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ディアドラが出て行ったことで、『法廷』へ招かれた全員が退廷した。
「――さて。では……」
インクイジターは傍聴席の中央を歩いて行き、白い扉の前で立ち止まる。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
左側傍聴席脇にある柱の後ろから、誰かがビクッと息を呑む気配がした。
しかし警戒しているのか、なかなか出てくる様子がない。
ラビは顎に手を当てて少し考えてから、再度呼びかけた。
「ふむ。教えておくと、この空間は長くはもたんぞ。白い世界樹が種に戻ってしまったからな。裁判のない時、この場所は至高者の元で凍結される」
白い世界樹だったものは、種の状態で沈黙している。次に開廷された時、また動き出すだろう。
隠れている相手が困っているようだったが、ラビはもう一声かけた。
「私が出て行けばそうなるが、いいのか? 空間ごと凍結されたいか?」
「……ふえぇ」
何やら鳴き声のようなものが、柱の陰からもれた。
少々脅しすぎたかとラビは思ったが、事実なのだから仕方がない。
「ひぃ……っ。ば、バレてるぅぅぅぅ」
《あの言い方ですと、始めから把握されていましたね》
「やっぱりさっきの団体さんと一緒に外に出てればよかったぁぁ」
《それですと、ディアドラ様に見付かっていましたよ》
「うわぁぁぁん。何でぇぇぇぇぇ」
《敗因は、今日のドレスです》
「不可抗力だぁぁぁ」
三文芝居のような話し声が聞こえる。
ラビは大粒の汗を垂らしながらそれを見守っていたが、やがてひょこんと柱の陰から赤毛の少女が顔を出した。
ラビは彼女のことをよく覚えていた。グランルクセリア王国に召喚されたもう一人のヒロイン、リク・イチジョウと一緒にいた少女――アミ・オオトリだ。
一緒に話している声だけの存在は、異世界の知識によると人工知能という補助妖精の類いらしい。
「出口はここしかない。こちらへ来るがいい。何も取って食ったりはせんよ」
「すっ、すみましぇん……」
申し訳なさそうにアミが出てくる。
次の瞬間、アミが勢いづけて走ってきたかと思うと、ラビの足元に平伏して謝罪した。
「ごめんなさい本当にわざとじゃないんです許して下さいお願いしますすみませんでしたぁ!」
「やめんか」
ラビは思わず苦笑し、アミにあわせてひざまずいた。
「必要以上の謝罪はせんでいい。汝に、おそらく邪心がないことも分かっている」
「えっ……あ」
アミに頭を上げさせると、ラビは内緒話をするように耳打ちした。
「……『ヒロイン』でないこともな」
「!?」
アミは震えが足元から頭のてっぺんへと駆け抜けていった。
やがて囁かれた方の耳を抑え、アミは顔を真っ赤にしてのけぞった。
「ひぇっ!? ち、近っ……」
ずざざざ、とアミは床を擦りながら後ろへ距離を取った。
前回、聖女認定式で会った時と同じ反応である。
「み みみ見逃して下さぁぁぁい!!」
アミは高速で立ち上がり、脱兎の如く駆け出した。
見ると、高いヒールの靴を脱いで手に持っている。裸足走りは反則である。
「こらこら待たんか」
小柄のアミと身長差のあるラビではリーチが違う。アミは、あっさりと片手を掴まれて捕獲された。
「ひぇぇぇぇぇえ」
地球で言うムンクの顔になるアミ。
「落ち着け。罪に問うつもりはない」
「今すぐ帰ります帰りますからお許しをぉー」
「分かった、見逃してやるから話を聞けい! ……汝の命に関わることだぞ」
「え」
そこまで言って、初めてアミは動きを止めた。
ぎぎぎ、とブリキ人形のように振り返るアミ。
「命……!? ワタシ、シニマス?」
《ご安心下さい。マスターは私が守ります》
AIイリスが話をややこしくした。
「それって、勝っても負けても逃げても犯罪者になる未来しか見えない……」
《冤罪です。戦いましょう。――裁判で》
「裁判!? ノォォォォ」
アミは絶望のムンク顔で震えだした。
にぎやかな子だな、とラビは思った。
「遊んでいるところ悪いが、冗談などではないぞ。本当だ。先ほどの裁判を見ていたなら、分かるだろう。『ヒロイン』と行動を共にするのは危険だ。いつ洗脳され、利用されてもおかしくない」
「ヒロインって……」
「決まっている。……リク・イチジョウだ」




