64)起死怪生
64)起死怪生
江の落ち込みようは半端ねーな。その気持ち、分からんでもねーがな。
面倒クセー娘だが、今回に限って別段それがメンドーとは思ってない。
俺が悪いと言うのもある。何故なら、落ち込む原因となった巫女服を作った…厳密には作るように命じたのは、何を隠そう俺なのだ。
ローアングルはサイコーだ!コスプレは文明の極み文化の華!なんて、江を前に言うつもりねーよ。そんな事を言ったところで江の機嫌は直んねぇだろうし…。何より、俺に言う勇気がない!
この責任は、俺にコスプレ巫女服を考えて欲しいと依頼した、あの武将にこそあるんじゃね?
未だ、江は部屋の隅っこでブツブツ言ってる。そっとしておこう…。
と、そんな事より現状だな。俺が飛んで帰って着た理由もそこにあるんだった。
つっても、どうやら此方は此方で上手く丸め込んだようだ。
まったく…、茶々も早とちりしたもんだ。どこが清洲がピンチだ。むしろ、ピンク色だっての。
多少、騒がしい気もしないでもねーが…、ん?
「大変です!江姫様!!」
誰だよ。て、半兵衛か。
汗と埃と涙(?)で、小汚ねーよ。一瞬、誰だか分かんなかったぞ。
身なりを…と言いたいところなんだが、この場で注意できる奴が誰もいねーじゃん。皆、似たり寄ったりだ。
「よぉ。丁度良いところに来たな。お前からも何か言ってやってくれよ。俺の手には余るぜ、これはよ」
「いえ!聞いて下さい、半兵衛さん!!お父様ったら酷いんです!!」
「はあ、何のはなしやら…って」
おいおい、あんま見つめんなよ。そっちのけはねーっての。
「お、お父様…?げえーっ!信長!?ののののののの!信長様が何故!!」
「うるせーし、気づくのおせーな!」
それに、お父様言われる筋合いがいっちゃんねーし。
「は、申し訳ございません。しかし、信じられないとは思いますが城が崩れては、冷静ではいられません」
うっ!?
やべーな。小汚い格好は俺のせいじゃん。まだ、気づかれてねーが。
うーん、でも、どうすっかなー。素直に謝るべきか…。いや、何から謝ったらいいのか分からねーし、ここは…状況を見守ろう。どこで何がどう転ぶか分かんねーんだからな。
「そりゃ、仕方ねーな」
と、その前に初と江には口止めしておかねーとな。半兵衛には一旦、席を外させて賄賂を…。
「お叱りにならないので?」
「お、おう。ちょっと思うとこがあってな。ところで、お前…江の着替えを持ってきてくれ。あと、ついでに俺のも─」
「お着替え?いえ!江様のお姿は!!そそそそれは!?!」
んん?
ビクつくのは俺のほうだろ。なんで半兵衛が?
ま、いっか!
「そうなんだよ。江の姿、やべーだろ?ツーか、あんま見ないでやってくれ。恥ずかしくて死んじまうから」
行くなら、早く行け!
「は、はい!!」
返事は立派だ。返事だけは…
何故、動こうとしない。江のピンチなのに。
「どうした、さっきから様子変だぞ?」
「あの!いえ!これは悪気はなく!ほんの出来心…ごにょごにょ」
やっぱり様子が変だ。何が変って、言動全てが変だ。裏表のある奴…それでいて、裏表を使い分ける奴だと思ってたが、裏が裏返っている。
うん、俺は知ってるよ。コイツは、城に作ったメイド喫茶に入り浸りだってことを。
その時の半兵衛がまさに今の姿だ。
「出来心か…。なら、仕方ねーよな。で、お前は何したんだ?」
「いえ…特に何も…」
何も、ねぇ?
