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VRで狂った俺が、大切なものをなくして結果的に世界を救う話  作者: 山都
第二章 イカロス、そしてバベル
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11 囁き、諦め、だけれど

「くっ!」


 俺は力強く〈大剣(ブレード)〉を振った。しかしそれは、ナロにあっさりかわされる。

 そして、〈双剣(ダブルエッジ)〉の刃が俺の腹に突き刺さった。身体に痛みが走る。俺は思わず、呻き声を漏らした。しかし血は出ていない。痛みだけがある。何もかも、〈オメガ〉の時と同じだ。


 俺は激痛を抑え込みながら、後ろへと後退した。

 最中(さなか)、ナエが連続で魔法を唱える。モクゾルガとカイゾルガ、木属性と水属性のレベル3の魔法が俺を襲う。


 大量の木の槍と水の弾丸が迫ってくる。横に避けるだけじゃかわしきれない。

 俺は〈跳躍〉を発動、一気にドームの外壁まで跳んだ。魔法をやりすごす。

 ナロが俺を追ってきていた。俺は天井に手をつき方向転換、ナロの振るった〈双剣〉をかわす。

 しかし直後、俺の身体を光の矢が貫いていた。


「が……っ!」


 苦痛で顔が歪む。俺の動きが一瞬、止まった。

 その隙にナロが天井を蹴り、空中で俺との間合いを詰める。

 〈双剣〉で切り裂かれた。

 激痛。

 直後同じ場所に、蹴りを叩き込まれる。

 身が裂けるような痛み。


 俺の身体が勢いよく地面に激突した。HPが減っていく。銃弾の比ではない。俺の体力は今、半分ほどまでに減少していた。

 そして、倒れる俺をめがけ、上からやってくるナロが向かってくる。〈双剣〉を降り下ろそうとしていた。


 俺は激痛で痛む身体を起き上がらせ、その場から跳ねる。俺のいた場所に〈双剣〉の刃が突き刺さった。間一髪だ。

 ナエが光の矢を放ってくる。俺は斜め後ろへと飛び退いてそれをかわした。

 そして〈(ガン)〉を生成してナロとナエをけん制、俺は後退しつつ呼吸を整える。


 強い。


「君の死だよ、八雲周」

「諦めなよ、八雲周」


 ナロとナエ、二人が俺に向かって〈双剣〉と〈弓〉を構えた。


 あいつらは何を言っているんだろう。

 負けたら、死ぬ。

 それはわかる。

 でも、諦めたら何か変わるか?

 死ぬのが確定するだけじゃないか?


「しょうがないなぁ……」


 俺はひとつため息をつき、〈銃〉をバニッシュ。そして新たに〈魔法剣(エクストラ・ブレード)〉をジェネレートし、それを手に取った。


 全力でいかなきゃ、死ぬだけだ。

 それに死んだら。

 香凜とも会えなくなる。

 何も感じれなくなる。

 生きているのは嫌いじゃないし。

 死ぬのは、嫌だ。

 だったら。


「諦めるわけ、無いだろ?」


 俺は、強く地面を蹴った。

 同時にナロが迫ってくる。今、ナエが光の矢を放った。数発連続だ。俺にそれを、避けさせようって算段なんだろ?


「カイティア」


 俺は水属性のレベル2魔法(エクストラ・アビリティ)を発動する。〈魔法剣〉が光輝いた。そして迫りくる矢に、大量の水が真横からぶつかった。

 矢の軌道が変わる。俺は目の前のナロだけに専念、〈魔法剣〉で切りかかった。

 俺の初激を、ナロは〈双剣〉の刃で防ぐ。そしてもう一方の刃を俺に振りかぶった。


「ゴルゾルガ、エンゾルガ!」


 俺は金属性レベル3魔法、そして同時に火属性のレベル3魔法を放つ。大量の金属片と火球(かきゅう)が、俺達の周囲に現れた。


 ナロは危機を感じてか、その場から飛びのく。それでいい。そして金属片と火球は、目標へと向かっていった。そう、本来のターゲットである、〈弓〉を構えたナエに向かって。


 俺は〈疾走〉を発動、ナエとの間合いを詰めていく。ナエは今、無数の金属片と火球、ゴルゾルガとエンゾルガの攻撃に耐えるのに精いっぱいだ。


 ナエの武装は重い。ナロのような軽量化した防具ならともかく、あの重装備ではゴルゾルガとエンゾルガを避けきるなど、まずできない。

 必然的に、魔法攻撃に耐えるとしたらそれなりの策を──例えば、固定能力の〈対魔法障壁(メタ・エクストラ)〉を発動する、とか。


 ゴルゾルガとエンゾルガの攻撃を、ナエは光輝くバリアで受けていた。そう、〈対魔法障壁〉だ。アレの発動中は物理攻撃に対する態勢が低くなる。そこを狙えばいい。


「待ってろ、ナエ!」

「頼むよ、ナロ!」


 相方を助けるために、〈双剣〉を持ったナロが後ろから追ってきていた。そう、こうなったらあいつらはこうするしかない。


 だから。


 俺は、後ろを振り向いた。そこには俺を追うことに精一杯なナロが、ナエ以上に無防備なその姿がある。

 俺は〈魔法剣〉をバニッシュ。そして〈杖〉を装備するとそれをナロに向け、叫んだ。


「ラル・ダクズルド!」


 闇属性のレベル4魔法がナロに向かって放たれた。黒い翼を生やしたグリフォンが、その身体に直撃する。

 近接武装に特化している奴は、特に魔法攻撃に弱い。魔法耐性よりも、物理耐性に比重を置くからだ。だから、ナロにこの一撃はかなり効くだろう。


 けど、まだだ。まだ足りない。


「ラル・ライズルド!」


 今度は光属性のレベル4魔法。白く輝くユニコーンが、ナロの身体を貫いた。

 悲鳴。叫び。


「ああっ! ああああああ!!」

「ナロ! ナロぉ!」


 振り向くとそこには、〈杖〉を持ったナエがいた。装備を切り替えたのだろう。目的は単純、ナロの体力を回復させるためだ。

 そして、そこに隙がある。


 俺は〈(ブーツ)〉をジェネレート、一瞬でナエへ接近する。ナエはそれに対応しきれていないようだ。そうだ。この状況を作るために、ここまでしたんだから。

 俺は地面を蹴って跳躍、ナエの上を取った。そして、叫ぶ。


能力(アビリティ)、〈旋風爆砕脚(せんぷうばくさいきゃく)〉!!」


 爆風を纏った俺の蹴りが、ナエの胸部に直撃した。


 呻き声。それに被せるように、追い打ち。蹴りを数発叩き込んで、ナエの身体を強く地面に打ち付けた。

 ナエの身体が跳ねる。俺は地面に着地し、ナエを思いっきり蹴りつけた。


 ナエの身体が吹き飛び、壁に激突する。そしてナエはそのまま──地面に崩れ落ちた。

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