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黒いオペラハウス前。
入口の大扉の前でリクたちを塞いでいたのは、がっしりとした体躯の大男たちだった。おそらく、オペラハウスの用心棒たちだろう。
リクたちが入口でオーナー侯爵への面会を申し出たところ、チケットがないという理由で用心棒たちに囲まれてしまったのだ。
「――ですから、せめて。いらっしゃらないのなら、お約束だけでも取り次いで頂けないでしょうか」
「そういうことは、侯爵家に言ってくれ。警備上、チケットのない観覧者を通す訳にはいかない」
真っ当に交渉するシエラだったが、用心棒たちでは話にならない。
「わ、わたくしたちはグランルクセリアの貴族ですわ。こちらの先触れを無視したのは、ブレーザー侯爵の方ですわよ」
横からそう言ったのは、ミラフェイナだ。
貴族の礼儀に則り、ブレーザー侯爵家には訪問の許可を申請しておくとエクリュア王女が言っていた。それに返事がなかったということらしい。
それならばと、リクが言った。
「……無視したということは、こちらも礼を尽くす必要はないということ」
「なに!?」
リクはシエラを庇う位置に進み、大きな体で威嚇してくる用心棒たちを睨み返した。
こんなこともあろうと、リクは今回は自分の剣を持って来ていた。聖女特有の聖属性や光属性魔法もあるが、剣があった方が勇者のスキルを使いやすい。万が一のためとはいえ、あるに越したことはない。
リクが令嬢たちを庇って前に出たのを見て、後方で見守っていたレンブラントが警戒して姿を現した。騒ぎを起こすつもりなら、護衛としては黙っておけないのだろう。
「待て、リク殿。どうするつもりだ?」
「あなたは、手を出さないで」
「そういう訳にいくか」
レンブラントが出てきたことで、場の空気が一気に張り詰めたものに変わる。
「悪いことは言わない。貴族のご令嬢方。パパとママにお願いして、チケットを買ってから出直してきな」
「何てこと……! 侮辱していますの? 正式に抗議しますわ!」
「ミラ、退って」
分かりやすい挑発に乗ってしまいそうになるミラフェイナを抑え、リクは真っ向から用心棒たちを睨み返す。そのまま身を低くして構えた。
「な、何だ? 女のくせに、やろうってのか!?」
「試してみる?」
リクが僅かに垣間見せた覇気に、用心棒たちが一瞬、おののいた。
リクのことを知らなくとも、武の心得が多少なりともある者ならば今の覇気を感じ取っただろう。
リクには上位スキル『武具自在』と『武術自在』がある。
ひとたび戦闘となればどんな武器でも使いこなし、また達人級の動きをすることができる。ここにいる数名の大男たち程度であれば、リクを止めることはかなわないだろう。
一触即発の空気を割ったのは、スーツを着た黒髭の紳士だった。
「これは何の騒ぎですか!」
「し、支配人。それが……」
黒髭の紳士は、さらに数名の用心棒を連れていた。
リクたちはブレーザー侯爵かと期待したが、用心棒たちが支配人と呼んだので違うようだ。
「このご令嬢方が、オーナー様に面会させろとしつこくて……」
「オーナーに?」
黒髭の支配人が、冷ややかな視線でリクたちを一瞥した。
リクの背中越しに、シエラが理路整然と訴えた。
「どうか、お目通り願います。グランルクセリアの貴族として、お伝えしなければならないことがあるのです」
しかし必死の言葉も空しく、支配人は冷たい態度を変えることはなかった。
「グランルクセリアの貴族? ……いや、そんな話しは聞いていないが」
「先触れなら、一週間も前に侯爵邸へ届けていましてよ。お返事もなく礼を欠いているのは、そちらですわ!」
「ほう。返答がないということは、それが返事なのではないのかね?」
「な、何ですって……!」
支配人の態度も、客人に対するものではなかった。
貴族とはいえチケットもなく、令嬢たちだけでは舐められているのだろう。
「お引き取り願おう」
支配人が合図をすると、屈強な用心棒たちがシエラやミラフェイナに掴みかかろうと迫って来た。
「リ、リク様……!」
「もういい、ミラ。無礼な相手に、礼儀を示す必要はない。そっちがその気なら……、力ずくで通らせてもらう」
「……『聖女の器』を傷付けさせる訳にはいかん」
リクが臨戦態勢に入ると、レンブラントも仕方なく剣に手を掛けつつ周囲に気を配る。
睨み合いながら、敵の数を確認する。用心棒の大男たちは、支配人が連れて来たのも含めると数は八人。
リクにとって、何ら障害となる数字ではなかった。
明らかな戦闘の気配に、シエラは我が目を疑ってリクの背中を見ていた。これは、どう見ても悪手だ。
(何か、おかしい……。どうしてこうなるの?)
シエラはリクとそこまで親しい訳ではないが、今のリクには何かしらの違和感があるような気がした。
しかしミラフェイナの方を見ても、彼女は何も気付いていないようだった。




