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マティアス王子一行の治癒師に気の流れを整えてもらったリクは徐々に回復し、身体を動かせるまでになった。
オルキア公国の民族衣装だろうか、神秘的な模様のある布を巻き付けた女性がリクの体からゆっくりと手を離した。
「体に違和感のあるところはございませんか?」
「……いえ。もう大丈夫みたいだ」
拳を握ったり開いたりしながら、リクは身体の感覚を確かめた。元々外傷は『超回復』によって治癒済みだったため、問題なく動けるようだ。
「本当によかった」
マティアス王子が濃紺の前髪をさらりと揺らし、リクに手を差し伸べた。さすがにこの場でその手は拒めない。
リクはマティアス王子の手を取り、立ち上がった。
その際、ふわりと良い香りのお香の匂いがした。そういえば、治癒師の女性からも似たような香りがしていた。
「これは……お香?」
「気になりますか?」
マティアス王子が微笑した。
「いい香りだ」
「ふふっ。これは癒やしの効果のある香です。今度差し上げますよ」
「いえ、香りが欲しいとかではなく……」
失言に気付いたリクは、マティアス王子と治癒師の女性に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「わっ、わたくしからもお礼を!」
リクが頭を下げたので、ミラフェイナも慌てて続いた。
「お礼は言わない約束ですよ」
「そういう訳には……」
律儀なリクに、マティアス王子は少し吹き出して笑った。
「そうですね……。気に入ったのなら、あなたにおすすめしたい香もあります。日を改めて、体調が戻った時にでもお会い頂けませんか?」
「それくらいなら……」
「リク様っ!?」
構いませんよと口走るリクの方を、ミラフェイナが驚いて振り向く。
「本当ですか? では後ほどお手紙を送らせて頂きますね。体調が良い時に、お返事下さい」
「お手紙? ……はい」
リクは全く分かっていなかったが、それはデートのお約束というものだった。
「何かまずかった?」
きょとんとしているリクの耳元で、ミラフェイナが小声で急いで解説した。
「デートのお誘いですわ」
「知らなかったんだ……」
打って変わって、リクは真顔で硬直した。
しかし、言ってしまったものは取り戻せない。誘いを快諾されたと受け取ったマティアス王子は、にこにこして満面の笑みだ。今さら断る勇気は、リクにもなかった。
「そういえば、裁判はどうなっているんだ?」
リクが話題を変えると、皆が四隅の映像の方へ視線を戻す。
先ほどから話し声が止んでいる。何かを待っているかのようだ。
見ていると、映像の前にいるカルマン神官が誰かに合図を送った。すると国王がいる方向から、一人の男が近付いて来た。
その人物は、リクがあれだけのダメージを負っても近付けなかった四隅の映像へと、いとも簡単に招かれていた。
「彼は……?」
視線の先にミラフェイナも気付いたのか、訝るリクに答えて言った。
「ああ、あの方は鑑定士ですわ。何かの証拠を鑑定するよう頼まれたのかもしれませんわね」
「…………」
リクは記憶を辿る。
初めてこの世界に召喚された日、儀式場でリクとアミを鑑定した男も同じような格好をしていた。当初、アミを役立たずと断定した鑑定士がいる。
リクの鑑定書に書かれていた署名は、確かシュタインクロスといった。アミの鑑定も同じ人物が行っている。
彼のおかげでリクは大聖女の器として扱われ、アミは役立たずの烙印を押された。
アミの評価について今は改善されたとはいえ、彼の鑑定は二人に多大な影響を及ぼしたことは間違いない。
その鑑定士――ヒューベルト・シュタインクロスは、『法廷』の映像に近付くと白い炎に包まれた。
「これは……!」
ディアドラたち『花ロマ』関係者たちと同じ現象だ。鑑定士の鑑定結果が、証拠として採用されるのだろう。
彼は白炎に呑み込まれて消えた。転送されたのだと、誰もがすでに知っていた。
裁判本編にも登場のヒューベルト君、実は第一章2話にも出てましたが、その時は名無しでした。
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