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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十章 黒い計画と、それぞれの思惑と

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 リクたちはいつもの聖女と白魔術師の格好ではなく、公爵家御用達のブティックで仕立てられた新しいドレスに着替えさせられていた。


 リクは青い花を模ったレースのドレス、アミは段状に足元の開いた黄色いドレスだ。


 何故自分まで、とうらめしく愚痴るアミに「諦めろ」とリクが諭す様子も、馴染みの光景になりつつあった。


 二人が形式的なお披露目と挨拶を済ませた後、リクは各方面から引っ張りだこだった。


「貴国は勇者召喚の準備をしていると聞いていたが、とんだ情報の行き違いがあったようで。このようなお美しい聖女様にお会いできるとは! 申し遅れました、私は隣国ジードカラントの大使ソワイエと申します! 以後お見知りおきを」


「……は、い」


 隣国の大使が興奮気味に挨拶をし、リクは作り笑いを浮かべて握手をした。


 一体、何人の自己紹介を受けただろうか。リクはさすがに疲労感を覚え始めていた。


 アミは自分はおまけだからと一歩引いているうちに、どんどんリクから離れていった。


 エスコートをしてくれたグレゴール・ローゼンベルグ公爵も顔が広いのか、少し離れたところで複数の貴族たちに囲まれている。まだ戻って来る気配はない。


「――あなたが聖女リク殿ですね。お噂はかねがね……。私はオルキア公国の第三王子マティアス・ロックス・オルキア。森の合同調査団に参加します。あなたのおかげで、くだんの森の近隣住民は枕を高くして寝られるようになりました。民に代わり、感謝します」


「いえ、勇者代行として当然のことをしたまでで……」


 入れ替わり立ち替わり人が変わる中で、王族と名乗る人物は珍しい。リクが顔を上げると、濃紺の髪と瞳の色をした好青年が微笑みかけていた。


 まさかと、ある予想に行き着いてリクが周囲に視線を疾らせると、遠くの方でミラフェイナが満面の笑顔でうんうんと頷いていた。その横にはエクリュア王女やディアドラ、シエラたちも来ていた。


 予想が的中していたようだ。このマティアスという男が、『光の乙女と七人の伴侶(ななダン)』における五人目の攻略対象のようだ。先日、討伐隊の戦場で出会った魔術師クライドが四人目だと聞いたばかりであった。


「リク殿。お近づきのしるしに、私と一曲踊っては頂けませんか?」

「え」


 マティアス王子はここぞとばかりに人好きのする微笑を浮かべ、リクに手を差し出した。


「ダンスはちょっと……」

「踊れなくても構いません。私がリードしますよ」

「えっと……」


 リクは言葉を濁す。攻略対象と分かった以上、関わるのは得策ではない。かといって他国の王族の誘いを断ってもいいものか、すぐには判断がつかなかった。


 リクが答えあぐねていると、大きな陰がリクとマティアス王子の間に割って入った。


「失礼、マティアス王子」

「あなたは……クレイシンハ公子ですね」


 正装をしていても筋肉の量や骨太の体格が隠しきれていない大男、アウグスト・クレイシンハだった。この国グランルクセリアの騎士団長の息子で、討伐任務では隊長を務めてリクたちと共に戦った男だ。ついでに言うと、『ななダン』の三人目の攻略対象である。


 リクは何かまずいことになりそうな予感がした。


「彼女は討伐から帰ったばかりで、体調が万全ではないのだ。ダンスの申し出はご遠慮願いたい」


「それは確かに……気付きませんでした。このような場で、つい失念していました。失礼しました、リク殿。では、またの機会に」


 マティアス王子は怒ることもなく頷き、アウグストはリクの手を掴んでその場からリクを連れ出した。


「一体、何を……」

「ああでも言わなければ、あなたはずっとあそこで誰かに捕まり続けていたぞ」

「それは……ありがとう」


 気が付くと、アミが視界から消えていた。あの子が隠れると、いつもこうだった。攻略対象の誰かが近付いて来るのだ。


「アミを探さないと」

「彼女なら、あそこにいる」


 アウグストの指差した方を見ると、ミラフェイナのいる後方のケーキテーブルでタルトをつついているアミの姿が見えた。甘いものが好きな、あの子らしい。


 リクが視線を戻すと、アウグストは照れくさそうに目を細めながら言った。


「少し付き合ってくれないか? 話がある」

「……話?」


 広間から抜け出す口実をくれた彼の誘いは、さすがに断ることはできなかった。






「まあまあ。行ってしまわれましたわ。マティアス様の誘いを断るのも、ここでアウグスト様が出て来るのもゲームにない展開ですわっ。ご覧になりまして? リク様は、どなたをお選びになるのでしょうね? わたくし、もうワクワクが止まりませんわ!」


 リクがアウグストに連れられて広間を出て行くのを見ながら、ミラフェイナは目を輝かせながら言った。


 未だにゲームのミーハー心が抜けないミラフェイナに呆れながら、エクリュア王女が肩を竦める。


「さぁね。誰も選ばないんじゃない? ヒロインのくせに『フリーダム』に入るくらいよ? ……まぁ、メインヒーロー(お兄様)をフる時点で、男を顔で選ぶ人じゃないのは分かるけど」