「おいおい、嘘言っちゃいけねーな?」
深く追求するつもりはなかったが、こんな反応されたら是が非にも口を割らせたくなるのが人情だ。
つまり、あれだろ?押すな押すな的なやつ。
「お父様!僕にこの服を着せたのは半兵衛だよ!」
「なぬ!グッジョ…ぶっじゃねー!てめー、何してくれちゃってんだ!!」
良い趣味してんじゃねーか。じゃなかった…良い度胸してんじゃねーか。
「ちちちちちちがい、違います!私の趣味はどちらかと言えばメイド!!巫女は信玄様です。江様、なななにをおっしゃる!!」
「着せたのは半兵衛でしょうが!」
「いえいえ、いえいえいえ!服をお持ちになったのは信玄様で…。信じて下さい。悪いのは信玄様なんです!」
押し付けやがったな。しかし、その通りだ…。巫女服を用意してくれと頼んだのはアイツであってコイツじゃーあない。
「信玄様がって…。うーん、あれ?そもそも、信玄様は何で巫女服を…?」
やべっ!深く追求すると俺も同罪…。
ならば!
「どっちでもいいわっ!!着る奴も着る奴だ!」
萌えるものは燃やして、証拠隠滅。塵は塵に灰は灰に、グレーゾーンでうやむや!それが一番の解決法だ!
バレたら、俺も殺される!
「怪しい…」
「怪しくないよ!!」
勘の鋭い奴だ。ここで慌てては余計怪しまれる。堂々としてればバレねーだろ。
若干、テンパっている感じになったが大丈夫だ!
「で、半兵衛は…何しに来たんだっけ?」
江の視線は離れない。ジッと俺を睨んだままだ。
だが、諦めろ。この件はうやむやで終わったんだ。
「そ!そうでした!!大変です!!街が。街に魑魅魍魎が溢れかえっています!!」
「ちみもうりょー?」
「ええ。何が起きたのか、私にはさっぱり…。ただ…清洲城の結界は清洲の街にまで及ぶ強大なもの。城の崩壊により結界がなくなったことで手薄になったところを狙われたようでして。人々が次々襲われ、襲われた者達もまた魍魎と化して人々を襲っているという報告もあり…」
「し、城の崩壊ねぇ…」
ヤッベっ。これはうやむやに出来ねぇ問題だぞ。そろそろ、腹をくくるべきか。
括るどころか、切腹ものの失敗だ。
「迂闊にも、私が近江の者達を城へ招き入れた事が原因かと…。あれほど緻密に組まれた結界です。少しの綻びが、城崩壊へと導いたのでしょう」
「いや、いい。その件はさっきも言った通りだ。許す…」
未だ、俺が原因だと気づいてねーのんか。許されるべきは俺だってのに…ますますもって、言い訳しづれーな。
「ありがとうございます。それに、今は魍魎達の存在でしょう。魍魎が人々を襲い、噛まれたり引っかかれりすると同じように魍魎へと変貌します」
「ゾンビか!?つーか、ゾンビだな!!」
「え、ゾンビ?ゾンビってなんですか?」
「ああ。えーとな、ゾンビってのは簡単に説明すっと歩く死体だ。ぐちょぐちょの、ぬめぬめで、でろでろしてるヤツ」
墓の下から蘇って…ってやつだ。どこかの戦場で蘇ってでもきたのか?
そんなワケねーか。流石に死者復活の魔法はねーからな。死体を操る魔法とか、そんな感じのものだろう。
「まさにその通り。知っておいででしたか。では、どう対処すれば…。迂闊に手を出しては二の舞。我々にはどうしようも」
「待て待て!俺だって詳しいわけじゃねーんだ!実物を見ねーことには何も言えねーよ!」
「もうすぐ側まで迫ってます。見たいのなら、顔を覗かせたらすぐに見えますよ?」
そんな、すぐ側まで?
「ほ、ホントだ…。し…、死体が動いてる!!ゾンビ!ホンモノのゾンビなのか!?」
リアルゾンビ!想像以上にグロっ!!エグっ!!
