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信長、野望する

9)信長、野望する


 最近の日課となったミツからの魔法指南。ミツも俺の扱い方が、分かってきたようだ。

 一日、朝から晩までの稽古がなくなった。それに魔法だけでなく刀や槍といった武術の稽古も取り入れられるようになった。

 これにはテンション高い。刀への憧れは未だ健在だ。

 いつかは自分だけの名刀をと考えている。それもまだ先の話だ。


「ノブ、戦場では魔法を使えるのは上級武士や武将と呼ばれる者達だけ。戦場に居るのはそういった者達だけじゃなく、魔法の使えない街の人や農民なんかもいる。武器を持って襲ってくるんだ」


 とのこと。実戦経験者は語るな~。

 この異世界日本では魔法を使える者と使えない者がいる。使える者は武士に戦果を挙げれば武将として取り立てられる。

 農民だのの身分は関係なく…とは言え、人手不足が理由だ。

 だからって、魔法も使えない人間を戦場に出してどうするんだか…。結局、死ぬことが多いから、あまり農民から出世したとは聞かないよな。


「分かってるよ。だから、こうして刀や槍の稽古もつけてくれているんだろ?」


 確かに魔法は有能だ。だけども万能じゃない。ミツの言った通りだ。

 農民の槍に突かれて死んだ武将もいるし、俺も油断は禁物ということだ。


「そうなんだけどね。ノブは…、魔法は凄いけど武術に関しては凡庸だよね」

「わ、悪かったな!!親父の稽古から逃げ回っていたから、こっちは全然ダメなんだよ!!」


 ミツの指南の下、木刀をブンブン振り回すがミツがやるとビュンビュン言う。

 違いが一目瞭然だ。早く、刀の扱い上手くなって自分だけの名刀を手に入れたい。目標があるから頑張って続けられるのだ。


「はあ…。今だけは信秀様の気持ちが理解できるよ」

「なんだよ!!ミツは親父の味方か!?」

「僕はノブの…と、友達…だよ」


 言葉に詰まる。面と向かって言われるとむず痒いと言うか、胸が熱くなると言うか…。


「う…、おう。だよな!! ま…、まあ、何だ。とりあえず俺には魔法があるし、武術が上達するまでは魔法で埋め合わせていくしかないやな。うん」

「前も言ったけどMP切れには気をつけてな。ノブは危なっかしいところあるんだから」

「おう。分かってるよ。じゃあ、今日はこの辺で終いか?」

「そうだね。今日はこのくらいだね。オーバーワークは体に良くないし。…でも、最近はノブ忙しいそうだよね。何をやってるんだい?」


 おっとっと。それを今ここで聞いちゃいますか。ミツには内緒にしていたんだけどな…。

 先日のすっぽかしがあるから言い出し難かったのだ。

 ミツに協力してもらえばもっと早く完成したかもしれないが、ついに完成したのだ。後は出来上がりを見るだけ。


「そうだな。ミツにも見てもらえば完成度が上がるか。…ミツ、これから時間あるか?」

「うん。大丈夫だけど…。また何かやらかしたのか、ノブ?」


 うっ…。言い返せない。

 これまた、すっぽかしの事で親父にも叱られたのだ。

 だが、それも過ぎたこと。こんなのいつものことだ。


「まあ、良いからコっちゃ来い来い。面白いもの見せてやるから」

「また嫌な予感しかしないよ」


 まあまあと、なだめ透かして城の裏へと連れて行く。ミツに見せたのは乱雑に生い茂った雑木林だ。

 手入れのされた城の庭とは違って風情がない。


「これ、何だか分かるか?」

「いや、ちょっと分かんないや。これ何なの?」

「俺も実は分かってないんだ。でも、ここ見てみ」


 木に刻まれた傷から流れる樹液を指差す。

 ポタポタとこぼれ落ちる白い液。


「もしかして、これ……ゴム?」

「お!!正解!!正解者のミツにはコレを進呈だ!!」


