表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部  第二章 ヒロインたちの誤算 ~入学式・始業式終了のお知らせ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/129

4  ★


「……さて。まだ学園長が戻ってきておらぬが、始めるか」


 第二運動場から憲兵隊の連絡を受けたインクイジターことラビは、学園長室に呼んでおいた巫女たちを振り返る。


 目の醒めるような躑躅(つつじ)色の髪の美少女――高等部神学科から抜け出してきたカレン・スィードと、青い髪を古風に左右で結い上げた九歳の巫女シプリスだ。こちらは数少ない初等部である。


 巫女たちは普段はそれぞれの神殿で生活している。所属の神殿で巫覡(ふげき)としての英才教育を受けられるため、本来ならわざわざ外部の学校に通う必要はない。


 しかし今回は任務のため、神学科に在籍してもらっている。

 先ほどの逮捕劇を見ていたカレンが、若干引き気味に尋ねた。


「始めるのはいいけど……。さすがに、これはやりすぎだったんじゃ……。どうしてわざわざ、大公家に根回ししてまで憲兵隊に協力を依頼したのだ?」


「そんなもの、見せしめのために決まっておろう」


 ラビは事もなげに言う。


 神聖魔法の呪縛を使えば、憲兵隊に頼らずとも数十人程度ならいくらでも拘束できる。そうせずに敢えて憲兵隊を学園に潜り込ませたのは、『ヒロイン』たちに負荷をかけるためにほかならない。


「今回の大量逮捕は始まりにすぎん。問題は、まだ尻尾を出していない『ヒロイン』たちだ。分かりやすい『魅了』を使わずに悪事を働いている者の方が厄介だ。今回のことで焦り、ぼろを出してくれればよいが」


「『ヒロイン』たちの情報収集なら、うちに任せといて。な~んかキナくさい気配がするわ。逆路(ニジェート)のニオイがする。女神セシール様の名にかけて、うちが暴いたる♪」


 シプリスの方は、カレンと違って意気込んでいた。


 学園長の部屋でソファに勝手に座り、ローテーブルにオラクルカードを広げている。めくったカードは、星十字の逆位置だった。


「ほ~ら」


 それは、(ことわり)に反するものが(うごめ)いているという意味になる。

 シプリスは満足げにニヤリと笑ったが、それを見たカレンがラビに言う。


「ねぇ、初等部にヒロインはいないのだ。何もリィリを連れて来なくても……」

「うん? うちは大丈夫や、カレンお姉さん。逆路の阻止は、セシール様の御言葉やし」


 インクイジター任命時、『逆路を(はば)め』と託宣を下した心泉(しんせん)セシール・アン・セフィーリア女神は蒼水神殿の祭神であり、シプリスが仕える女神だ。今回、何か感じるものがあるのだろう。


「……それなら、十分気を付けるのだ。何か危ないと思ったら、すぐに逃げて助けを呼ぶこと!」

「ふふっ、だいじょうぶや。カレンお姉さんは心配性やなぁ」

「だって……」


 五大巫女とはいえ、シプリスはまだ九歳だ。カレンが心配になるのも無理はない。

 だが、『ヒロイン』を野放しにすれば世界が滅びへ向かう。九歳児の力も借りねばならないところだ。

 そんなやり取りをしている間に、オージェハイド学園長が戻って来た。


「遅れて申し訳ない」

「問題はないか? 学園長」


「ええ。彼女たちの母国は、いずれも異端審問に異議はないと。それぞれの親も、納得しています。すでに娘を見限った家門もあるくらいで」


 国家反逆罪に問われれば、普通の貴族は爵位剥奪のうえ一族全員処刑もあり得る。娘とはいえ一族の処刑が掛かっているとなれば、見限る家門が出てもおかしくはないだろう。


 学園長の報告に、インクイジターは頷いた。


「ここまでよく事を運べたな。神殿の根回しだけでは、もっと時間が掛かっていたであろう。フィデル・ハイド氏……いや、大公殿には感謝する」


「当主に伝えておきましょう」


 インクイジターから感謝の言葉を預かった学園長は、胸に手を当てて礼を示した。


 半年前のグランルクセリア王国で行われた初の『ヒロイン裁判』でヒロインの悪事の証拠を提供し、協力してくれた人物の正体はアシュトーリア王国のシェイドグラム大公であった。