映画で見るのとは迫力が違う。作り物とは違った生々しさ。傷口とか腐った感じがまた…。血まみれなのも混じって一層やべー…。
やっぱり、生モノは痛みやすいってことなのか。
映画のはエンターテイメント、娯楽を求めた結果だが、このゾンビには遊び心がない。
やべーな。って、さっきからやべーしか言ってねーじゃん。
いや、それだけやべーんだって!!
何があったんだよ。いつから尾張はゾンビが徘徊する国になったってんだよ!?
「どれどれ?私にも…」
「止めときなさい、初は…」
見なきゃいいのに、固まったな。
見えてるかどうかは知らんが、数体のゾンビがこっちを見上げている。
「うっ…。きも…、あれがゾンビ」
「な、泣いてないもん。な、泣かないもん」
鳴き声を上げたのはゾンビだ。元が人とは思えない身の毛もよだつ声。その声に答えるがごとくあちこちからも同様の声が上がる。
「嫌な予感がしますね」
「ちょっと!変なこと言わないでよ!」
フラグだな。カンペキ、フラグ立ったな。
「これが噂に聞く、地獄絵図というものでしょうか」
「地獄なんてものが、ホントにあるなら…確かにそうだろうな」
この場に居る4人。その温度差はビミョーに違う。
俺は冷静…。
冷静だよ!!江や初とは違ってキャーキャー言ってねーし。つーか、ゾンビは…あれだな。子供の教育に悪い。
半兵衛は…何というか、近寄り難い雰囲気を出している。まるで大切なものを奪われたかのような鬼気迫る気迫だ。
「あんま、ワーキャー騒ぐなよ。余計、近寄ってくるからな」
実際、数は増えている。周囲にいたゾンビ達も集まって来ているようだ。
見るのも躊躇うが、その中には見知った顔もある。
生気のない顔だ…。でも、死んではないな。呼吸はしてる。生気吸収かも知れんが…息繋いで、生き繋いでいる。
「悠長にしている暇はありませんね。これから、どうするのです」
慌てたところで、生物の存在はバレている。徐々に集まって来るのが良い証拠だ。
「とりあえず、障害物でも置いて道を封鎖だ」
「そんなもので防げるのですか?」
「ゾンビだってんなら、知能は低いはずだ。街の奴らを助けるぞ」
「な、なるほど。では、早速取りかかります」
決まれば、行動は早い。ここの前にある通りを左右から閉鎖。一方は俺が、もう一方は半兵衛に任せる。
「こっちは終わったぞ。手を貸すか、半兵衛?」
「いえ、こちらも終わりました。魔法で防壁を築きましたので安心でしょう」
植物を操る魔法でバリケードを作ったようだ。植物のツタが網目状に編まれ、言うなればフェンスだ。
上手い手だ。物を積み上げて作る防壁では外の様子が見えない。フェンスなら、外の様子は見えるし、崩れ落ちる心配もない。のだが…。
「おい…、半兵衛さんよぉー」
ただ、一つを除いては賞賛できる。
フェンスの線一本一本には棘が…。足下にも波打つように並べられた竹槍の柵。フェンスを乗り越えようとしても小刀のような笹の葉が待ち構えている。
過剰なまでの凶器を備えた防壁を作った半兵衛は誇らしげだ。
確か…コイツは毛ほどの魔力しか持ってなかったはずだろ。いやいや、そもそも、コイツってこんな想像力あるヤツだっけか??
「これならば防御と同時に反撃も…って、痛いです。何故、殴るのですか」
「ぅおいっ!!お前には他人を思いやる心ってモノはねぇーのかよ!!」
「ご安心を。肉抉る鉤爪は、外側のみに突き出しております。こちら側からは安全となっています」
肉、抉る!?そこまでの凶器!!
ん。よく見たら、棘に小さな返しが付いているじゃん!根こそぎ肉もぎ取られるぞ!?
