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この愛を君に  作者: もも
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婚約をしないで

異世界転生を書きたくなりました。暇つぶしにして貰えたら嬉しいです。

                      

  伯爵令嬢キャサリン・リーガルは五歳の時に庭で転んだ拍子に前世の記憶を思い出した。ここは以前読んだ小説の舞台になっている世界で、婚約者サミュエル・グローリーに将来婚約破棄されるストーリーなのだ。まだ五歳なのにその重さに潰れたキャサリンは3日間熱を出して寝込んだ。  

 七歳で婚約し仲良くしていたにも関わらず十五歳で婚約破棄なんて御免だわ、それから相手を探しても優良物件は残ってない、修道院に行くしかないの?まだこれからよ、婚約が決まるまで二年ある。小説では十五歳で入学する王立学院でサミュエルがヒロインのミリアに一目惚れして、キャサリンとの関係が冷めるのよ。覚えているうちに書いておかなくちゃ。

机の引き出しから鍵の付いた手帳を取り出し覚えていることを書き始めた。

七歳で自分の為になる事を身につけたいと考えたキャサリンは語学を学びたいと父にお願いをした。娘の本気を見て取った伯爵は優秀な家庭教師を手配してくれた。

キャサリンは必死で5ヶ国語を学び七歳で自由に操れるまでになった。

跡継ぎは三歳下の弟なので、結婚はせず小さな家を町に買って翻訳の仕事をして生きていくのもいいかもしれない。前世では通訳の仕事をしていた記憶があった。


七歳になり父から婚約の話があった時、相手の名前がサミュエル・グローリーで侯爵令息だと言われた時、これが強制力なのかと崩れ落ちそうになったキャサリンだった。

婚約はしたくないと父に訴えたが相手の家が格上でこちらからは断われない、何故自分なのかと尋ねたら、遠い縁戚にあたるので両家が納得したとのことだった。

それならそれで考えていた事を実行してやろうと考えたキャサリンだった。


顔合わせ当日は侯爵家へ両親と挨拶に行くことになった。金色の髪に金色の大きな瞳のキャサリンはピンク色のレースのついたワンピースを着せられていた。侍女達がお人形みたいでとても可愛いと騒いでいたが、本人はこれからのことを考えて緊張していたので楽しむ余裕はなかった。



侯爵家はさすがに大きくお城のようだった。家令に応接間に案内され少しお待ち下さいと言われ、ソファーに座って直ぐにドアがノックされた。侯爵夫妻と男の子だった。青みがかった金髪にグリーンの瞳をしていた。小説が実体化するとこんな感じなんだとキャサリンはしみじみと見入ってしまっていた。

「今日はおいで頂きありがとう。息子のサミュエルだ。宜しくお願いする」

「こちらこそ宜しくお願いします。娘のキャサリンです」

「とても可愛らしいお嬢さんですわね、将来が楽しみですこと」

 夫人が柔らかな笑みで告げた。

「御子息こそしっかりしておられるようにお聞きしています。ご安心ですな」

しっかりしているなら十七歳で婚約破棄なんてしないわよ、と心の中で毒を吐くキャサリンだった。

「これから大人の話をするからサミュエルお庭を案内してあげなさい」

「はい、行こうかキャサリン嬢」

「はい、お願いします」

伯爵家の庭も見事なのだが、侯爵家の庭はそれを上回って素晴らしいの一言に尽きた。全部見るには何日もかかるだろうというくらい広かった。

歩き疲れた頃、四阿にお茶が用意されているのでどうぞとサミュエルに誘われた。

テーブルには女の子の好きそうなケーキやクッキーが沢山並べてあり、紅茶を入れてくれた侍女が下がると、彼らは離れた所にいるだけになった。

キャサリンは思い切って言うことにした。

「サミュエル様、この婚約断って下さいませ」と

「えっ、どうして?僕の事知らないよね、見た目が嫌いなの?」

「いいえ、実はこの間予知夢を視たのです。サミュエル様のお姿もはっきりと」

「だからさっきじっと見ていたんだね、それでどうして婚約したくないの?」


「これから十五歳になれば私達王立学院に入学しますよね。そこでサミュエル様はミリア様という可愛らしいお嬢さんに一目惚れされるんです。それまで仲が良かった私との仲は冷えてしまい、私が十五歳の時婚約破棄をされます。

