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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第89話 交流会 (1)

宿屋の店主に聞くと、ノール家は街から離れた郊外にあるそうだ。

徒歩で向かうのは勧めない、とのことだった。

この街には待合い馬車があるらしく、それに乗って向かうことになった。

待合い馬車は決まった道順を走る。そして、降りたい場所を言えば、そこで降ろしてもらえるらしい。

郊外とはいえ、ノール家は大きい屋敷のため、待合い馬車の道順の中にも含まれていた。

待合い馬車には二十人は乗っている。

思ったより利用されてるんだな。

この街ではかなり馴染なじんだ移動手段のようだ。

ログは乗客の中に見覚えのある顔に気付く。


「あれ、もしかしてファミルさん?」

「君達…。奇遇だね」


まさか彼女まで乗っているなんて。

ゼインが不思議そうに僕達を見つめる。


「ゼイン、こちらはファミルさん。昨日街で会って食事をご馳走になったんだ」

「どうも」


ゼインはペコリと頭を下げる。


「よろしくね。君達はどこまで行くの?」

「ノール家までです」

「じゃあ、君達も交流会に?」

「え、じゃあファミルさんも?」

「ええ」


彼女もゼインのように研究や収集を趣味にしているのだろうか。意外だ。

ファミルも交えて世間話をしているうちに、ノール家の屋敷に到着した。

待合い馬車を降りると、既にもう日が暮れ始めていた。

早めに出た方がいいと教えてくれた宿屋の店主に感謝だな。

ノール家は山間やまあいにあり、周囲に他の建物は見当たらなかった。

山から見下ろした風景は街と自然が一体となった美しい景色だ。

穏やかに過ごすにはちょうどいい場所だな。

ノール家の屋敷の門をくぐると、広大な庭に出迎えられた。剪定せんていされた草木と香り高い花々が植えられている。夕焼けに照らされ、一段と美しかった。

庭の奥には煉瓦造れんがづくりの大きな屋敷が建っていた。


「綺麗な庭だから、私は少し見てからいくわ」

「あ、はい。じゃあ、また後で」


ファミルと別れ、屋敷まで続く敷石を辿っていく。

すると、どこかから怒鳴り声が聞こえてきた。

気になって声のする方へ覗き込む。


「お前はまだこんなくだらない道楽にうつつを抜かしているのか!」

「兄上!その話はもう先日終わっただろう」

「終わっていない!お前の浪費癖のせいで我々がどれだけ迷惑していると思っている!」

「その話はあとにしてくれ。今日は交流会があるんだから」


兄弟喧嘩だろうか。

兄上と呼ばれていた男と目が合うと、舌打ちをして足早に立ち去って行った。

残った一人がこちらへと近寄ってくる。


「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。交流会ご参加の方ですかな?」

「あ、はい。ゼインと言います」

「おぉ!あなたがゼイン殿ですか!ようこそ当屋敷にいらっしゃいました!私、シーケムと申します」


この男がシーケムか。

ふくよかな身体に整えられた小さな口髭が不釣り合いに見えた。

求められた握手に応じると、汗ばんだ手で力強く握り返される。


「こ、こちらこそ招待していただいてありがとうございます」

「ちなみに貴殿はどういった分野に興味がおありで?」


突然、シーケムはゼインの耳元でささやく。

思わずゼインはゾクゾクと身悶えする。反射的にシーケムから距離を取り、見えないように服で手を拭いた。


「と、特定の分野はないです…。最近だと人の皮膚組織を採取して調べたりしてますけど」


シーケムは興味深そうに何度も頷く。

すると、屋敷の方に向かってゆっくりと歩き始めたので、ゼインも歩調を合わせて歩く。


「ふむふむ、貴殿のスキルはかなり珍しいとお伺いしております。是非後ほど拝見したいですな。代わりと言ってはなんですが、私の収集品の中からとびっきり珍しい物をお見せいたします」

「それは是非!…あの、俺のスキルの話はどこで聞いたんですか?」

「ああ、実は近くにある酒場で、金髪の女性から聞きましてね」

「金髪の!?名前は!?」

「申し訳ない…。名前はどうも覚えておらず…」

「そいつ、どこに行った!?」

「彼女はいつの間にか帰っていたようで、どこに行ったかは私にも分かりません」


十中八九、そいつはユーリだ。

何で俺のことをシーケムに話したんだ?何のために?

シーケムは胸ポケットから懐中時計を取り出す。


「失礼、準備があるので、私はこれで。詳しい話は後ほど。二十時に私の部屋で。その前に別の方と会う予定があるので」

「あ、分かりました」


離れて待っていたログが声を掛ける。


「ゼイン、大丈夫?慌ててたみたいだけど。何の話だったの?」

「あ、いや、なんかあとで珍しい物を見せてくれるってさ」

「…それは良かったね」


いつもならもっと嬉しそうにしてるのに、ゼインは何か考え込んでいるようだった。

そんなことはお構いなしにエフィが口を開く。


「ゼイン、交流会というのは食事はでるのか?」

「…さあ。軽食くらいは出るんじゃないか?」

「よし、すぐ行こう」

「待て待て、まだ始まってない」


ゼインは慌ててエフィの手首を掴んで引き止める。


「エフィとシリルは、屋敷には入っちゃダメだ。その辺に隠れておいてくれ」

「なんでだ!」

「なんでニャ!」

「喋るキャトリアに魔人なんて珍しすぎるだろ。ここに集まるのは、収集家だったり研究家なんだ。もしお前らの存在がバレたら、すぐ捕らえられて解剖される。そのうえ、薬漬けか剥製にされちまうぞ」

「そんニャ…。シリル、お留守番してるニャ」

「私まで…」


ゼインなりに二人のことを心配してるんだな。

ログがゼインを見直したように眺めているのに対して、ゼインは内心ホッとしていた。

二人がシーケムみたいな金持ちの目に留まって『一生豪華な食事を約束しよう!』とか言われたら、ホイホイついていきそうだからな。

貴重な研究対象をそこらの物好きに奪われたら困る。

ゼインはログだけを連れて、屋敷内に入る。

案内された会場では、もう何人かが先に話を弾ませていた。

左の方からはラビッタを用いた治療薬の研究、右の方からはイノボアの遺伝子を操作して、良質な肉を得るための実験。

何だ…ここは…。夢の国なのか!?

興奮のあまり荒い息遣いを繰り返すゼイン。


「ゼイン…。ちょっと落ち着こう」


ゼインをなだめているうちに、会場内に人が増えてきた。

すると、シーケムが会場の前方に立つ。


「皆様、遠いところ当屋敷にようこそおいでくださいました!本日は皆様の見聞が広がればと考えております。それでは、ごゆっくりご歓談下さい」

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