そーいうことするから、俺の評判が!!
「余計なものを付け足してんじゃねーよ。棘は抜け!有刺鉄線(?)は、確かに効果的だけどさっ!今はゾンビでも、元は街の奴らだぞ!俺の予想じゃ、まだ助けられるはずなんだ。助けるって言ったのに傷つけてどうする!?」
ゾンビ化と傷や怪我は別問題だ。街の住民達は、魔法によってゾンビに変えられた。ゾンビ化の魔法が解けたとき負った傷はそのまま身に降りかかる。
「も、申し訳ございません!」
「謝って済む問題か!」
有刺鉄線ぐらいで致命傷とはならねーだろうが、万が一ということもある。
ただの敵なら、それでも良い。ちょっと前まで一般市民だった奴らを敵と言うなら、な。
「襲ってきた時点で既に敵と…ですが…。本当に助けられるのですか。このゾンビとやらになった者達を?」
見た感じ、もう手遅れ。助けられないと踏んで切り捨てたんだろうが…。
あっさりし過ぎだろ!ホント味方か、コイツ!?
「おま、お前なぁ…いや、良いか。先ずは自分の身が優先だろうしな」
助かる術を知らないなら、当然の恐怖。恐ろしいものから逃げるか、遠ざけるか…方法は2つだ。
「助けられか、だったな。これが俺の知ってるものなら無理だ」
病気や細菌兵器。勿論、現実には存在しないものだ。知ってるだけのもの…。
「だが、これは魔法によるものだ。何の魔法なのかは知らねーけど、魔法での攻撃なら魔法で防げないはずねーだろ?」
魔法は現実にあるものだ。
俺の知らない魔法…。どちらかってーと、呪いに近いような気もするが、魔法なのは違いないだろ。
「信長様には彼らを助けられるとお考えでしたか」
「な、なんでも良いから早く!早く助けてよ!!」
「おう!俺に任せろって、言いてーとこだが…生憎、俺には治癒魔法は使えねー。ゾンビ化解除には俺の使えない系統魔法…治癒魔法が必要だ」
期待に満ちた眼差しを送られてもねーぇ。しょうがないじゃん。俺だって使えるものなら使いてーよ、マジで。
怪我するたびに市に…市に…。
「治癒魔法が鍵ですか。城での負傷者が多く…手の空いている者は居ません。やはり…」
おっと…。今は感傷に浸っている場合じゃねーな。
このままじゃ、国民を虐殺してしまうことになりそうだ。
「治癒魔法の使い手が居るなら御の字だ」
「話を聞いて下さい!既に魔力ももう限界です!これだけ多くのゾンビ達を治癒するなど死ねと言ってるものです!」
数は問題じゃない。一人一人に魔法をかけるわけじゃなく、全員一気にまとめて治す。
て、半兵衛が気にしてるのはそこじゃねーのか。まあ、これは教えなかった俺が悪い。少しは考えなしじゃねーってとこ見せてやるか。
「じゃじゃじゃあーん!特製ミツ印の魔力回復薬だ!!」
そう、これは貴重な霊薬だ。
用法は───以外(略)。
大事なところを略すなよ、ミツ!!
