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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十四章 ヒロイン裁判・Ⅰ 後編

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6  ★


 その時、別の方向から少年の叫び声が突進してきた。


「ふっざっ……けんな!!」


 殴りかかろうと走って来たウォルター少年を、世界樹の白い蔦が巻き付いて止めた。


 どちらにせよ、まだ被告席の物理結界があるため被告人を殴ることはできない。


 ウォルターは暴れて泣き叫ぶ。


「お前だけは絶対に許さない!! 姉さんを……ッ、姉さんを返せぇぇぇッ!! 返せよぉぉぉッ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 インクイジターは桎梏(しっこく)の蔦を操って慟哭するウォルターを抑えながら、彼の成長を期待して言葉をかける。


「無理に落ち着けとは言わんが……。少年よ、じきに沙汰が下される。最期まで見届ける強さを持て」

「うっ……。ひぐっ……。う……っ。分かり、ました……」


 ウォルターが暴れるのをやめると、インクイジターは蔦を解いた。


 ウォルターは何度か嗚咽を零したものの、袖でごしごしと涙を拭った後は力強くユレナを見据えてその時を待った。


 少年が悲しみから自ら立ち上がるのを見届けてから、インクイジターは宣言する。


「被告人が自白し供述したため、『運命改変』の事実は証明された。よって、被告人には天の裁きが適用される。なお至高者による慈悲はすでに受けているものとし、求刑する」


「ま、待ってくれ……!」


 すると、インクイジターの足元にリチャードが縋りついてきた。精神的に憔悴し、やつれた顔をしている。


「ユレナが裁かれたら、どうなる!? お、俺の女神は……っ」

「そういえば、まだ『魅了』の効果は続いていたな。……汝が一番重症のようだ」


 リチャードを観察したインクイジターが静かに呟いた。


 第二王子を始めとした他の攻略対象やユレナ信奉者たちが顔を上げて注目した。

 恋心で縛られている彼らも、心の底では分かっているのだろう。


「今、解放してやろう。判決の前に、正気に戻るがいい」


 指鳴らしの仕草でインクイジターが片腕を持ち上げる。


 と、ぐちゃぐちゃになりながら絶叫していたユレナがぴたりと止まる。


「まっ……て……! 私からみんなを奪わないで……っ」


 弱々しい懇願にインクイジターは一瞥をくれたが、筋違いだと一笑に付す。


「――『解呪』」


 パチンと指が鳴らされ、あらゆる呪詛や呪縛を無効化する魔力が放射された。


 男たちは一度目を見開いた後に動きを止め、おのおのその場にへたり込んだり、辺りを見回すなどして自身の感覚を確かめた。


「一体、私は今まで何をしていたんだ……?」


 クリスティン王子は己のしでかしたことに絶望した。


「悪い夢でも見ていたようだ……」


 ダニエルは目が醒めたように蒼白となり。


「やっぱりか……」


 セイルは自分を取り戻して後悔に苛まれる。


「ははは。信じられねぇ……。マジで何もねぇ」


 ロランは自分の気持ちを確かめて驚いた。


「愛が……消えた…………」


 リチャードは気持ちが一切ないことを知り、茫然とした。


 あれほど愛しかったユレナへの想いが、恋心が、どこにもなかったのだ。


 その他大勢のユレナ信奉者たちも、現実を知ってしらけた顔をしていた。




 そして最も悲惨だったのが、エリック・バードラン男爵子息だろう。


「あ あああ あ あぁぁぁぁ!!」


 もはや悲鳴を上げ、崩れ落ちた先の床を叩き付けながら大粒の涙を零して泣きじゃくった。


「ナタリアぁぁぁぁぁ!!」


 脳が現実と記憶のすり合わせを終えた結果、最も大切な女性(ひと)を自ら遠ざけ、殺してしまった事実を突きつけられたのだから。


 皆がエリックを痛ましい視線で見つめるなか、ウォルターだけが黙ってエリックに近付いた。背中をさすりながら、感慨深そうに語りかける。


「なんだ、エリックさん。裏切ってなかったのかよ」


 ウォルターはいたたまれない気持ちだったが、もうエリックへの怒りはなかった。


「すまない……すまない……っ。俺のせいだ。俺の……っ」

「いや、エリックさんのせいじゃないだろ。おれも姉さんも、もう分かってるからさ……」


 エリック・バードランは、ナタリアを裏切っていなかった。

 顔が好みというだけで、『魅了』によって人生を狂わされたのだ。

 慚愧し続けるエリックは、いつまでもむせび泣いた。


 誰のせいでこうなったのか、男たちは皆知っている。




「みんな……?」


 ユレナが一縷の望みをかけて呼びかける。


 人の尊厳を踏みにじり、気まぐれな欲望のために偸盗(ちゅうとう)を行った女へ向ける彼らの視線は。

 もはや、汚らわしいもの。見てはならない禁忌のものを見る目に変わっていた。


「そ、んな……っ」


 ユレナは後ずさり、その場に尻もちをついた。




 被告席の結界が消える。

 すなわち、ユレナを守るものはもう何もない。


 インクイジターが近付いてくる。


 鷹揚に腕を広げ、絶望の始まりを告げた。


「それでは……判決の時間だ」











インクイジターのセリフにある至高者の慈悲、とは非常に宗教的な言い回しですが。

どんな罪人悪人も、創造主の慈愛を受けているという考え方からくるものです。


この作品を読むに当たって、そういう世界観なんだなと頭の片隅にでも置いて頂ければ幸いです。

神様系・高次元系は今後もどんどん出る予定です。

 

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