酷いと思われませんか?幸せなのはサミュエル様達だけ、私には碌な縁談は望めないのです」

「うん、確かに酷い。でもそんなことを信じてこの話を壊す訳にはいかないんだよね。君も知っていると思うけど婚約は家と家の契約だからね。

要するに僕が君を裏切らず、君だけを好きでいればいいんだよね。僕は君を気に入った。はっきりと話をしてくれる所も、君の見た目も凄く好みのど真ん中なんだ。

子供でも契約書を書く、父上のサインが入ったものだ。決して君が将来困ることのないようにするから、僕を信じて。大人も契約書を交わしていると思うけどね」

「わかりました、そこまでおっしゃって頂けるのなら、覚悟を決めますわ。

ではよろしくお願いします」

「硬いな、僕のことはサミーと君のことはキャスと呼んでいい?」

「はいサミー様」

「呼び捨てでお願いしたいんだけど」

「それは徐々に」


帰りの馬車の中でキャサリンはどっと疲れが出て眠ってしまった。本当に七歳なのかしら?自分のように大人が中に入っているんじゃないかしら?優しい母に凭れながら夢の中でそんな事を考えていた気がする。


 

それから三日後サミュエルがキャサリンに会いに来た。手には契約書を持って。庭にお茶の支度をしてもらった後、侍女を下がらせて二人だけで話す事になった。

「それで、予知夢の話を詳しく教えてくれるんでしょ。相手はミリアさんだっけ、平民かな?貴族の名前にそんな人はいなかった。」

「そうです。今はまだ平民ですが、お母様が元貴族でこれから病気で亡くなった後伯父様の子爵家に引き取られるみたいです。外見は紫色の髪に大きな黒い瞳ですわ。王立学院に入学されるので頭は悪くないと思います」

「ありがとう、もういいよ。ごめん、君にとって辛い事を聞いたね。顔色が悪くなった。許してくれる?お詫びに何でも言ってくれたら叶えるよ」

「特に思いつきませんので、またでかまいません」

「これがこの前約束した契約書だよ。こちらの都合で破棄したら君が十七歳以降困らないくらいの金額を渡す、僕の個人資産から。一部は僕が、もう一部は君が持っていて。でも僕の気持ちが君から移ることはないよ、まだ二度目だけど惹かれているのは事実だからね。他には夢に出てきた事はない?」

「今から一年後サミー様はお兄様になられます。弟さんです。まだお腹の中にもおられないのでこれが真実になれば信じて頂けると思います。それから侯爵領にある大きな山で二年後火事がおきます。今から池を掘っておかれたら消火が容易かと」

「大きな山だとアルル山かな、どんな具合か父上にそれとなく話をしてみるよ。僕に弟か嬉しいな、母上は女の子が欲しいみたいだけど」

「あっ、私が言ったとはおっしゃらないで下さい。予知夢を見たのはこの前が初めてなので」

「もちろんだよ、そうだ評判のチョコレートを買って来たんだ。どうぞ召し上がれ」

「わあ、かわいい、一つ頂きますね。美味しいです。ひとつずつがお花みたいになってるんですね。サミー様も食べて下さい」

「うん、美味しいね。又買ってくるよ」



それから半年後サミュエルの母の懐妊が邸の皆に明らかにされた。

疑ってはいなかったがこれでキャサリンの予知夢に信憑性が増した。

サミュエルはアルル山に人をやり下草の様子や川の様子を調べて貰うように父に頼んだ。息子が何故そんなことを言い出すのか気になった侯爵だが、山を放置すると変な輩が住み着いて火事でもおこされたらたまらない。一度燃え出したら消えないのが山火事で被害も大きくなる。早めに手を打っておくことにした。