赤、青、黄。それと黒と白の瓶には、説明書きがある。多分、俺用に書いたものだ。
赤青黄色の三つの丸薬は、如何なる傷も癒やし、一瞬で魔力を回復する霊薬。
色は、飲む順番、危険度を示していると思う。
赤は激辛ぺっぱー?青は爽快そーだ?黄色はトロピかーる?…匂いは良いけど、飲む気にはならねーな。
他、二つは見覚えがない。白と黒か…、ある程度想像できるな。一応、説明書きを読んで…
「それはまさか!例のアレ…ですか!何と用意の良い!」
半兵衛が知っているのはコレの原型である水薬。秘密にしてたはずだが、漏れていたようだ。
まあ、何度か使用してたからな。
「はっはっは!まーな、まーな!!」
「いい気になっているところ悪いんだけど…、どうすんの。もう、カンペキ囲まれちゃってるよ。どうやって城まで行くつもり?」
ちーん。またも消沈だ。
あーあー、うーうーと、それは、もう不気味な声を上げる。
静かになると余計聞こえちゃう。
「ぼ、防御は万全です。この柵が破られることはないでしょう。これで道を切り開いて行けば」
痛みを感じてねーけど、どうも…あの棘が効いてるらしいな。ギリギリの距離を保っている。
「無理だろ。そこまでの魔力をお前は持っているのか?生憎、魔力回復薬はそれだけだぞ」
「城から呼び寄せるにしても…いえ、呼びに行かなければ…ダメですね。手詰まりです…」
こうなりゃ、最終手段で行くしかねーな。
「や…ぃやぁ…助けて」
「お、お父様…」
江たちも、限界一杯だ。悲鳴を上げる気力もなくなった。
「まだ諦めんなよ。次の手を打つにしても、この状況は乗り越えねーとダメなんだからな。分かってんだろ?」
ゾンビ化からの復活後の状態は、瀕死状態となるだろうから、そこまで含めた状況を作っておかないとならねー。
せっかく復活しても死にかけじゃ、助けた意味ねーじゃん。それこそ死体と変わらないっての。
「確かに…。打って出るにしても、敵の居場所が分かりません。これが単独で成し得る魔法のはずもないでしょうから、複数となるとなお厄介ですね。このゾンビをくぐり抜け探すのは至難の業、やはりゾンビをまずどうにかしないと行けませんか」
「そう言うことだ。とりあえず、あのゾンビ達を全部捕獲すっぞ。ゾンビ達を操ってる奴らを探すのは後回しだ」
「そ、そうですか…」
人手に余裕があるワケじゃない。一つ一つを片付けて行ったほうが早い。と言っても、焦る気持ちも分かる。
「捕まえたゾンビ達はどこか一カ所に…」
どこが良いか。大勢を閉じ込めておける場所となると限られてくる。
「両者怪我なくとは難題ですね…」
「そうでもないぞ。別段、難しいこっちゃない。ちゃんと考えが…ある…?」
「ある?って何ですか。私に聞かれっンム、ームグっー」
っ!!
「ちょっと黙ってろ!」
今の感覚…感触は…。
俺の、なんとかレーダーがビンビンに反応している。
居るのか…。
「ムグっ!!んーんーっ!!」
「…お父様?」
「遠ざかったみてぇーだな。ひとまず安心か?」
とりあえず、半兵衛の口に押し付けた手を退かしてやるか。
すっかり青ざめてしまった。
「どこが安全?あまりの恐怖に可笑しくなった?」
「俺の独り言だ…って!ひでー言いようだな、おいっ!!」
「酷いのは信長様です!死にかけましたよ!!」
「うん、すまん。じゃ、仕切り直して作戦会議と行こうか」
作戦会議と言っても、ほぼ思いつきの作戦だ。
ゾンビに対する対処だって確実性はない。明確な対処法が判らない以上はやるだけやってみるしかないというのがホントのとこだ。
それでダメなら、後はもうミツ先生に頼るしがない。ミツが帰って来てから…そう言う意味でも、この捕獲作戦は十分効果がある。
概要はとりあえずこうだ。
ゾンビ達を一カ所に集める。場所は崩れ落ちた城が良い。治癒魔法の使い手も居るし、壊れた結界を再利用する点でも都合がいい。
