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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十五章 判決・天

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2  ★


 閉廷を宣言すると裁判長はガベルを残して光の粒子となり、法壇から姿を消した。


「き、消えた……!?」


 『法廷』に招かれた人々が驚いたため、インクイジターが説明した。


「あれは本体ではなく、陽神(ようしん)だ。分身のようなものだな。汝らが気にすることはない」

「は、はぁ」


 実際には分身と違って滅することのない光体なのだが、一般の人に説明しても仕方がない。


「さあ、諸君。退廷の時間だ」


 インクイジターが両手を叩くと、傍聴席の後ろに白い光の扉が現れた。


「あれを通れば、元の場所に戻れる。ご協力、感謝する」


 証人として転送された人々が、ぞろぞろと扉へ向かって歩き始めた。


 ウォルターとエリックも連れ立って、その場から立ち去った。


 異世界の乙女ゲーム『花と光の国のロマンシア』攻略対象である五人の男たちも、ユレナを振り向きもせず出口へ向かった。


「あっ……、クリスティン様……っ」

「――汝の出口は別だ」


 男へ手を伸ばそうとしたユレナの前で、地面から現れた剣の山が(くう)を裂いた。


「痛っ……!」


 ユレナは切れた指の先を押さえ、目尻に涙を浮かべて後ずさる。

 剣の山は行く手を遮るだけでなく、瞬く間にユレナの周囲を取り囲んだ。


 インクイジターはグランルクセリア国王と繋がっている小画面に向かって呼びかけた。


「国王。今から罪人をそちらへ戻す。天の刑執行は、貴国の法を適用した後だ。煮るなり焼くなり、である」


『……分かった、準備をする』


 しばらくして国王が画面越しに合図をした。


 インクイジターが了解の合図を送り返して振り向くと、ユレナが再び白い炎に包まれた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 熱ぅぅううううう!! 何よこれぇぇぇぇぇぇぇッ!?」


 最初は熱さを感じなかった白炎が、今度は火傷の痛みを伴ってユレナを(さいな)んだ。

 熱さと痛みに暴れ回ろうとするが、周囲の剣山がそれを防いで斬り傷まで負わせた。


「何、と聞いたか? 天界の火である。『真実の炎』は、罪人のみを焼く。まあ、大したことはなかろう。無間地獄の苦しみに比べれば、な」


 悲鳴を上げながら、ユレナは白炎と共に消えた。元の場所へ転送されたのだ。






「あ、あのっ……」


 静かになった『法廷』で、おずおずと声を掛けたのはディアドラ・フラウカスティア伯爵令嬢だった。異世界の乙女ゲームで悪役令嬢とされていた娘だ。


「先ほどの魔導具について……」

「そうだったな。少し待て」


 インクイジターは小画面を消して光の粒に戻した。


 次に『法廷』の中央にある白い世界樹に手を翳す。すると空間に根を張っていた大樹が見る見るうちに縮小し、やがて小さな植木鉢程度の大きさになった。


 ディアドラが呆気に取られて見ていると、小さな世界樹はちょこん、と法壇の脇に座り込むように根を下ろした。そしてさらに小さくなっていき、若葉を経てついには種まで戻って動かなくなった。


「これで『法廷』を映していた、あちらの魔法は消えただろう」


 ディアドラは知らないが、元の場所から『法廷』を映し出していた『四隅の目』という精霊魔法だ。こちら側で白い世界樹が成長していなければ、精霊たちでもこの空間を見ることはできない。


 インクイジターは最後の証拠として使われた魔導具を取り出した。魔法石を元に作られた記録用魔導具だ。


「この証拠についてだったか」

「何故、先生がそれを……っ」


 先ほどインクイジターは、その記録魔導具が学院のフィデル・ハイド教授から提供されたものだと言った。


「それは本人に聞いてみたらどうだ?」

「ですが……っ」


 インクイジターは肩を竦めた。


「元々、彼にも証言台に立つよう頼んでいたのだが断られたのだ。そうは言っても『真実の炎』で強制転移させられる可能性も話したのだが、彼は来ないと一点張りでな。事実、彼は転送されなかった。その時、代わりに渡されたのがこれだ」


「そう……ですか……」


 ディアドラは、どこか複雑な表情で手を重ね合わせた。


「で、では条件というのは? それを公開するのに条件を提示されたと……っ」

「提供者の名前以外の詳細は伏せてくれと頼まれているが……」

「……!」


 落胆を露わにするディアドラに、インクイジターが息を吐いて言った。


「先ほどの私の行動が答えになるが、分からないか?」

「えっ……?」


 ディアドラは、艶やかな黒い睫毛を瞬かせた。


「まぁ、いいだろう。もう向こう側からは見えていないから話すが、汝の名誉を挽回することだ。彼は随分前から、()()()()()()()を仕込んでいたようだが」


 手の中で魔法石の魔導具をいじりながら、インクイジターが言った。


(随分……前から……?)


 するとディアドラは、胸がすくような輝きを瞳に灯した。


 その美しい変化を目の当たりにして、ラビは一種の感動を覚えた。


「わ……分かりました。仰る通り、ご本人に直接聞いてみますわ」

「そうするといい」

「本当に、ありがとうございます!」


 ディアドラは深々とお辞儀をすると、急いで扉の方へと駆けていった。












なんでインクイジターがキューピッドやってんですかねぇ……




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