 侯爵家には山を管理する部署があり、そこの責任者がジョンという名の男だった。四十代前半で山の事に誰よりも詳しいので数人の部下を置いて任せていた。

呼び寄せて下草刈りや枝切りに人を増やすように命令した。

山は広く、人手があるのは助かりますと言ってとても感謝して帰って行った。

ジョンからボヤの報告があったのはそのしばらく後だった。

山で迷った麓の村人が暖を取るためにおこした火が危うく火事になるところだったらしい。

幸い池の水がなみなみと溜まっていた事がいいように働いて延焼を防げた。

サミュエルはこれが大きな山火事にならなかった事をキャサリンに感謝をした。

                   

仲を深めていくことにしたサミュエルはキャサリンを甘やかすことに決めた。薔薇の花を一輪ずつ愛の言葉を書いたメッセージカードと一緒に届け、会える日は花束にお菓子や負担にならないくらいのアクセサリーを持参した。

お茶を飲む時にはお菓子を自分の手から食べさせて頬を赤くするキャサリンを見て思わず顔が緩むサミュエルだった。

そのうち膝に抱っこするのも楽しいだろうなといけない計画を立てるサミュエルは甘さをだだ漏れにしていた。

それに気づいていないのはキャサリンだけだった。優しい婚約者だとは思っていたが、小説のことがあり心変わりされた時のことを考えずにはいられなかった。

この優しい人が彼女と出会ったら冷たくなるのかと思うと辛くなった。





 二人の婚約期間はもう五年が過ぎ、サミュエルは学院に入学する年になってしまった。


好きにならないようにしてきたけど無理だった。とにかく甘やかされている自覚はあった。

ミリアという娘と出会って恋に落ちてしまったら私は領地に帰って、そっちの学校へ行こう。二人が仲良くしているのを見たり、聞いたりするのは辛すぎるから。そして婚約破棄をする。ほら見たことかくらい言ってやるのだ。乙女心を何だと思っているのかって。婚約はやめてってあれ程頼んだじゃないかって。

でも二人が仲を深めてお互いしか見えなくなるまでこのままでいいの?

別れるならもっと早くケリをつけたいわ。

今は彼以外考えられないけど、暫くすれば忘れられる。忘れる、絶対に。

仲良くなっていることをどうやって調べたらいいのかしら。大人なら探偵だけど、子供じゃ無理だし。

そうだ従兄のヨハンが学院に居たはず。こんなことをお願いするのは恥ずかしいけど背に腹は代えられないもの。最初はさり気なく聞いてみればいいのよ。サミーは学院ではどう?とか。ミリアさんって知ってる?とか。

                    

そこでキャサリンはヨハンに手紙を書く事にした。

相談があるので訪ねて行ってもいいだろうか、いつが都合がいいだろうかと。出来るなら入学式の前の日がいいなと考えた。

ヨハンは真面目が服を着たような男の子だ。口も堅かったはず。情報は漏れることはないと信じたい。


 小説にはヨハンに相談するなんて書いてなかった。ただサミュエルとミリアが恋に落ちて、それまで仲が良いと思っていたキャサリンは心底驚くの、人生に絶望さえするのよ、まだ十五歳なのに。前世では高校生なのに、酷い世界だわ。


