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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十四章 ヒロイン裁判・Ⅰ 後編

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1  ★


 ゆっくりと真綿で首を絞められる感覚に堪えかねたのか、被告人ユレナ・リリーマイヤーが突如わめき始めた。


「やめて、みんな……! そんなことする必要ないわ! これも全部、あの女が仕組んだ罠よ!! 乗せられちゃダメ!! 私を陥れようとし――……」


 インクイジターが被告席の周囲に風属性の結界を張ると、ユレナの叫びは途切れて口をぱくぱく動かしているだけに見えた。


 空気の断層を作ることで、中の音が外にもれないようにしたのだ。


 インクイジターは裁判長であるリネン聖者をちらりと確認したが、特に咎める様子はない。

 今はあくまで証拠提示の時間だ。被告人の声を遮断してもルール違反とまではならないようだ。


 ユレナの声が封じられたことにダニエル・ハーファート侯爵令息や第二王子クリスティンたちは驚いて振り返ったが、先程とは違って駆け寄ろうとする者はいなかった。


「さて、これで邪魔は入らぬな。では汝らに機会を与えよう。鑑定を受け、愛とやらを証明してみるがいい」


「……な、何だって……!?」


 クリスティン王子も、ダニエルたちも思わずわなないた。


 そんななか、意を決して進み出たのはセイル・オズモンド侯爵令息だった。


「――やってくれ」

「なっ……! セイル、お前っ!」

「ユレナを裏切るのか!」


 ダニエルが見咎め、リチャード・ナイヴィット子爵令息もセイルを非難した。


「どちらが裏切っているのか……、ハッキリするだろう」


 苦虫を噛み潰したように、セイルが言う。リチャードが食ってかかろうとした時、ぽりぽりと頭を掻きながらロラン・ジファード伯爵令息が呟いた。


「んー……。よく分かんねぇから、オレも頼むわ」

「なっ……! どうしたんだお前たち! ユレナの愛を疑うのか!?」


 ダニエルが信じられないといった表情で仲間たちの顔を見渡す。


「いやさ、オレも難しいこと分かんねえし。セイルの言うように、やりゃあハッキリするんだったらそっちの方が分かりやすいと思ってな」


 ロランの言葉に、セイルが頷く。

 第二王子クリスティンも何かを悟ったのか、青い顔で沈黙している。


「御託はいい。決まった者から鑑定を受けよ」


 インクイジターが無情な言葉で()き立てる。


 やがて鑑定士ヒューベルト・シュタインクロスの前に、セイルとロランを始め男たちの列ができた。

 攻略対象以外のユレナ信奉者たちも鑑定を受けることに同意したのだ。


 結界の中から長蛇の列を見たユレナも唖然としていた。


 ヒューベルトは一人『鑑定』を終えるとすぐに次の者に移った。王宮鑑定士というだけあって迅速な仕事を見せた。


「――次。『鑑定』」


 紙にペンを走らせる音が止まった時、ヒューベルトの前には最も高貴な身分の男だけが残された。


「さぁ、あとは殿下だけです」

「うっ……」


 第二王子クリスティンは青ざめた顔で今にも逃げ出したいと言わんばかりであった。

 有無を言わせずヒューベルトが鑑定を行い、男たち全員の鑑定を終えた。


 ヒューベルトは証明書の束をインクイジターに手渡しながら無言で首を振り、結果の残念さを物語った。


「殿下方を入れた、三十二名の鑑定結果です」

「ご苦労だった。感謝する」

「いえ」


 インクイジターは受け取った鑑定書を右目の青い瞳に映すと、『混沌の竜眼』が発動し鑑定書を〈真実の鑑定書〉と確認した。その時点で中身を読む必要もなかった。


 このタイミングでインクイジターは被告席の物理障壁を残したまま空気の結界を解いた。もちろん被告人ユレナに結果を聞かせるためである。


「では、結果をまとめて告知してもらおうか」


「はい。……結論から申し上げますと、皆さん全員被害者です。鑑定した全ての方に『魅了』による精神汚染が確認されました」


「……ッ!!」


 鑑定士の説明を聞いた男たちが絶句している。


「何てことだ……」


 第二王子クリスティンも愕然と顔を俯かせた。


「――な、何? どういうこと?」


 急に音が戻って話が呑み込めていない()()()()()をしたユレナは男たちの顔を見つめたが、彼らから返ってきたのは疑念に満ちた視線であった。


「みんな……?」


 途惑うユレナの前で、その他大勢――エリックを除いた二十七名の犠牲者たちが嘆き悲しんだり、途方に暮れたりしている。


 それは正式な攻略対象である五人もまた同じであった。


「そんな……。俺たちは騙されていたのか……!?」

「……ッ」

「今までのはウソだったってのか……? そりゃないぜ……ハハ」

「バカな……っ。俺の女神が……ッ」


 ダニエルは頭を抱え、セイルは苦悶の念に苛まれ、ロランは絶望し、リチャードは己の世界を壊されて崩れ落ちた。


 彼らの反応を見届けてから、インクイジターはこれ以上ないほど妖艶で残酷な微笑を浮かべて言った。


「これで分かったか? 司法において、精神汚染された者の証言は証拠として機能しない。よって、被告人が被害者ナタリア・ジンデルの死の前に接触がなかったという彼らの証言は全て無効である」


「なっ……!」


 ユレナが息を呑む。


「何でよ!? あなたが最初に言ったんじゃない! 私とそのナタリアって人が無関係だって」

「その通りだ。つまり本来無関係である人間を殺したことになる。罪は、そこにあるのだ」

「……殺した!? バカなこと言わないで! 私は何も知らないわっ! 信じて、みんな!!」

「少し、黙っていてもらおうか」


 インクイジターはそれ以上取り合わず、事を先へ進めた。











引き続き、処されるまでお楽しみ下さい


挿絵(By みてみん)





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