10話までの投稿を終えての感想と解説。
この物語の執筆は当初、言わば「膨大な歴史の編纂」から始まった。
小説というカメラを通して世界を映すことになるのだから、元々ある世界の構成を練ることは必要不可欠だったと言える。
この「歴史の編纂」において重要なのが「人」であった。
当然ながら、異世界にも多くの住人がいる。
彼、彼女らは大概の場合が一般庶民であるはずなのだが、今回はその中でも貴族、さらに言えば皇帝の周りの人間たちにフォーカスを当ててみた。
多くの読者の皆様はすでにお気づきであるとは思うが、この10話までの話では基本、戦争描写を描くことに重点を置いている。
クルドニフ将軍の部隊の攻撃、イザベルの奇襲、サヴィアントと皇帝シャーロットの海戦という順だ。
なぜ彼ら彼女らが戦うのかというのは、読者の皆様が大変気になった点の一つであると推察するが、ここでもう一度目を向けてもらいたいのは彼らの来歴だ。
ランドシア帝国がまだ、ランドシア王国であった頃、その首長は王であった。
時のランドシア王であるジョージ・ブラウスは、物語の舞台であるツヴァイランドの北部地方・ヴェルドゥア地方のさらに北端に位置する小国の一領主に過ぎなかった。
当然ながら、異世界と言っても平和な世界ではない。
日ごろどこかしらで、抗争があり、略奪がある。
特にこのジョージ・ブラウスの治めるランドシア王国とその周辺は、ザンスタッドや他国から目も向けられないような貧乏国家であったため、その文明レベルも自然、中世もしくはそれ以前のものであった。
そのような環境下で、ランドシアと国境を接する国・シードシア間で、この両国を貫通する国際河川・ルーデン川の開発条約の条約不履行を巡って争いが起こる。
この時のクルドニフ大佐の活躍やサヴィアント中佐の快勝によって、ランドシア史の重要な一歩が切り開かれたと言って過言でないだろう。
この戦争はちょうど一年間で終結したため、365戦争という別称を持っている。
もし、この戦争にランドシア王国が勝てた理由を言及するのであれば、その理由は他国からの援助にあった。
カールトン公国から優れた造船技術を持ち、また豪商として名高かったモーリッツ・アイホルンを招聘して技術提供を求める。
さらには、ザンスタッドからも多額の借金をした。
10話までのストーリーでは登場していないモーリッツ・アイホルンだが、彼のお雇い教師としての功績とランドシアの危機を支えた造船の父という名は、ランドシア国内で未だ健在である。
シードシアを降伏に追いやったランドシア王国はシードシアを併合し、ヴェルドゥア地方にグレイ公領と並ぶ勢力圏を形成した。
グレイ公領はその名の通りヴェルドゥア王・グレイによって直接治められる領域である。
ヴェルドゥア王は代々ヴェルドゥア地方の前身、ヴェルドゥア王国を治めていたのだが、時が進むにつれてそれが崩壊して、ランドシア王国、シードシア王国、グレイ公領という具合に分かれた。
ヴェルドゥア統一という野望を掲げていたヴェルドゥア王なのだが、グレイ公領は医療技術の発展により高齢化が進んでいたため思うように統一戦争を開始できなかった。
その最中での、ランドシアによるシードシア併合であったためグレイ公領内は震撼する。
ますます、ランドシア・グレイ公領間は緊張を高めていく中、ヴェルドゥア王・グレイは、隣国・アヴェルセ共和国に援助を求めた。
両国の間で共闘宣言と同盟が組まれ、万全の体制が整えられたように思われたのだが、ランドシア王の策略に嵌っていく。
ジョージ・ブラウスとその側近たちが描いたシナリオはこうだ。
まず、少子高齢化や度重なる遠征の失敗などによって国力の弱っている今を狙って、グレイ公領の準首都機能を持つ都市・ウェルトリヒにて大規模なデモ行進を行わせる。
全くランドシアとは異なる文明レベルではあるが、ジョージ・ブラウスは優れた情報網によって敵情を正確に把握し、効果的な手を打っていった。つまり、賃上げや物価高によって苦しんでいるというデモを大規模に起こさせて「虐げられる民衆」というのを演出したのだ。
しかし、隣国グレイ公領を征服するという野望を持っていたランドシア王ジョージ・ブラウスが道半ばで急死したのである。
亡き父の後を継いだシャーロット・ブラウスは、父の遺言と父の側近の一人であるモーリッツ・アイホルンとによって戦争へ引き込まれていく。
すぐに、モーリッツ・アイホルンの指導の元、シャーロットは近隣諸国に対して声明を発表。
その声明は「もし、グレイ公領内における虐げられる民衆が解消されないのであれば、ランドシア王国は国を挙げてヴェルドゥアに住む同胞のために戦うだろう」というものであった。
グレイ公領・行政部は外交ルートを通じて抗議、声明の即時撤回を求める。
しかし、ランドシア女王シャーロットはその要求を拒否。
在ランドシア大使および在グレイ公領大使が国外退去したことをもって、国交断絶状態となった。
その時点ですでに国境部には両軍が終結し戦闘態勢を整えていた。
ヴェルドゥア地方を横断する河川・ルーデン川を跨ぐようにして両軍とも睨み合う。
日も上りきらない早朝、ランドシア軍の攻撃開始によって両軍は戦闘状態に入った。
当初こそ優勢だったランドシア軍も衛生兵の概念があるグレイ公領の軍にジリジリと押されてゆく。
総大将であったシャーロットはここで奇想天外な作戦を発案。
それは首都(左翼側でルーデン川に近い)を囮として、副都市(右翼側)に軍の3分の2を集結させたうえで右翼から敵の戦線を崩壊させることであった。
左翼側(ルーデン川付近)では軍の撤退が開始されそのまま首都へ入っていく。