 差し出したのはまん丸の球体。出来立てホヤホヤのゴムボールだ。

 魔法では失敗したが、あれからめげずに頑張ってみたのだ。

 木魔法を使って、ゴムの木を生成。やってみると出来るもんなんだな。見事、ゴムが作れたのだ。

 素材さえあれば、魔法で作ることが出来るらしい。上手く合成して、整形して、ようやくボールの出来上がり。ここまで来るのに結構時間が掛かった。俺の苦労の産物だ。


「ノブ。これを使って一体何をするつもりなの?」

「そうだな。バスケ、野球、サッカー…。あと、バレーも良いか。これでいっぱい遊べるだろ」

「本気なの…。ああ、違う。本気なんだね…」

「心配性だな、ミツは。大丈夫だって、親父だってこんなことで怒ったりはしないだろ。多分」


 いや、やっぱり怒られるか?

 どちらにしろ、上手い言い訳でも考えていた方が良さそうだな。ミツにお願いして。


「そう言うことじゃなくてさ。ゴムなんて作って歴史は大丈夫なのかって話だよ」

「いや、異世界なんだろ。大丈夫なんじゃねーの?」

「んな、無責任な!!」

「いやいや、そんなことねーよ!!俺一人がゴム作ったからって影響出ねーって!!」

「いや、まあ。そうかも知れないけど。あんまり無茶しないでくれよ。異世界といっても、歴史的にはそう変わらないみたいなんだからさ」


 ホント、ミツは心配性だな。


「分かってるよ。じゃ、ちょっと町に行ってくる。市との約束があるんだ」

「ホントに分かってるの、ノブ!!」

「大丈夫だから。ミツはこのゴムの使い道でも考えてくれれば良いさ。ミツが管理すれば安心だろ?」

「またノブは…」


 やや呆れ気味なミツ。だが、ミツは承知してくた。なら、この件は任せて大丈夫だ。

 もっとも、ゴムの木から採れるゴムの樹液は少量だ。

 世に出回らなければ影響ない。


「じゃ、ホント行ってくるな!!」


 と、駆け足で市を連れ出し町へ再び!!

 今度こそ、ボールを使って遊ぶスポーツを!!


 市を城から連れ出す。やはり、何故か市は嬉しそうだ。

 勿論、俺も楽すぃ~。ミツと居るのも楽しいけど、メリハリはやっぱ大事だよな!!


「市。今日はバスケだ!!野球にサッカーだって出来るぞ!!」

「なるほど。これがお兄様のおっしゃったボールなのですね。素晴らしい出来映えです!!」


 ゴムなんて見たことない市は、当然のごとく誉めてくれる。

 市の言うとおり、出来映えの良いものだけを選んで持って来た。やはりゴムボール。よく弾む。


「さあ、やるぞ!!」

「あの…。お兄様。一体何を?」

「バスケの基本は、ドリブル、パスとシュート。この3つさえ出来れば良いんだ!!」


 かなりのムチャぶりだが、見事にこなす市。一回見ただけで出来るものなのか?

 ああ…。そう言えば、手鞠とかやってたか。あれと似ているからできなくもないのか。

 だが、出きるのなら、それで良し。

 ルールはワンONワンで、3ポイントで勝利。簡単な説明をして早速ゲームスタートだ。


「お兄様、私からで宜しいのですか?」

「ああ、もちろんだ。ハンデ…、手加減しないと勝負にならないからな」

「まあ。ありがとうございます」


 皮肉ではなく、市は本当に感謝しているようだ。こんな事で好感度アップとか市の奴…。チョロ過ぎて逆に心配になるぞ。

 お兄ちゃんは心配だ。変な虫に引っかからなければ良いけど。

 と、そんな心配していたら、あっという間に2ポイント先取された。


「なかなかやるじゃないか、市。なら、少しだけ本気になるぞ」

「はい。このバスケでしたか? とても面白いですね、お兄様───」


 と、油断をついて速攻をかける市。だが、甘い!!

 市をブロックし、動きを封じる。

 てか、市…。それは初心者の動きじゃねーよ。自称、○○中の桜○花○と呼ばれたこの俺が翻弄されているだと!?


