第86話 収束 (3)
…ここはどこだろう?
一面に色鮮やかな花が咲いている。
綺麗だなあ。
ふと見ると、花びらが舞う中にエンキ、フェイ、アイミーの三人が立っていた。
「皆!」
三人のもとに向かって走っているのに、何故か全く距離が縮まらなかった。
だが、それでも三人はずっと笑顔を浮かべていた。
「タツマ、お前はまだこっちに来るな」
「何で!僕も皆と一緒に…」
「今のお前では美しくない。もっと身なりを整えてから来い」
「タツマはもっと色んな人と恋しなよー!」
タツマの目から涙が溢れる。
何でそんなこと言うの。
まるでもうお別れするみたいじゃないか。
「僕は皆がいたから頑張れたんだよ。一人ぼっちになったら、僕は…」
「甘えんな!」
エンキは強い口調で言い放つ。
「まあ、俺達が言えた言葉じゃないけどな。でも、これだけは言っとく。お前はもっと自分の人生を生きろ!誰かのためじゃなくて、自分のやりたいこと、見たいこと、全部やってこい!」
「土産話、待っているぞ」
「タツマ、またねー!」
◆
ゆっくりと目を開けたとき、何故か一筋の涙が頬を伝った。
あれ、なんで泣いてるんだろう。
何か夢を見ていたような…どんな夢だっけ。
起き上がろうとすると、全身に痛みが走った。腹部には包帯が丁寧に巻かれていた。
ここは牢屋の一室か。
何があったんだっけ。
まだ頭がぼーっとする。
「まだ安静にしておけよ。あんた、相当身体に無茶させてたからな」
「君は…ゼイン…だったか」
そうだ。
少しずつ思い出してきた。
僕は彼らと戦って…負けたのか。
脳裏に三人の姿が浮かぶ。
「エンキは!?フェイとアイミーも!」
ゼインはタツマから視線を逸らす。
何も答えなくても、その意味は分かった。
「…どうして僕を殺してくれなかったんだ?」
「さあな。運が良かったんじゃないか」
「僕を殺してくれないか」
「はあ?何言ってんだ、お前」
「僕はもう生きている意味がない。早く皆の所に行きたいんだ」
「それが、お前がしたいことなのか?」
その言葉に三人の笑顔が、ふと頭に浮かぶ。
…そうだった。思い出した。
皆にやりたいことやってこいって言われたんだった。
タツマは涙を拭い、顔を上げる。
「いや、ごめん。忘れてくれ。三人にたくさん土産話をしなくちゃいけないんだった」
タツマは吹っ切れたような顔をする。
一度に仲間を三人も失ったんだ。
もっと落ち込むかと思ったが、もう乗り越えたのか。
精神的に弱そうに見えたが、そうでもないようだ。
「…そうか。ところで、俺がここに来たのはお前に頼みがあって来たんだ」
「頼み?僕に?」
ゼインは顔の前で両手を合わせる。
「お前の細胞を少しくれないか!」
「え?」
「あんな風に力を出せるなんて普通じゃない!あんたの身体がどうなってるか調べてみたいんだ!」
「べ、別にいいけど」
「本当か!」
タツマの皮膚組織と血液を採取するために、ゼインは黙々と準備を進める。
ついこの前まで殺し合いをしていたんだ。恨み言でも言われるかと思ったのに、彼はもう気にしてないのか。
「君、変わってるね」
「そうか?」
「うん。もし君との出会い方が違ったら、友達になれたのかな」
「さあな。それは、これからの俺達次第だろ」
タツマはフッと笑う。
「そうだね。君はこれからどうするの?」
「俺はこのあとディンゴに行くんだ」
「もしかしてノール家に行くの?」
「え、なんで知ってるんだ?」
「シーケム・ノール氏は珍しい物を集める貴族として有名だからね。毛皮とか獣の剥製とか。ディンゴに行くなら、そこかなと思って」
「獣か…」
魔物の中でも獣を集めているのか。
まだ見たことのない奴とかもあるかもしれない。
気前が良い人なら素材を分けてくれたりして…。
目をキラキラと輝かせるゼイン。
採取を終えると、ゼインは大切に小瓶に保管した。
「起き抜けに悪かったな」
「ううん、いいよ。じゃあ、またどこかで」
「ああ、またどこかでな」
タツマはゼインを見送った後、ベッドに横になり、目を瞑る。
エンキ、フェイ、アイミー。
僕、頑張るよ。
楽しみに待ってて。




