第73話 決行 (2)
「カノーゴ。何でここに…」
「お前をずっと見ていたからな。囚人達を囮にして、闘技場の来客用入口から出ようと企んでいることは想像がついた。だから、こうして先回りさせてもらったわけだ」
見られていたのか。もっと周囲を警戒すべきだった。
だが、何故一人でここに?
俺に目をつけていたのなら、幹部や守り人達を引き連れてきてもおかしくないのに。
「はーん。もしかして、エンキを俺にけしかけたのもお前の差し金か?」
スタングにもカマをかけていたのか。
疑われたとき用の策もスタングと話しておいて良かった。
「ああ。その通りだ」
カノーゴは目元を細め、嬉しそうに笑った。
事が上手く運んで気持ちが高揚しているのか饒舌に話し始める。
「お前達の脱獄が思いのほか上手くいって良かったよ。あのとき、その男に素直に吐かれていたら、ここまでの騒ぎにはならなかっただろうしな」
「お前の目的は何だよ。バカ正直に守り人としての仕事をこなしたいわけじゃないだろ」
「もちろん。俺は幹部になれるようなネタを探してただけだ。エンキを出し抜いたお前らをここで俺が止めれば出世に繋がる。むしろお前達に感謝したいくらいだ」
幹部になりたい?それが目的ってことか?
ここで出世したところで、所詮は籠の中の鳥だ。
偉くなることに何の意味がある。
「カノーゴ、お前だって外に出たいだろ?俺達と一緒に来い!今なら外に出れる!」
「断る」
「何でだよ。自由になりたくないのか?」
「俺は自由なんて望んでない。俺はズックを殺すためにここにいる」
カノーゴの目には明確な殺意が籠もっていた。
コイツ、元々ズックと何か関係があるのか?
「…どういうことだ?」
「お前には関係のないことだ。俺はお前らを止めた手柄で幹部に成り上がる。それだけだ!」
カノーゴは素早く走り出すと、手近にいたエフィの首に腕をまわす。
ちっ、人質のつもりか。
「エフィ!」
「動くな!このまま行くと言うなら、この女を殺す。まあ、このまま逃げたとしても当然殺すけどな」
どうする。
追手が来る前にここを出ないと面倒だ。
俺にとって、あの子は今日初めて会った何でもない子だ。
ログには悪いが、ここは…。
「ログ…」
ゼインがログに呼び掛けようとしたと同時に、エフィは落ち着いた様子で口を開いた。
「私はログを見守りに来ただけなんだ。見逃してくれないか?」
「脱獄を企んだ時点で死罪だ」
「そうか。それは残念だ」
「変なこと考えるなよ。動けば、その首へし折るぞ」
「ほう、それは困るな」
何だ。この女。
何故こんなに落ち着いていられる。
「ところで、お前は新人か?」
「時間稼ぎのつもりか?その手には…」
「いや、私のことを知っていたら、私がいる時点でこの脱獄を一人で止めれるなんて思わないだろうと思ってな」
「何?」
エフィは不敵な笑みを浮かべる。
すると、エフィの身体が次第にひと回り大きくなり、額からは二本の大きな角が生えてくる。
その姿は異形と呼ぶ他なかった。
そして、カノーゴの腕を掴み、軽々と投げ飛ばす。
その瞬間、カノーゴはスキルを使い、受け身を取る。
地面にぶつかったとき、ガキンッと金属が当たったような音がした。
アイツのスキルは『硬化』か。
肌の色も黒く変色している。
そのおかげでエフィの投げ技を受けても無傷で済んだのか。
「ほう、やるな」
「女、貴様…」
エフィの初めて見る姿に驚くログ。
「エフィ、その姿…」
エフィはログを一瞥した後、再びカノーゴに向き合う。
一瞬見えた彼女の表情はどこか寂しそうに感じた。
「話は後だ。まずはアイツを片付ける。手出しは無用だ」
そう言うと、エフィは地面を踏み込む。その勢いのままカノーゴに殴り掛かる。
どうにか受け流すが、腕はビリビリと痺れている。
この女、なんて力だ。
反撃に出るカノーゴの攻撃をエフィは難なく避けると、隙をついて右足を振り上げ、顔面に蹴りを叩き込む。
カノーゴは壁に吹っ飛ばされ、その衝撃で吐血する。
今ので肋骨が二本は折れたか。
スキルを使ってるのに、この威力。
この女は格が違う。
数十秒対峙しただけで分かる。
それに、こいつはまだ本気を出していない。
ゆっくりとカノーゴに歩み寄るエフィ。
「どうだ?まだ戦うか?」
これ以上はやるだけ無駄か。
カノーゴはスキルを解除し、諦めたように両手を挙げる。
「いや、もういい。お前らがここを出れる力を持っていることが分かった。俺はまだ死ぬわけにはいかない」
脇腹を押さえながら立ち上がる。
「お前らを捕まえるのは諦めるよ。幹部になる方法は他にもある」
「聡明な判断だな」
カノーゴに戦意がないと分かると、エフィはその力を解き、元の姿に戻った。
ドーン!
その瞬間、闘技場の方から衝撃音が鳴り響く。