「流石はお兄様。油断出来ないですね」

「それはこっちのセリフだ」

「ご謙遜を。私なんてまだまだ…。お兄様にはかないません…、よっ!!」

「な、なに!?」


 俺の股をくぐり抜け、ボールが通過する。

 油断はなかった。華麗なるフェイント。市はそのままボールを追いかけシュートを決めた。


「やりました!!お兄様、私の勝ちですね!!」

「完敗だ…。まさか、市に負けるとは…」

「信長さまだ!!信長さま、今度はなにしてるの!!」


 このガキんちょは、この間のガキんちょだ。例のバドミントンでハシャいでいたっけ。

 俺を嗅ぎつけてくるとは、まだまだ遊びに飢えていると見える。愛い(うい)ヤツめ。


「おい、ガキんちょ。もっと人を集めて来い。そうしたら、バドミントンよりもっと楽しい遊びを教えてやるぞ」

「うん!!わかった。すぐに連れてくるね!!」


 と、すぐに人が集まる。みんな、普段なにをしているんだ。呼べば来るって、そんな暇なのかよ。


「信長様、今度はなにすんだ?」

「バドミントンだべ」

「いんや、もっとすんごいことだっつってたと」


 期待の目に溢れる眼差しだ。コイツら、前も居たやつらじゃねーか。ホント、暇人だ。


「おい、お前ら。俺の呼びかけに来た暇人ども!!よく聞け、これから戦を始める!!」

「い、いくさ!?」

「そうだ。コレを使ってな!!」


 野球ボールとサッカーボールを掲げる。

 やはり注目を集めるゴールデンボール。戦と言われビビっていたようだが、新たな遊びだと分かったのだ。

 早速、何やかんやと説明し、ゲームを始める。

 俺の適当な説明だとういのに、コイツらの吸収は早い。あっという間に呑み込みかなりの好勝負だ。

 何というか、俺が言うのも何だが…。コイツらの遊びに対する集中力が怖い。

 本気で遊び、真剣に勝負する。俺が言った通りの戦試合となった。


「ゲームセット!!試合終了だ!!」

「うおおおおっ!!勝ったべや!!これで三試合全勝だべ!!オメエさんのお陰だべや、あんがとさん!!」

「えへへ。だろ?」


 勝利に浮かれる田子作たごさくチーム。地味目のチーム編成かと思ったが、一匹?毛色の違う猿が紛れ込んでいた。

 何つーか。見た目、カンペキ猿なんだが、その挙動行動も100パー猿だ。

 その野生じみた運動能力で完全試合を達成とか、マジありえねえ。

 ホント人間離れして驚かされた。


「お兄様…。あれは、本当に人間なのですか?」

「どうなんだろうな。俺としては、あれを人間と認めたくないのだけど…」

「ですよね」


 俺チームと市チーム、田子作チームに分かれて試合をしたのだ。それを予想を覆した田子作チーム。

 俺達の気持ちは負けて悔しいというより、あれに負けても仕方ないだ。

 文明の利器、野球という文化に野生の猿が登場。まあ、当然これはノーカンだ。

 このゲームは俺チームと市チームのイーブンで良いだろう。

 田子作は除外だ。

 勝ったと思うなら、勝手にそう思っていれば良い。

 ま、変な闖入者が来たものの野球にサッカー、バスケと受け入れられたわけだ。

 娯楽もなし、遊ぶ場所もないとつまらないと思ったが、これで何時でも遊べる。

 皆も楽しそうだ。戦が始まれば、大人も子供も死んでいく。殺伐とした世の中だ。

 こう言うのも、悪くないな。


「なあ、市…。このまま平和な世の中なら、みんなこうして笑っていられるのか?」

「お兄様。それは…」

「いや、何でもない」


 天下統一を目指した戦国武将織田信長。

 だが、俺は俺だ。

 歴史通り俺が天下統一を目指さなくたって良い。歴史通りなら死が待つ絶望の未来だ。

 だが、ここは異世界。織田信長を英雄の名前にすることだって出来る。

 もし仮にだが、織田信長という名前の少年が生まれたら、自分の名前に誇りを持てるようにすることも可能だ。

 なら、俺は…。俺は天下統一を目指してみようか。


 ま、死なない程度に。だけどな。



 今回は、ちょっと遊んでます。次回は、あの人の登場です。

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