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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十一章 断罪イベント

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2  ★


「国王陛下にご挨拶申し上げます」

「おお、カルマン殿。……そちらが?」


 地元神官のカルマンが挨拶をすると、国王アルベール・ルーセディオ・グランルクセリアがやや硬い表情で応じた。


 国王の隣にいた第一王女エクリュア・ヴァイス・グランルクセリアも、密かに驚いていた。


(この人が異端審問官……? 陛下が急に私を呼んだのは、このため……?)


 どんな権力者も恐れをなす、神々の裁きの代行者。


 東と西に分かたれたこの世界――アークヴァルト大陸全土を合わせても、ただ一人しかいない存在とされている。


 国王や周囲の視線が突き刺さるのを、ラビは感じていた。


 この国に異端審問所裁判官(インクイジター)が訪れていることは、国王を始め王家にも報告が上がっている。どんな人物なのか、何をしに来たのか。気になるのは当然のことだろう。


「お初にお目に掛かる、グランルクセリア国王。私がラビ。インクイジターである」

「あなたがラビ殿か。お会いできて光栄だ」


 国王はわざわざ席を立ち、壇上から降りてラビと握手を交わした。

 国王に倣い、第一王女も追随して礼を取る。


「ラビ殿、娘のエクリュアだ」

「第一王女エクリュア・ヴァイス・グランルクセリアです。この国へようこそ」

「どうも~」


 生返事をしているラビの斜め後ろで、カレンが頭痛を感じて額を抑えていた。王族に対する接し方もこの様子では、先が思いやられる。


 文句を言う代わりに咳払いをしたカレンに気付き、ラビは後ろを振り返って二人の巫女を紹介した。


「この二人は、アシュトーリアから同行している『星河の巫女』と『無限の巫女』だ。私の仕事を手伝ってもらっている」


「なんと、このご令嬢方が……!?」


 アシュトーリアとは東大陸中心に位置する永世中立国で、星の聖地を擁する最も古い国のひとつだ。


 星河神殿を筆頭に、聖地を守護するために建立された五大神殿は神聖星教の信仰の支柱であり、それぞれの筆頭巫女もまた同様である。


 なかでも星河神殿の名を冠する巫女は、大神官と並び神聖な存在とされている。


「『星河の巫女』カレン・スィードにございます。全ては星と神々の御心のままに」

「『無限の巫女』セミュラミデにございます。えっと、ニキ様……無限武神様の思し召しです」


 二人が巫女装束の裾を掴んで膝を折ると、周囲からほうっと溜息が出る。


 活発な武闘派十一歳のセミュラミデもそれなりの美少女だが、特にカレンの纏う神秘的な雰囲気と、目の覚めるような美貌は誰にも負けることはないだろう。


 この場にヒロインがいないのが惜しいくらいだ、とラビは密かに笑った。


「後ろの彼は……?」


 王女がカルマン神官の後ろで目立たないようにしているウォルター少年に気付き、不思議に思い尋ねた。


 貴族の子供は、王女の視線に気付くとぺこりと頭を下げた。質問には、代わりにカルマン神官が答える。


「彼はジンデル子爵令息のウォルター君です。インクイジターが仰るには……」


 続きはラビが答えた。何故か、弾むような声音で。


「裁判の大事な証人君だ」


(――裁判の証人!?)


 国王と第一王女、それに周囲にいた宰相や大臣や官僚たちに至るまでが、心の中で反芻した。


 やはりこの国が何かしらの不正の調査対象になっていたのではと、誰もがやんごとない事情を想像して戦々恐々とした。


 さしもの国王も、気が気でない様子だ。


「ラビ殿、一体どういうことかお尋ねしても?」

「ふむ。直系の王位継承権者は、こちらの姫君だけか?」


 質問に質問で返され、アルベール国王は一瞬目を丸くした。


「え? あ、いや。王子が二人……ここに呼んではいるのだが、どこで油を売っているのやら……。貴重な機会だというのに、面目ない限りだ……」


「あら、陛下。お兄様方は、婚約者以外の女性のお尻を追いかけるのに忙しいみたいですけど?」

「エクリュア、口を慎みなさい」


 軽くスキャンダルを匂わせた第一王女を国王は叱咤するが、想定内のラビは艶美な微笑みで返した。


「お噂の王子殿下とは、間もなくお会いできるであろう。しかし国王、王位継承者は深慮することをおすすめする」


「それは……どういう……?」


 ラビの意味深な発言に、国王は訝しげに眉を顰めた。


 その時、広間の中央付近の人だかりがどよめきだした。何か騒ぎでも起こっているようだ。


「始まったか」

「何の騒ぎだ?」

「グランルクセリア国王。これから起こることに手出しも口出しも無用。全て神々の采配であるがゆえ」

「……!? 承知……した」


 呆気に取られる国王を置いて、ラビと巫女たちは人だかりの方へと向かった。


(あの騒ぎって……まさか)


 ちょうど人だかりの方向にディアドラたちを置いてきたことを思い出し、エクリュア王女も動こうとしたが国王に止められた。


「ならん。エクリュア、インクイジターには決して逆らうな」

「でも陛下、あそこには友人たちが……」

「エクリュア、そなた何か知っているのか?」

「い、いえ。まさか」


 咄嗟にエクリュアは否定したが、事実そうするしかなかった。


 こんな展開は、『花ロマ』でも『ななダン』でも見たことがない。

 いよいよ動けなくなったエクリュアは、ディアドラの安否を祈るほかなかった。








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