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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十四章 ヒロイン裁判・Ⅰ 後編

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53/130

5  ★


 映像が終わると、全員が呆気に取られてユレナの顔を見た。


「……っ、やっぱりお前が殺したんじゃないか!!」


 わなわなと震えて涙を浮かべながら、ウォルターがユレナを指差して叫んだ。


 さすがに焦ったのか、ユレナはすぐに反論した。


「な、何よ。こんなのただの映像じゃない。確かにナタリアには会ってたけど、それだけよ!」


 しかしインクイジターは動じず、口元は弧を描いている。


 ユレナの言葉に溜息を吐いたのは、セイルだった。


「ユレナ……。君はもう少し、魔法や魔術について学んだ方がいい」

「えっ……、何?」


 訳が分からない様子のユレナは、魔法学や魔術の成績は赤点だった。貴族科で王子妃になるのだから不要だと考えていた。


 インクイジターが代わりに説明した。


「音が空気を振動して伝わるように、光や魔力にも波動がある。音と光である映像が記録されている以上、魔力波も同様だ。魔力波は、波導術で読み取ることができる。この映像を鑑定すれば、使われた魔法や魔術の術式を特定することも可能だろう。もちろん、分析する魔術師あるいは鑑定士が波導術を修得していることが必要になるが」


「問題ありません」


 二つ返事で応じたヒューベルトが、先ほどの映像をもう一度流して鑑定を行った。


「『波動鑑定』を行います」


 ヒューベルトは映像に手を翳してスキルを発動させ、目に見えない波導術で魔力痕や魔法による魔力波を探り始めた。


 映像が流れていく。

 あるところでピクリと反応し、ヒューベルトは証明書とは別の一回り大きい紙を取り出した。


「術式を複写」


 ヒューベルトが片方の手を紙面に向けると、紙に文字が浮かび上がっていく。読み取った魔力波を文字にする技術だ。


 皆がその作業を見守った。


「……終わりました」


 息をつき、さすがに疲れたのかヒューベルトは額を拭う。


 複写された術式を受け取ると、インクイジターは『混沌の竜眼』でそれが〈魅了の術式〉であると確認した。


(詰みだな)


 だが往生際の悪いヒロインを納得させるため、インクイジターは鑑定書を掲げて敢えてワンクッションを提示してみせた。


「私の持つ『完全鑑定』では、すでにこれが〈魅了の術式〉であると確認できているが……どうだ? これを魔術師団で解析してもらえば(しま)いだな。どうする? 結果が出るまで待つか? 汝が納得するなら、そうしようではないか」


 横で驚いたのはヒューベルトだった。


「し、審問官様は『完全鑑定』をお持ちなのですか!?」


「そうだ。私の右目は、混沌龍神オールド様より賜った神眼である。しかし裁判では公平性を期すために汝を呼んだのだ」


 実際には『ヒロイン』とその関係周辺にしか鑑定を含めた力は使えないのだが、それは内緒だ。


「そ、それでは今までの鑑定結果は、すでに……。おみそれしました」

「あまり言いふらされても困るがな」

「はい!」


 そんな会話を聞かされながら、とうとう諦めたのかユレナは歪んだ顔を俯かせ、拳を握り締めた。


「……~~~~~っ」


 その肩に、セイルが手を置く。


「ユレナ。もう……」


 やめるんだ、と言おうとしたセイルの手を振り払い、ユレナは叫び声を上げた。


「ばっかじゃないの!! 本当に死ぬなんて、思わないじゃない!!」


 ユレナは元の美少女とは思えないほど顔を歪めていた。


 まさにインクイジターが待っていた瞬間だった。


「自白したな。故意に『魅了』を掛けておきながら、死ぬと思わなかったとは通じぬぞ」


「全部あっちが悪いんじゃない!! ヒロインの私が愛されるのは当然なのに!! ……クリスティン様も、みんなも。全然振り向いてくれなくて! 私はシナリオ通りにやってるのに、あの悪役令嬢がシナリオに従わないから!! ……だから私は!!」


 早い話が、ナタリアはとばっちりを受けて死んだようなものだ。

 『花と光の国のロマンシア』という、全く関係のない異世界に存在する物語(ゲーム)のとばっちりで。


「……残念ですわ」


 傍聴席で静かに立ち上がり、ディアドラが物憂げな表情でゆっくりとユレナの方へ近付いていく。


「あなたは本当に、クリスティン殿下を愛していると思っていましたのに」


 被告席の柵の前で立ち止まり、ディアドラはひどく悲しそうな瞳でユレナを見つめた。


「まさか、愛してすらいらっしゃらなかったなんて」

「あなたが邪魔しなければ、こんな裁判(こと)になんかなってなかったのよ!!」


「そうでしょうか? 本当に攻略対象の皆さんを愛していたのなら、『魅了』など使わずとも絆を築けたのではありませんか?」


「全部あなたのせいよ!! あなたがシナリオに従ってさえいれば!!」


「まだ勘違いしていらっしゃるのですか? ……これはゲームではなく現実です。私たちは生きています。殿下たちも血の通った人間ですわ。そのようにお考えになるのは、おやめ下さい」


 私たちは生きている、皆血の通った人間である――とはリクとアミの言葉だ。

 ディアドラが勇気を出してユレナの罠に挑めたのも、彼女たちと出会えたからだ。


 しかしディアドラの言葉は、ユレナには届かないようだった。


 ユレナはぎりぎりと歯を噛みしめて言葉にもならない唸り声を上げ、ディアドラを睨み付けるだけだった。


 もはや心の声が錯乱寸前のユレナに、インクイジターはさらに追い打ちをかける。


「加えて言っておくと今回の件が露見した以上、ナタリア・ジンデルには『魅了』を掛けたが第二王子以下その他の男たちには掛けていないなどという言い逃れは無理筋(むりすじ)であることを覚えておくがいい」


 ユレナは焦りと、怒りと、恐怖とその他諸々の悪感情に苛まれ、ついには絶叫した。










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