 七歳から五年、語学だけはなく経済や歴史、農業の知識や薬学の知識も身につけたわ。手先も器用だから刺繍やレースも編める。

十三でこのスキルって十分なんじゃないかしら。                                                             

家の厨房にも時々お邪魔して料理やお菓子の作り方を教えて貰ったから、何となくだけどこちらの世界の火の使い方とかわかるようになったからシェフ様々だわ。

変わったお嬢様だって思われてたけど可愛がって貰ってるからいいことにするわ。


さあ行動に移すわよ。

ヨハンからそっちの家に行くと返事が来たのは一週間後だった。三日後の学院の帰りに寄ってくれるらしい。この前会ったのは親戚だけのお茶会だった。

久しぶりの従妹が何の相談があるのか心配になったのだろう。

「やあキャス、久しぶりだね。また綺麗になったじゃないか」

「お久しぶりです、ヨハン兄様。来ていただいてありがとうございます。兄様も背が高くなられて、首が痛くなりそうですわ」

「身長だけじゃないぞ、中身も大きくなっている。で、相談とは何だ?」

「お茶を飲みながら聞いて下さいな、ケーキも用意させましたの」

「うん、そうだな。そうしようか。婚約者とは上手くいっているのか?」

「ええ、今のところは」

「今のところって、何か心配な事があるのか?」

「今年学院に入学されるのですが、その、同級生の令嬢の方々は美しいでしょう、私はまだ子供ですので」

「子供って、キャスは十分綺麗だよ。これからがもっと楽しみという感じだな。

ああ、僕に監視をして欲しいということかい?良いよ学年が違うから気がつかないかもしれないけど、噂になるくらいになるとさすがに注意くらいはしてあげる」

「ありがとうございます、兄様。甘えついでにミリア様という方がどんな方か分かれば嬉しいです」

「その娘がキャスのライバルなのか?」

「まあそうですわ」

「ふうん、そんな不実な男はやめておけ」

「まだそうなったわけではありませんので。可能性だけで解消していただく訳にいかないんですの」

「何か理由がありそうだね。話を聞かせてくれないか?」


 情報を貰う以上素直に話しておく必要がある。キャサリンは昔見た予知夢?として話しておくことにした。


「当たっていることが何個かある以上、もしかしたらという気持ちはわかるよ。

でも彼は否定しているしキャスにも甘いんだな?」

「ええ、それでも不安が拭えなくてお兄様にお願いをしたということなんですの」

「そういうことなら全面協力するよ、任せて。探偵みたいにはいかないけど」

「ありがとうございます。」


こうしてキャサリンは打てる手は打った。

後は待つだけだ。 

入学式の後制服を着たサミュエルが来た。 

「サミー入学おめでとうございます。制服姿も素敵ね、格好いいわ。お祝いにプレゼントがあるの。まずは応接室でお茶でもいかが?」

「ありがとう、いただこうか。今日もキャスは可愛いね」

「サミーにこれを選んでみたの、どうかしら?」

そう言って金色のガラスのペンをプレゼントした。自分が使ってみて書きやすかった物だ。  

それとホールのケーキだ。甘いものが苦手なサミュエルの為に砂糖が少ないチーズケーキにした。                        

「ありがとう、考えて選んでもらったのがわかるよ。素敵だね、大事に使うよ。ケーキも美味しい」



お茶をしながら入学式のことを聞いた。一番聞きたかったのはミリア様のことだ。会ったかどうか何気なく口にしてみた。思わずケーキを喉に詰まらせかけたのでこれは黒だなと思った。

慌ててお茶を飲んだサミュエルはにっこりと笑って、会ったけどそれだけだと言った。

予知夢では同じクラスのはずだと追い詰めることにした。あと二年程しないと結果を教えてもらえないなんて蛇の生殺し状態ではないか。会ったと知っただけで心がジクジクするのに、これ以上のことは耐えられない。

「同じクラスなら交流があるはずだから惹かれるかもしれないでしょう、どうか今のうちに婚約を解消して下さいませ」

「嫌だ、キャスがいい、大好きなのも一緒にいて落ち着くのもキャスなんだ。どう言ったら信じてもらえる?何をすればいい?何に誓えば信じて貰えるの?」

縋り付くサミュエルに困ってしまうキャサリンだった。



実は朝、入学式場がわからない女子生徒が場所を訪ねて近づいてきた。容姿からミリアではないかと警戒したサミュエルだったが、見た瞬間好きだという気持ちが湧き上がり思わず告白しそうになって、自分が怖くなり慌ててミリアから離れたのだった。

あまりの気持ちの悪さに帰ったら直ぐにキャスに会いに行こうと思った。

しかし会いに来てみれば鋭い婚約者の突っ込みに心が折れそうになっていた。

いつもはドロドロに甘やかして帰る彼も、今日は余裕が無いまま帰ることにした。



読んでいただきありがとうございました。誤字脱字報告ありがとうございます。明るくて強気な女の子が書きたくなり登場させました。想いが叶うといいなと思っていますが、ヒーロー君は頑張れるのでしょうか?



只今新作  亡くなった姉の婚約者と結婚したら思いがけない溺愛が待っていました を書いております 。もう少しで投稿しますので宜しくお願いします。。

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