 今回の大量逮捕に踏み切れたのも、シェイドグラム大公家の力添えがあったことが大きい。その裏にいる闇ギルドの存在も。


 総勢四十人もの『ヒロイン』の過去を含めた私生活や悪事の証拠を揃えるのに、彼らの協力を得られたのは僥倖(ぎょうこう)であった。


 役者も揃い一息ついたところで、ラビは本来の目的に戻る。

 ――『ヒロイン』を処す時間だ。


「では始めるとするか。何せ人数が多いからな。その間のことは、頼む。」

「……分かったのだ」

「任せとき!」


 合図の後、カレンたちは両手首に鈴の着いたリボンを取り付けて、祈りの姿勢に入った。

 りぃん、と小気味よい鈴の音が空気を打って反響した。

 巫女たちが天界との交信に入ったのだ。

 その間に、ラビは学園長に最終確認をした。


「学園長。『ヒロイン裁判』は、公開されねばならぬ。巫女たちの安全上、『四隅(よすみ)』はこの学園長室に展開させるが、他の者たちに共有できるか?」


 四隅とは、『四隅の目』という精霊術だ。異空間にある『法廷』を外から見ることのできる窓を作り出す。


『法廷』にはヒロイン及び裁判に関係のある者と裁判官しか入ることができないため、外側から『法廷』内を見るためのものだ。


「お安いご用です。全学科の教室や主要な施設には、魔法の映像装置が設置されています。魔導通信によって、学園内のどこでも同時共有が可能です」


 オージェハイド学園長が答えると、ラビは深く頷いた。

 準備は整った。


 ある瞬間を境に巫女の様子が変わったのを認めると、インクイジターが腕を振って半透明の羊皮紙を出現させた。


 カレンが複数の神々の名を降ろして承認を告げた。


 しばらくすると見えない力で神々の紋章印が出現し、羊皮紙に押された。瞬く間に、開廷に必要な三柱の神々の承認が揃った。


 神々の承認書が完成し、半透明のそれが実体化してラビの手に収まった。


「開廷」


 やがて第二運動場にいる者たちが、白い炎に包まれて消えた。『法廷』の別空間へと移動させられたのだった。






 入学式・始業式での騒ぎから数十分後。


 白い霧の漂う『法廷』では、亜空間を支える白き世界樹によって四十本もの磔台が生み出されていた。それらは下方の根から隆起、または上方の枝からぶら下がっていた。


「ふはは。こうして見ると壮観なものだな」


 逮捕された四十人の『ヒロイン』たちが白き世界樹に絡め取られ、(はりつけ)にされていた。


「ちょっと、あんた! 私たちに何か恨みでもある訳!?」

「……い、イケメンのくせにぃっ!」


 ギャーギャー、ワーワーと。


 『ヒロイン』たちはおのおの騒いだり暴れたりしていたが、風属性の結界によって音が遮断されているため訴えは届かなかった。


 そのため一緒に来ていた攻略対象の王子たちは、しばしヒロインのことを忘れて『法廷』の異空間を物珍しげに眺めたりしていた。


 裁判員席に光の粒が集まると、黄緑の髪の少年が現れた。彼の額には覚者(かくしゃ)の証たる赤い菱形の紋様が輝いていた。


 少年は裁判員席の中央に降りたって席に着くと、置いてあったガベルを握った。

 トン、トンとガベルを打ち鳴らすと、響いた音以上の衝撃波が『法廷』空間を伝播(でんぱ)した。

 連れて来られた『ヒロイン』たちの攻略対象や関係者たちが、驚いて耳を覆い身を低くした。


「――やあ。ここのところ、よく開廷するね」

「リネン様。今回も、よろしくお願いします」


 インクイジター・ラビが法壇に向かって敬礼をする。この少年の姿をした聖者こそ、裁判長リネン・ベスティアジムールである。


 彼の出現をもって、開廷の刻限となる。

 インクイジターは『ヒロイン』たちを右から左へ一瞥し、無情な言葉を吐いた。


「さて。泣いても笑っても構わんが、これより『ヒロイン裁判』を開始する。……と、その前に」


 ラビはしばし(きびす)をめぐらせ、『法廷』の入口付近へ向かった。

 端にある柱の陰に、ラビは声をかけた。


「……汝、何故また来たのか」


 ――ギクッ。

 すると、分かりやすい気配がした。


「前回、『次はない』と言わなかったか? あれはいつだったか……。半年ほど前か」


 ラビは、わざと相手を焦らせるような言葉を発した。


「え、えっとぉ……。私にもよく分からなくてぇ……」


 タラタラと滝の汗を流しながら顔を覗かせたのは、グランルクセリア王国で召喚された異界人アミ・オオトリであった。


 裁判に関係ないにも関わらず、また紛れ込んだようだ。


「すみませんでしたぁぁっ!」


 脱兎のごとく駆け出したアミは、前回出入口となった扉に飛び込んで逃げた。

 しかし、また同じ空間に戻ってきてしまった。


「……えっ!?」


 アミは、そのままベチャッと床に着地もとい転んだ。「ふげっ」

 それを見ていたラビが目も当てられないといった様子で肩を竦めて言った。


「裁判が終わらん限り、空間が開く訳なかろう」

「何でぇぇぇぇえ」


 アミは、だばーっと号泣した。

 ラビは身を翻し、一度振り向いて言った。


「まぁ、そこで邪魔をせず見ておれ。汝の処遇は裁判が終わってから決めるとしよう」

《大丈夫です、マスター。戦いましょう。冤罪(えんざい)です》

「む むむ無理ぃぃい」


 異世界の人工妖精に励まされるも、アミは柱の陰で「ノォォォ」と青ざめた。前回(おど)したおかげで、処罰を受けるとでも思っているのだろう。


 ラビは気を取り直して四十本の磔台の前へ移動する。


「……待たせたな。それでは始めようか」


 四十人の『ヒロイン』たちの、合同裁判が始まった――。











オラクルカードは、種類や人によっては正逆の位置採用することもあります。


インクイジターサイドまとめ

★インクイジター:ラビ

裁判長:リネン 知識の神の地上代行者。どこかの山奥に住むショタ


お手伝い出張

・星河の巫女:カレン 17才

・心泉の巫女:シプリス 9才


お留守番組 ※インクイジター第0話に出てます

・責任者:大神官ツクミト

・混沌の巫女:ヒルデナーダ 12才

・大地の巫女:ナディア 8才

・無限の巫女:セミュラミデ 11才

・神門の巫女:キスカ 10才


その他の巫覡

・調和の覡:???

・道標の巫女:メルア 5才


五大巫女①~⑤ ※能力順

①ヒルデナーダ

②???

③セミュラミデ

④???

⑤シプリス


※『星河』を持つカレンは①より上です



挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