 そんなことより、と言ってエクリュア王女は溜息を吐く。


「ユレナのやつ、本当に来るかしら?」

「……ご自身で宣言なさった『次の夜会』が、今夜ですので」


 会場に目を光らせながら答えたのは、ディアドラだ。


 彼女はリクたち『ななダン』の姉妹作である『花と光の国のロマンシア』、通称『花ロマ』の悪役令嬢として転生した元地球人仲間だ。同じくヒロインとして転生したユレナに、次の夜会で断罪すると予告されている。


「バカよねぇ。頭に血が上って口走ったのかは知らないけれど。直近で開催されたのが、今回の聖女の凱旋祝賀パーティーなんだもの。自分が主役のパーティーでもなければ、シナリオに沿った卒業パーティーでもなし。攻略対象コンプリ済みだからって、気を大きくしすぎじゃない? 人の家で饗応、日本で言うところの他人の褌で相撲よ。ほかの子が主役のパーティーでやらかすようなら、マジでいっちゃってるわよ。ま、この場合、来ても来なくても阿呆のレッテルは貼ってやるわ」


 うしし、とエクリュア王女が含み笑いをする。


「そういえば、あの方……。アミ様はどちらへ?」


 辺りをきょろきょろと見渡し、シエラが首を傾げた。


「え? アミ様なら、そこに……」


 言われて気付いたミラフェイナがケーキテーブルの方を見たが、つい数十秒前までお菓子を漁っていたアミの姿がない。周辺にも見当たらなかった。


「あら? 先ほどまでいらっしゃったのに、いつの間に……」


 お手洗いかしら、と考えかけて、ミラフェイナはハッとした表情を浮かべた。


「ま、まさか……」

「どうしました?」


 大げさに戦慄するミラフェイナに、シエラは話半分に付き合った。


「リク様とアウグスト様の様子を見に行かれたのでは……!? そ、それならばぜひ、わたくしも見たいですわっ! ゲームにない萌えシーンが、また見られるかもしれませんもの!」


「まさかそんな……」


「いえ、きっとそうに違いありませんわ! こうしてはいられませんわ。わたくしも参りますわ……っ!」


「ええ……」


 言う間に、ミラフェイナも広間を飛び出して行ってしまった。

 シエラとエクリュア王女は、呆れてツッコむ言葉すら出てこなかった。


 そんななか、城の従者が敬礼してエクリュア王女に近付いた。


「第一王女殿下。陛下から、言づてがございます」


 エクリュア王女のそばには、護衛兼侍女のミレーヌがいたため、従者とはミレーヌがやり取りした。


 従者が去った後、ミレーヌが振り向いて言った。


「……姫様。陛下からのお呼び出しです」

「何かしら? 必要な挨拶回りは済ませたはずだけれど……」


 エクリュア王女は首を傾げたが、国王の呼び出しとあらば無視する訳にはいかない。


「まぁ、いいわ。すぐに戻るから、シエラはディアと一緒にいてちょうだい」

「分かりました」


 エクリュア王女が去り、ディアドラとシエラの二人になった。

 どこか表情の優れないディアドラに、シエラは笑いかける。


「大丈夫。皆さん、すぐに戻られますよ」

「え、ええ」


 不安になるのも無理はない。『花ロマ』での悪役令嬢は追放後に死亡する解釈も多いのだ。

 その時、背後から声を掛ける者があった。


「シエラ!」

「お……お父様?」


 声を掛けてきたのはシエラの父、クローバーリーフ伯爵だった。シエラと同じレモン色の髪をして、上品な口髭を生やした紳士だ。


「聖女様とお近づきになったというのは本当か?」

「はい。今は席を外していらっしゃいますけれど……。まさか、リク様を紹介しろなんて仰るんじゃ……」

「ああ、まあ今はいい。とにかくお前に会わせたい青年が来ているんだ。一緒に来なさい」


 クローバーリーフ伯爵は、シエラの手を引いて行こうとする。


「お父様! 私、お見合いはしないと言いましたよね? 婚約者は、まだ必要ありません。それに私は、春から他国の学園へ行くのに……」


「見合いではない。夜会の席で挨拶するだけだ。会うだけでいい。いいから、来なさい」

「そんな、お父様……!」


 シエラは明らかに困惑しているが、逆らえないようだ。クローバーリーフ伯爵は、振り返ってディアドラにことわりを入れた。


「……フラウカスティア令嬢、娘は少し失礼するよ」

「え、ええ。ごゆっくり。ごきげんよう伯爵様」


 ディアドラは伯爵にお辞儀をして、二人を見送った。




 ついにディアドラだけが残された。


 もし、ここでくだんの子爵令嬢が第二王子を連れてきたら、どうなるか。

 雲行きが怪しくなってきたことに気付いた時には、もう遅かった。








更新


転生/転移者・攻略対象等まとめ

【ななダン】

・ヒロイン:リク

・悪役令嬢:ミラフェイナ

・攻略対象1:コルネリウス王子 ※フリました

・攻略対象2:レンブラント

・攻略対象3:アウグスト

・攻略対象4:クライド ←New!

・攻略対象5:マティアス王子 ←New!


・隠しキャラその3:ローゼンベルグ公爵


・モブ王女:エクリュア ※花ロマにも出てくる


【花ロマ】

・ヒロイン:ユレナ

・悪役令嬢:ディアドラ

・攻略対象1:クリスティン王子

・攻略対象2:ダニエル

・攻略対象3:セイル

・攻略対象4:ロラン

・攻略対象5:リチャード


・モブ王女:エクリュア


【あるネット小説(作品名未公開)】

・モブ?:シエラ


【不明】

・???:アミ ※作品名も役柄も不明


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