんです。


え?

大好きならどうして殺したのかって?


どうして?

・・自分でもよくわからないんです。でも、確かに愛情が憎悪に変わってしまったんです。

半年かけて、愛情が憎悪に変わっていった。


半年間、私は我慢してきたんですよ。

大好きだった母がね、毎日のように私を罵倒しても我慢してきた。母の為に尽くしてきたんですよ。

だって、母には介護が必要だったから。母を支えられるのは私だけだったから。兄弟なんて、頼りにもならない。長女で未婚の私に全部押し付けて母の家に寄り付きもしなかったから。


ねえ、刑事さん。

人間が壊れていく瞬間って見たことあります?


あの母が・・あの優しかったお母さんが、私を汚い言葉で罵るんですよ。毎日、毎日。

私が作ったご飯をまずいと言って床に投げつけて、その片付けをする横で言うんですよ。


『ご飯はまだか!!私を飢え死にさせる気か!!』って。


私、涙がいっぱい出たんです。いっぱいいっぱい。

でも、我慢しました。だって、それが母の本心じゃない事は分かっていたから。


老いが母を壊しているだけなんだって。


私は、母が大好きだったんです。

大好きで・・・・・大好きだったから、許せなかった。

壊れていく母の姿が、恐かった。・・・・・そして、憎かったんです。


この人さえいなくなれば、私は糞尿の匂いの染み付いたこの家から解放されるってそう思えたんです。

苦しかった。


苦しかった。

刑事さん、分かりますか?

私、母を殺したことを後悔しているのに・・・・なのに、心の中ではほっとしているんです。


もう母に罵られることはなくなるって。



あの日、母さんは私に夕飯を投げつけたんです。

『こんな飯食えるか』って言いながら床に唾を吐き捨てたんです。あんなに綺麗好きだった母がそんな事をしたから私腹が立って、私・・・・母の腕を強く掴んだんです。そうしたら急に怯えた顔になって、私を見て叫びだして。


それで・・・え?

なんて叫びだしたかって?


ええ・・・そう。母は・・・・


『殺される』『誰か助けて』って。

悲鳴をあげて。


私に・・・娘の私に殺されるってそう言って逃げようとしたんです。母が・・・お母さんが。

私は・・・・だから私は。


許せなかった。

苦しかった。



今も苦しい。刑事さん、今も苦しいの。


お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。

お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。

お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。お母さん。


ごめんなさい。

許して。

馬鹿な娘を許して。



(おわり)


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