20 襲撃者
さっきの音は、メインルーム──俺が最初に皆から自己紹介をされた部屋の方から聞こえてきた。いや、さっきの音だけじゃない。何度も何度も、何かを破壊する音が鳴り響いている。
「エンゲージメント」
俺は走りながら、自らの肉体をアバター化させる。
普通だったら逃げるべきだろう。でもこれは俺にとってチャンスだった。
敵が、バベルがわざわざ向こうからきてくれたのだ。欲しいのは手がかり。香凜への足掛かりだ。
だから、俺は走った。音のする方へ、攻め込んできたバベルの奴らを目指して。
廊下が終わる。俺は、音の鳴り響くメインルームの前で足を止めた。
今、向こう側のドアが強くひしゃげた。黒い波動がドアを吹き飛ばし、余波がメインルームの床を、壁を、テーブルを椅子を、吹き飛ばした。
そしてその向こう側から一人の男がやってくる。
そう、そいつは〈大剣〉を担いだあの男。
黒い鎧に身を包んだあの男。
俺と同じ、もう一人の八雲周。
「お前ッ!」
俺は瞬時に〈銃〉をジェネレート。その銃口を目の前の男、ヴィティスに向けて構えた。
ヴィティスが俺に気付く。
笑っていた。俺に会えたのが面白い、とでも言うかのように。
「よう。久しぶりだな、ニセモノ。テメェのアバターを見るには初めてだよなぁ、確か。そいやぁ、〈オメガ〉の中でそんなアバターを見かけた気がしなくもないぜ」
「お前は、誰だ!」
「前も同じ質問したよなぁ、テメェ。あー……でも、今はあの時と逆の立場か。俺がテメェの家に乗り込んだのか。んじゃぁ、何か。質問に答える義務があるっていうのか、こういう時は」
ぶつぶつと呟き、そしてヴィティスは俺に向け、はっきりと言った。
「俺は俺だよ。俺こそが八雲周だ。造られたニセモノのテメェとは違う、オリジナル様だよ」
「俺が、ニセモノ?」
「ああ、そうさ。テメェは俺のニセモノだ。邪魔でうざったくて鬱陶しい、今すぐにでも消え去ってほしい存在だ。なあ、そうだろ。誰しも自分のニセモノなんて、いらないと思うのが当たり前じゃないか?」
言ってくれる。
俺が、ニセモノ。八雲周の、ニセモノ。俺は作られた存在? 何のために? 誰が? どうして?
でも俺には、記憶がある。あやふやだけど、確かにある。そう、香凜が笑っている顔。幼い日々の記憶。確かにそれは、俺の中にあるんだ。
それなのに俺が、作り物?
「話が飛んだな。本題はそこじゃねぇんだ。で? 観測者は何処だ?」
「オブザーバーだと?」
「ああ、何だ。あいつはテメェらにこのこと言ってねぇのか。なんてったっけな、あいつだよ、あいつ。はっきりとした名前は覚えてねぇんだよな。そう、あいつ。俺がテメェのこと殺そうとしたら、邪魔してきた奴だ」
世良のことを言っているのか。だが、オブザーバーとは何だ? 観測する者、という意味は分かる。だが、一体何を観測するというんだ?
「何してんだ、テメェ!」
声が響いた。荒上の声だ。気が付くと他の二人もいる。皆、アバター化した姿だった。
「なんだよ、これ」
「こ、こんなのって……」
露草と真瀬が、メインルームの惨状を見て呟いた。そしてヴィティスがそれに対して舌打ちをする。
「クソ共が。わらわら湧いてきやがって。ゴキブリかよ、テメェら。こんな辛気臭ぇところに住んでいやがるし。一匹殺しても何匹でも湧いてきそうだな、ええ? どいつもこいつも鬱陶しい」
ヴィティスが前へと歩いた。その背後から何かがやってくる。円筒の身体に八足の足を生やした、150センチ程度の機械。
そう、それは、小型の自動防衛機械だった。人間の脳を使った、あの……
「まあいいか。一匹残っていりゃ、あいつの居場所聞き出すには十分だな。他は死んでもいい。なあ、そうだろ?」
そして、ヴィティスが地面を蹴った。




