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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十章 黒い計画と、それぞれの思惑と

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 アウグストに連れられて王宮の庭園まで出てきたリクは、薔薇の香りに包まれながらアウグストの背中を見ていた。


 街灯のような明かりはないが、背景の王宮からもれてくる光や月明かりの下でも、薔薇の鮮やかさが認識できる。


 姿は見えないが、リクの護衛である神殿騎士レンブラントが何処かに身を潜めているだろう。おそらく、それはアウグストも気付いている。にも拘わらず、このような人気のない場所に連れてくる意味を考えると、パターンは多くない。


「……こんな所まで連れてきてしまって、すまない。その……、今日のあなたは美しすぎる。ゆえに、人目を憚らねばならなかったのだ」


「ああ、この綺麗なドレスのことなら、グレゴー……ローゼンベルグ公爵に用意してもらったんだ。私と、アミの分。後でお礼を言わないと」


 一瞬、リクがローゼンベルグ公爵のファーストネームを言いかけたことで、アウグストは唇をぐっと引き結び、やがて話し始めた。


「よ……よかったら、俺にもドレスを贈らせてほしい。この世界に来たばかりで、色々と大変だろう。ローゼンベルグ公爵や王家もよくしてくれているだろうが、俺も力になりたい。……魔の森でも、助けられたしな」


「ドレスを? ……私に?」

「ああ。もちろん、ほかのものでも構わない」


 ドレスを贈る意味は、異世界から来たリクにも分かる。

 しかし、アウグストはリクを理解していないようだった。


「お断りします」

「……え?」


 拒絶の言葉に、アウグストはひゅっと喉を鳴らした。


「私にだけドレスをというのなら、やめてほしい。私とアミを同列に扱わないなら、この国を出て行くと宰相さんと約束した。だから、お断りします」


「ま、待ってくれ。そういう意味では……! いや、そういう意味なのだが……っ。ああ、違う! 公的な話ではなく、俺は個人的にあなたを……!」


 リクは答える代わりに、強い瞳でアウグストを見つめ返した。






「ああっ! あんな所にいらっしゃいましたわ!」


 しばらくしてリクを追いかけてきたミラフェイナは、薔薇庭園の中央付近にリクとアウグストがいるのを見つけて近くの植木に身を隠した。


(何をお話しになっているか気になりますわ!)


 向かい合って何かを話している二人の会話を聞きたいがために、そのまま植木の並ぶ陰を利用して近付いて行く。そのさまは、まるで盗っ人のようだがミラフェイナはワクワクと瞳を輝かせている。


 何とか会話が聞き取れる場所まで移動した頃、「あなたは美しすぎる」というアウグストの声が聞こえ、ミラフェイナは叫び出しそうになるのを抑えた。


「何てこと! 告白ですわ! リク様はやはり、アウグスト様ルートをお進めに!?」


 小声ではあるが、ミラフェイナは声に出ていた。すると、隣に一人加わった。


「……わあ。あの二人、進展ひてるのかな?」


 アミだった。口にクッキーをくわえており、両手いっぱいに焼き菓子の詰まった袋を複数抱えていた。その中には、下町の出店で売られているようなラッピングの袋も混ざっている。


「あら、アミ様? 今までどちらへ?」

「お菓子もらってたら遅くなっちゃった……」

「まさか厨房でもらってきたんですの?」

「ううん。何か、色んな人がくれたの」

「どういうことですの……」


 ミラフェイナは夜会にお菓子を持ってくる貴族がいるはずはないと思いつつも、アミを見ているとお菓子を与えたくなる気持ちも分かる。


 アミは現状、どのゲームまたは小説などのヒロインかモブかも判明していないが、そちらの関係かと思い、ミラフェイナは深くは考えなかった。


「とにかく、今いいところですのよ」


 声を潜め、ミラフェイナはリクとアウグストたちの方向へ顔を戻した。


「ほんと? ロマンスの予感?」


 目をキラキラとさせながら、ミラフェイナとアミは植木の隙間からリクたちを見守った。






「…………っ」


 アウグストはリクの真っ直ぐな眼差しに怯み、目元を手で覆ってから溜息を吐いた。


「いや、待ってくれ。分かった。俺の考えが至らなくて、すまなかった。アミ殿は、あなたにとって唯一の同胞だったな。考えてみれば、あなたたちは突然異世界に喚び出された身……。同じ故郷を知る仲間が、どれだけ大切かは想像に難くない。……よし。あなたに何か贈る時は、アミ殿にも同等のものを贈ろう。……これで、受け取ってもらえるだろうか」




 少し離れた茂みの中で、二人が騒いでいる。


「ええーっ」

「しーっ。しーっ、ですわアミ様っ」

「だって、私にもらったって受け取れないよぉ」


「そこはリク様のために、受け取ってあげて下さいまし。……それにしてもアウグスト様、一度断られても引かずにお強いですわね。この調子で、押せ押せですわぁっ!」


 ミラフェイナは両手の拳を右、左と順番に前へと突き出し、アウグストを応援した。




「……」


 リクが考えているので、アウグストは慌てて付け加えた。


「これは公的にも平等な話だぞ。王家はともかく、ローゼンベルグ家からだけ受け取っていては、他の諸侯に誤解されかねない。並ぶ公爵家として、俺のクレイシンハからも支援を受けるべきだな、うん」