結界の再利用だが、これは城に使われる結界の仕組みを生かしたやり方だ。
防御系統を切り替え、治癒系統の結界にする。これで、ゾンビは一網打尽だ。
ゾンビになった奴らは魔法による攻撃を受けたワケだから治癒魔法で治してやれば人に戻れると踏んでいる。
後は…無事な奴らのことだな。
ゾンビ化してない街の奴らは、家康が陣を敷いている尾張学園へ避難させておけば大丈夫だ。
学園には防御結界はないが、家康は堅固な防御魔法を得意としている。下手な結界を張るより、家康の防御魔法の方が高性能だ。
「…という、作戦なんだ。城の結界が壊れたって言っても、魔力さえ有れば使えるだろうし」
ゲームなら、アンデットモンスターにはダメージだ。しかし、ここでは状態変化への治癒。なら、ダメージはないはずだ。
つーか、治癒てよか浄化だな。
「作戦は分かりましたが…。問題はもう一つ」
「ん?…何かあるのか?」
穴だらけの作戦だ。勿論、その穴埋めを半兵衛には期待している。
「そうですね。その作戦には穴があります!!」
「な、なんだってーっ!!」
「お父様…」
「うっ…、分かってるよ…。真面目にやれってんだろ。真面目だよ。真面目にやるよ」
「ええ、では。問題はゾンビ達をどうやって城まて誘導するのですか?」
「どうやってって…。どうやって?」
初っ端からずっこけてたのね。
「僕に聞かれても分っかんないよ!」
「お父様、お父様」
「どうした、初。便所か?」
「真面目に…」
「う。なんだ、初」
「うん、少し気づいたんだけどぉ…。あのゾンビって人を襲うんだよねー?」
「ああ、そうだ。それがゾンビだ」
そう言や、ゾンビ映画には美女は付き物。
「じゃあー。誰かが、エサになったら良いんじゃない?」
そうそう、最初の犠牲者に…って!
「良い案だ。だがな…。エサって言うな!噛まれりゃ一発アウトなんだぞ!せめて、囮って言ってくれ!!」
「初姫様は、なかなかに賢いですね。エサを使って誘導する…。確かにこれなら…」
「エサって、お前まで!何で食われる前提なんだよ!!」
ダメだ。コイツらの思考は、まさにゾンビ映画そのものだ。
「さて、では誰がエサになるのか…ですね。勿論、私は御免被りますが」
サラッと逃げたな。いや、別に構わねーけど。
この中で確実に無事、城へ逃げきれるのは俺だけだろうし…。最初からそのつもりだったし。
なら、ヒロインならぬヒーローにでもなってやろうか。
「言い出しっぺは俺だ。当然、俺がやる」
「え、お父様が!?」
「お父様、カッコいいー」
「信長様がやるのが当然の流れですね」
うん。三者三様の反応。しかも、お前ら揃って想像通りの反応だよ!
「そん代わり、お前らの役目は重要だぞ。家康達への伝令に城の奴らにも伝えなきゃだし」
「はい、お任せを!」
「いや、半兵衛。お前も俺と一緒だぞ?家康のとこに行くのは江と初だ」
「…」
「死にたくなきゃ、頑張れ!」
囮になるのは俺。注意を集めている内に、脱出した三人はさらに二手に分かれる。
城の再結界の準備にも時間が必要だ。俺はその間ずっと走り回って街中のゾンビを集めておかないとならん。
「生きて会えると良いですね…」
「生きるよ!死ないでか!!」
また変なフラグ立てやがってからに。
そして…若干不安を残し、作戦は決行された。
(さて、用意は整った。ここが、我が用意した晴れ舞台…いや、復活の祭壇か─)
「ふふ、魔力が漲るようだ。これが魔剣の力か…素晴らしいぞ!!」
城をいとも簡単に崩すか。結界すら見事に消し飛んだ。
さらにはこの魔剣、斬り殺したものを自在に操れる力まで持っている。最初に刺し殺したのは…あの女だ。
手を焼かされたが、今や言いなりの人形だ。自由を奪い、その意思すら砕いた。自身の手足より従順な手足…
「いや、違うな。従順な骸骨だ」
「ー」
カタカタと音を立て笑う者。カタカタと音を立て泣く者。
その2つの影は似て非なるものだった。