その指揮を任されたのがシャーロットの旧友・イザベルキャンベルであった。
ルーデン川を下って一気にランドシアを攻め落とそうとする栄光陸軍(グレイ公領陸軍)は右翼に兵力を集中させた。
そのため、左翼側(副都市・ウェルトリヒ)が手薄となったのである。
そこに入り込むようにしてランドシア陸軍が攻勢をかける。
手薄な戦線は容易に突破され、ランドシア軍はグレイ公領内に侵攻した。
副都市・ウェルトリヒをその日中に手中に収め軍を転進、首都・ユートリヒに迫る。
そのような状況は知らない栄光陸軍は未だにランドシアの首都を落としあぐねていた。
翌日にはランドシア軍は首都・ユートリヒを落とす。
そのことを栄光陸軍の本隊が知ったのは2日後のことであった。
急いで首都へ戻った栄光陸軍であったが、そこに待ち構えるのはユートリヒにて迎撃態勢を整えるランドシア陸軍である。
市街地戦となったが、すでにグレイ公も殺害されていたため、栄光陸軍はその戦闘の二日後に降伏文書に署名。
集結を迎えた。
戦後まもなくランドシアの首都は古都・ユートリヒに移される。
ユートリヒはヴェルドゥア王国の首都であったこともあり、世界的にも知名度のある都市であった。
余談ではあるが、ヴェルドゥア王国というのは神話の時代から続く王国で、その国土はツヴァイランド全体であったという話もあった程だ。
そのため、ツヴァイランドにとっては中心の地であり、また、あこがれの地であった。
これが「大きな伏線」となるのである。
話を戻せば、グレイ公領の併合によってランドシア王国が次に考えなければならないのは、新しい土地の再分配である。
本編の中でも出てきた話ではあるが、ランドシア王国は古来より、武人によって管理・所有されてきた。
つまりは軍事国家であるランドシアは、その国土が広がればその土地を武人・軍人に貸さなければならない。
また、武人たちに貸し出した土地を代々自分の土地だという意識を与えないために、戦争のたびに領地替えが行われるのである。
大規模になった領地問題と分配業務のために行政部の拡充が図られた。
さらに、民主的な考え方に影響を受けつつあったグレイ公領を併合したことによって民主的な考え方がランドシアに逆輸入されたのである。
これが、ランドシア史における議院内閣制のはじめの一歩となった。
政治家という職業が登場したランドシア国内では、政治家にも特権的階級が認められたが、政治家になった者の多くが元軍人であることを考えると、人間的には大差ない。
しかし、地方の政治という考え方から国家全体の政治という考えに代わったのは大きな転換であったと言える。
そこで、初代内閣総理大臣に就任したのが元軍人出身のクロエ・サットンであった。
このように政治でも大きな転換を見せた戦後史であるが、これは新たな戦前でしかない。
当時のランドシア経済は最悪であったと言って過言ではない。
大きくなる行政システムと戦争が起こすたびに技術供与を求めていたため王国は借金まみれであった。
それに重なり、世界の中の常識が覆されたことによってさらにランドシア経済は悪化の一途をたどることとなる。
カールトン公国の貿易商売がうまくいくたびにザンスタッドの経営が右肩下がりになっていたのだ。
つまり、ランドシアはザンスタッドに貿易の大部分を依存していたため一蓮托生と言える状況にあったにもかかわらず、カールトンという強敵が現れたために、ランドシアはザンスタッドと共にさらに経済難を迎える。
まさに、ランドシアの国家存亡の危機とまで言っていいだろう。
ザンスタッド商人はランドシアに対し借金の返金を要求。
シャーロットは借金返済として国土の一部をルーク・ランゲとマルティン・クラインに割譲した。
さらに現状のままでは、この経済難に対応できないと考えたシャーロットとアイホルンは異域経営に乗り出したのである。
もちろん、国土を取り戻すために金を集めないといけないということもあるが、シャーロットはランドシア経済を潤すことによって先公ジョージ・ブラウスよりも信用を獲得したいという明確な目標があった。
当初、困難と予想されていた異域経営は驚くほど成功を治め、ランドシア経済が息を吹き返したのだが、ザンスタッド商人からの多額の借金返済までには及ばなかった。
異域経営が成功を治めたとき、それを良く思わない国家があった。
それがアヴェルセ共和国である。
アヴェルセはランドシアに対して言いがかりに近いような声明を発表した後で、両国の最大の論点となっていた石油費の交渉へ持ち込んだ。
第一回石油費交渉は、異域の確保によって帝国と国家の姿を変えたランドシア帝国の首都・ユートリヒにて行われる。
しかし、交渉は難航。
結果、正しい戦争(正戦論)の考え方に従って決着をつけることになった。
ランドシア国内には戦争を賛成する軍人とそれに反対する民衆が共存している。
民衆に寄り添う政治家は戦争への反対と、国土の勝手な割譲によって皇帝シャーロットの政治に不満を募らせてゆく。
その結果、皇帝シャーロット・ブラウスは政治的に権力を持たなくなったが、統帥権を持つということが決定された。
その最中での記憶喪失であったのである。
物語はシャーロットの戦争へと突入していくこととなる。
今後、異域沖での海戦で大戦果を治めたシャーロットは第二軍グランツェ将軍と共に異域にて敵と相対する。
ますます、戦争一色になっていく「悪役たちのレクイエム」であるが、この物語は軍人と軍人、人と人の信念のぶつかり合いを描くことに主題を置いてるということを念頭に楽しんでもらえれば幸いである。