「……なるほど。そういうことなら」


 リクが顔を上げて相槌を打つと、アウグストは安堵の表情を浮かべて、はにかんだ。


「そうか! 受け取ってくれるか!」

「どうかな。もしアミが断るなら、私も受け取れない」

「ぐっ……。やはり、アミ殿なのだな……」


 アウグストは一瞬言葉に詰まり、口端を引きつらせた。




 続・茂みの中。


「ええーっ」

「アミ様! しーっ」

「何でそこで私を出すのリクぅ……」


 アミはクッキーをもぐもぐしながら、だばーっと涙を流した。


 一方、アウグストと同じことを気付いたミラフェイナは戦慄していた。


「これは大変なことになりそうですわ……」

「何が?」


 きょとんとするアミに、ミラフェイナは先が思いやられる。ほかの攻略対象たちも、遅かれ早かれ気付くことになるだろう。


 どのような結果になるにせよ、おそらく鍵となるのはこの娘に違いないのだから。






 ミラフェイナとアミがいるのとは別方向の植木の陰に、リクの護衛の神殿騎士レンブラントがいた。


 黙ってリクとアウグストを見守っていたところへ、急にクライドが現れた。


「あーらら。いい雰囲気には、ならなかったねぇ」

「……何故ここに」

「別にいいじゃない。君だって護衛の立場を利用して、のぞき見してるんだからさ」

「俺は任務を全うしているだけだ」

「はいはい。お堅いねぇ君は」


 クライドは、アウグストが実質フラれるのを見て同情の念を禁じ得なかった。


「リクちゃんねぇ。ああいうタイプは、色恋じゃ落ちないよ。分かってただろうに……」


 アウグストは、良くも悪くも実直な男だ。そんな彼が恋するには、あの聖女は底が知れなさすぎる。「アミの秘密をバラせば斬る」と言われているクライドは、そのことをよく知っていた。


「お前も『聖女の器』に懸想しているクチか?」

「あれれ~? 自分は違うっての?」

「一目は置いている」


 それだけだと言わんばかりに、レンブラントは顔を背けた。


「あーあ」


 溜息と共に、クライドは肩を竦めた。


 クライドは討伐の報告でアミの索敵能力やドローンと呼んでいた使い魔のことは話したが、アミの付与魔法の性能がぶっ壊れていることは、今のところ誰にも話していない。魔術師団副団長としてはよろしくないことなのだろうが、今は様子見が妥当と判断していた。


 それにしてもクライドを斬って国を出るという宣言も、あのリクなら実行しそうだ。


「俺も君には興味津々だよ」


 呟き、クライドは薄く笑った。言葉とは裏腹に、興味の矛先を隠したまま。






 リクとアウグストが庭園で別れるのを見送ってから、ミラフェイナとアミは出るタイミングを見計らっていた。


「あれ? アウグストさんと一緒に行かないんだ……」

「そうですわね……。何故かしら? こちらへ近付いて来ますわ」


 ガサリ、と植木の葉が揺れた。数枚の葉が落ちた頃にはリクは目の前にいて、ミラフェイナとアミは同時に壁ドンならぬ樹木ドンされていた。


「……二人とも、ナニしてるの」


 気付かれていたことを察したミラフェイナとアミは、揃って苦笑いした。


「も、申し訳ありませんリク様……っ。お二人の邪魔をするつもりは毛頭なく……っ。どうしても未知の萌えシーン見たい願望に抗えず……!」


 ミラフェイナは相変わらずだった。アミも、気まずそうに頬を掻く。


「え、えーっと……。つい、つられて……」

「つい?」


 見ると、アミはたくさんの焼き菓子が入った袋を抱えている。袋の種類やラッピングの違うそれらは、明らかに複数の相手もしくは入手先からお菓子をもらったのだろう。


「そのお菓子はどうしたの?」

「何か歩いてたら色んな人にもらって……」

「……。そう」


 リクはアミの両肩に手を置いて、因果を含めるように言う。


「知らない人からお菓子をもらってはダメ」

「ご、ごめんリク……。今度から気を付けるね」


 素直に受け入れるアミに微かに笑いかけ、リクは機械的に頷いた。

 そんなことより、とリクは一呼吸置いて二人に向き直る。


「私たちはここにいていいのか? ディアドラさんは大丈夫だろうか……」


 リクの言葉に、ミラフェイナはハッと青ざめる。


「忘れてましたわ!」

「やっぱり……」


 親友を忘れていたとは、相当である。今度はリクが微妙な顔つきになった。


「こんなことをしている場合じゃありませんわ。早く戻らなければ……!」

「急ごう」


 三人は頷き合い、広間へと急いだ。








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