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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十三章 ヒロイン裁判の裏

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「リ、リク様っ。そんな……っ」


 逃げる客たちに押されて離れてしまったミラフェイナが、やっとのことで戻って来た時に目にしたのはレンブラントに抱えられて倒れているリクの姿だった。


 駆け寄ろうとしたミラフェイナを止める者がいた。


「危ないから、お嬢様はここにいなさいな」

「ミラ、お前は退っていなさい」

「お父様!? ……と、クライド様っ」


 会場にいたグレゴール・ローゼンベルグ公爵と、その腹心の魔術師クライド・ドゥラクロワだ。この国の魔術師団のツートップである。


 置いて行こうとする二人に、ミラフェイナは食い下がる。


「いいえお父様。わたくしはリク様の友人として、お側にいなくては。わたくしも参ります」

「そうか。……そうだな」


 リクの人柄と娘たちの関係を知っている公爵は、あっさり受け入れた。


「そういえば、あの白い子は? いつもリクちゃんと一緒の」


 クライドが周囲を見回して尋ねる。アミのことだ。普段の白魔術師風の格好から、そう呼んでいるらしい。


「それが……」


 ミラフェイナは巫女たちの後ろにある『法廷』の映像を見ながら、公爵たちに事情を話した。


「――巻き込まれた?」

「と、わたくしは思うのですが、リク様はすぐにアミ様を戻すようにと抗議なさって……」

「それはそれは……。リクちゃんらしいというか」


 驚いているのかいないのか、クライドはおどけるように肩を竦めて言った。

 ローゼンベルグ公爵は険しい顔をしていたが、冷静さを失うことはなかった。


「経緯は分かった。ともかく、お前は早くあの方を治癒師の元へ」

「はいっ!」


 ミラフェイナはリクの元へと駆け出した。






 一方、勝利したセミュラミデの背後では、カレンが叱咤を飛ばしていた。


「ミュウー! 戒律! 非暴力なのだー!」

「わ、わーかってるって姉やん……。オーラしか触れてないって~」


 セミュラミデの掌は、リクのみぞおち手前で実際に寸止めされていた。叩き込まれたのは、高圧力の気功だけだ。


 直接触れなければ、非暴力の戒律を破ることにはならないらしい。


 そうこうしている間に、カレンとセミュラミデは駆けつけた騎士団に睨みを利かせられていた。その周りを王宮の近衛兵が取り囲んでいる。


 セミュラミデは未だにリクの方を警戒しながら、カレンと四隅の映像を守るように立ちはだかる。


 そこへ魔術師団長であるローゼンベルグ公爵と、副団長のクライドが合流した。


「――この方は『光の乙女』にして我が国の聖女候補だ。なにゆえ交えたのか伺いたい。いかに聖地の巫女殿といえど、返答によっては対応を考えさせて頂かねば」


 公爵の言葉に同意するように、騎士団のアウグストも肩を並べて威嚇する。


「その方が『法廷』に侵入しようとしたのです。やむを得ませんでした」


 セミュラミデの背中越しに、『星河の巫女』モードに戻ったカレンが答えた。

 セミュラミデは威圧してくる騎士たちの視線を真っ向から受けながら、カレンの盾になっている。


「侵入……?」

「どういうことだ……?」

「『光の乙女』様が、どうして……?」

「神殿内部の諍いか……?」


 招待客たちが、ざわめき出す。


 アウグストたちとセミュラミデの睨み合いが続くなか、轟いたのは国王アルベールの声だった。


「――皆の者、静まれい!」


 遅れてカルマン神官が映像の前へやって来て巫女たちを庇うように説明した。


「審理中の『法廷』には、いかなる理由があれど部外者は立ち入れません。例えそれが『聖女の器』だったとしてもです!」


 誰あろうカルマンはリクの聖女認定式で認可を担当した神官本人だ。その彼に制止されては、リクの肩書きは意味をなさない。


 国王が告げる。


「王の名に於いて、インクイジターの領域に手出しすることは許さん。国のためだ。控えよ、グレゴール」

「…………。はっ」


 さしものローゼンベルグ公爵やアウグストたちも、国王に言われては打つ手がない。


 リクに不利とはいえ、ひとまず場が収まったことでミラフェイナはレンブラントに退避を促した。


「レンブラント様、もうよろしいですわ。リク様を医務室へ」

「……ああ」


 レンブラントはリクの膝に手を入れて抱え上げようとする。

 するとリクは身をよじってレンブラントの肩を掴み、掠れた声を喉から絞り出した。


「待、って……。まだ……」

「喋るなと言っただろう」

「あの子は……私が、見て、ないと……」

「こんな時まで片割れの心配か」


 気功系の技を受ければ、本来なら体を動かすのもままならないはずだ。

 何て精神力だと、レンブラントは感心を通り越して尊敬に値すると評価した。


 ミラフェイナがリクの身を案じてその場にしゃがみ込み、リクに訴えかけた。


「リク様っ。アミ様のことは、わたくしが責任を持ってお戻りになるまでここで待機していますわ! ですから、今は……っ」


「…………断る」

「リク様!」


 リクは無理に起き上がろうとして、倒れ込む。

 レンブラントは溜息を吐いてリクを抱き上げ、上体を起こして支えた。


「全く、強情どころではないな」

「あ、りが、とう……」

「礼など不要だ。元はと言えば、あなたを守れなかった俺に責任がある」


 まさかこのようなパーティー会場で、武器を持たない子供の巫女と拳を交えることになろうとは誰も思わない。それを言い訳にするつもりはないと、レンブラントは自戒して言った。


 リクにとっても予想外だった。

 『法廷』の映像でアミを見つけていなければ、こんなことにはなっていなかっただろう。


 ミラフェイナも折れたのか、諦めて立ち上がる。


「……仕方ありませんわ。ここへ治癒師を呼んで参りますわね」


 すると近くにいたオルキア公国のマティアス王子が声を掛けてきた。


「聖女殿、それなら我々の連れて来た治癒師を貸しましょう。そのダメージは気功によるものでしょう。普通の治癒師には荷が重いと思いますよ」


「それは……ありがたいお申し出ですが、他国の方にご迷惑を掛ける訳には……」


 思いがけない申し出に驚きながらも、ミラフェイナが代わりに答えた。

 マティアス王子は柔和な笑顔を浮かべ、なおも厚意を示した。


「お気になさらず。先ほど、聖女殿の体調も考えず不躾にダンスに誘うという無礼を働いてしまったことへのお詫びですよ」


 気功術は特殊な才能が必要なため、グランルクセリア王国で気功術士は稀だ。


 マティアス王子の申し出に、ミラフェイナとレンブラントは目配せをして頷き合った。


「……お言葉に甘えさせて頂きますわ」

「それは良かった」


 マティアス王子は喜び、連れて来た気功術を使える治癒師を呼ぶよう部下に指示を出した。










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