11 囁き、諦め、だけれど
「くっ!」
俺は力強く〈大剣〉を振った。しかしそれは、ナロにあっさりかわされる。
そして、〈双剣〉の刃が俺の腹に突き刺さった。身体に痛みが走る。俺は思わず、呻き声を漏らした。しかし血は出ていない。痛みだけがある。何もかも、〈オメガ〉の時と同じだ。
俺は激痛を抑え込みながら、後ろへと後退した。
最中、ナエが連続で魔法を唱える。モクゾルガとカイゾルガ、木属性と水属性のレベル3の魔法が俺を襲う。
大量の木の槍と水の弾丸が迫ってくる。横に避けるだけじゃかわしきれない。
俺は〈跳躍〉を発動、一気にドームの外壁まで跳んだ。魔法をやりすごす。
ナロが俺を追ってきていた。俺は天井に手をつき方向転換、ナロの振るった〈双剣〉をかわす。
しかし直後、俺の身体を光の矢が貫いていた。
「が……っ!」
苦痛で顔が歪む。俺の動きが一瞬、止まった。
その隙にナロが天井を蹴り、空中で俺との間合いを詰める。
〈双剣〉で切り裂かれた。
激痛。
直後同じ場所に、蹴りを叩き込まれる。
身が裂けるような痛み。
俺の身体が勢いよく地面に激突した。HPが減っていく。銃弾の比ではない。俺の体力は今、半分ほどまでに減少していた。
そして、倒れる俺をめがけ、上からやってくるナロが向かってくる。〈双剣〉を降り下ろそうとしていた。
俺は激痛で痛む身体を起き上がらせ、その場から跳ねる。俺のいた場所に〈双剣〉の刃が突き刺さった。間一髪だ。
ナエが光の矢を放ってくる。俺は斜め後ろへと飛び退いてそれをかわした。
そして〈銃〉を生成してナロとナエをけん制、俺は後退しつつ呼吸を整える。
強い。
「君の死だよ、八雲周」
「諦めなよ、八雲周」
ナロとナエ、二人が俺に向かって〈双剣〉と〈弓〉を構えた。
あいつらは何を言っているんだろう。
負けたら、死ぬ。
それはわかる。
でも、諦めたら何か変わるか?
死ぬのが確定するだけじゃないか?
「しょうがないなぁ……」
俺はひとつため息をつき、〈銃〉をバニッシュ。そして新たに〈魔法剣〉をジェネレートし、それを手に取った。
全力でいかなきゃ、死ぬだけだ。
それに死んだら。
香凜とも会えなくなる。
何も感じれなくなる。
生きているのは嫌いじゃないし。
死ぬのは、嫌だ。
だったら。
「諦めるわけ、無いだろ?」
俺は、強く地面を蹴った。
同時にナロが迫ってくる。今、ナエが光の矢を放った。数発連続だ。俺にそれを、避けさせようって算段なんだろ?
「カイティア」
俺は水属性のレベル2魔法を発動する。〈魔法剣〉が光輝いた。そして迫りくる矢に、大量の水が真横からぶつかった。
矢の軌道が変わる。俺は目の前のナロだけに専念、〈魔法剣〉で切りかかった。
俺の初激を、ナロは〈双剣〉の刃で防ぐ。そしてもう一方の刃を俺に振りかぶった。
「ゴルゾルガ、エンゾルガ!」
俺は金属性レベル3魔法、そして同時に火属性のレベル3魔法を放つ。大量の金属片と火球が、俺達の周囲に現れた。
ナロは危機を感じてか、その場から飛びのく。それでいい。そして金属片と火球は、目標へと向かっていった。そう、本来のターゲットである、〈弓〉を構えたナエに向かって。
俺は〈疾走〉を発動、ナエとの間合いを詰めていく。ナエは今、無数の金属片と火球、ゴルゾルガとエンゾルガの攻撃に耐えるのに精いっぱいだ。
ナエの武装は重い。ナロのような軽量化した防具ならともかく、あの重装備ではゴルゾルガとエンゾルガを避けきるなど、まずできない。
必然的に、魔法攻撃に耐えるとしたらそれなりの策を──例えば、固定能力の〈対魔法障壁〉を発動する、とか。
ゴルゾルガとエンゾルガの攻撃を、ナエは光輝くバリアで受けていた。そう、〈対魔法障壁〉だ。アレの発動中は物理攻撃に対する態勢が低くなる。そこを狙えばいい。
「待ってろ、ナエ!」
「頼むよ、ナロ!」
相方を助けるために、〈双剣〉を持ったナロが後ろから追ってきていた。そう、こうなったらあいつらはこうするしかない。
だから。
俺は、後ろを振り向いた。そこには俺を追うことに精一杯なナロが、ナエ以上に無防備なその姿がある。
俺は〈魔法剣〉をバニッシュ。そして〈杖〉を装備するとそれをナロに向け、叫んだ。
「ラル・ダクズルド!」
闇属性のレベル4魔法がナロに向かって放たれた。黒い翼を生やしたグリフォンが、その身体に直撃する。
近接武装に特化している奴は、特に魔法攻撃に弱い。魔法耐性よりも、物理耐性に比重を置くからだ。だから、ナロにこの一撃はかなり効くだろう。
けど、まだだ。まだ足りない。
「ラル・ライズルド!」
今度は光属性のレベル4魔法。白く輝くユニコーンが、ナロの身体を貫いた。
悲鳴。叫び。
「ああっ! ああああああ!!」
「ナロ! ナロぉ!」
振り向くとそこには、〈杖〉を持ったナエがいた。装備を切り替えたのだろう。目的は単純、ナロの体力を回復させるためだ。
そして、そこに隙がある。
俺は〈靴〉をジェネレート、一瞬でナエへ接近する。ナエはそれに対応しきれていないようだ。そうだ。この状況を作るために、ここまでしたんだから。
俺は地面を蹴って跳躍、ナエの上を取った。そして、叫ぶ。
「能力、〈旋風爆砕脚〉!!」
爆風を纏った俺の蹴りが、ナエの胸部に直撃した。
呻き声。それに被せるように、追い打ち。蹴りを数発叩き込んで、ナエの身体を強く地面に打ち付けた。
ナエの身体が跳ねる。俺は地面に着地し、ナエを思いっきり蹴りつけた。
ナエの身体が吹き飛び、壁に激突する。そしてナエはそのまま──地面に崩れ落ちた。




