表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役たちのレクイエム  作者: 秋月
PR
10/11

運命の大海戦

コンコルド艦隊の必死の回頭中、敵の士気旺盛な一部兵士たちによって、コンコルド艦隊に砲弾が撃ち込まれた。


敵上層部の意図しないであったし、この弾を撃った砲手たちには敵との距離など、射撃に必要な情報は一つとして知らされていなかった。


靄のカーテンから放たれた砲弾はまるで鏑矢のような音を上げながらシャーロット達の頭上を飛び去ってゆく。


さらに悪いことに、この数本の鏑矢が、コンコルド艦隊の野蛮な戦法に正当性を与える結果となった。


シャーロット率いる第一戦隊が艦隊速力の最大で戦闘態勢を整えている間、サヴィアント率いる第二戦隊は第一戦隊のはるか後方で敵艦隊を包囲もしくは、分散させる目的でシャーロットとは違う方向に舵を切る。


第二戦隊は一斉回頭した。


一斉回頭して、即座に進路を180度変えて、第一戦隊の囮となるため敵連合艦隊の前に躍り出る。


サヴィアントは死ぬ気であった。


しかし、サヴィアントの囮になるという目論見は失敗に終わる。


なぜならば、敵の大部分が先に回頭を始めたシャーロットの方に食いつき、サヴィアントの第二戦隊へは主力とはなりえない護衛艦、駆逐艦などが寄り付くこととなったからだ。


優秀な艦を第一戦隊に回しているとはいえ、第一戦隊・8隻に相対するのは18隻という壮絶な艦数である。



第一戦隊の全力の回頭が終わり、若干、霧のカーテンの間から敵の顔が見え始めた14時22分。


旗艦モルレーンの艦橋では、射撃開始の命令が発せられようとしている。


「射撃を開始しろ」


最低限、サヴィアントから言われた仕事をし終わったシャーロットは念願の攻撃命令を口にする。


それを受けた砲術長は、伝声管に向かって命令を叫んだ。


「距離26000!目標、敵旗艦ウォーリア、撃ちーかーた始め!」


伝声管に伝わった声はそのパイプの中を反響しながら各持ち場に伝わってゆく。


その命令を受け取った各現場指揮官たちは、その場にいる兵卒一人一人にはっきりと聞き取れるように声を張り上げながら命令した。


艦全体が忙しさに包まれて、各砲の装填が終わった瞬間、波の音をも消す冷たい静寂が流れた。


まるで時間が止まったようである。


その一瞬の静寂は、心臓を掴まれるような爆音とともに打ち壊される。


気が付くと、敵に照準を合わせる全ての砲が火を噴いた。


弧を描いて飛んでいくというよりは、凄腕の野球選手が彼の持つボールをノーバウンドでグラウンドの端から端に投球するのに近い。


つまり、その砲弾は瞬きした次の瞬間には遥か彼方に消えてなくなっていた。


そういう弾丸を艦橋の砲術長は固唾を飲んで見守っている。


しかし、初弾は敵艦隊の遥か手前に着弾し、かすりもしなかったが、その着弾する砲弾の一つ一つは艦橋ほど高い水柱を上げた。


敵も味方も動いているのである。


しかも、互いの速度が異なるため砲術長はその点も含めて計算しなければならなかった。


砲術長は双眼鏡を覗くシャーロット後ろで腹に板を当て、その上でシャリシャリと鉛筆を走らせている。


砲術長はその紙いっぱいに数式を書いて次弾の弾道計算をする。


第一戦隊3200名の命は彼の計算にかかっていた。


しばらく互いに砲撃戦が続き、敵味方双方に被害が確認され始めていたころには進展が見られた。


第一戦隊・五番艦ルーセフが魚雷を敵艦に向け発射した瞬間を皮切りに、異域沖に魚雷が飛び交う魚雷戦が出現したのである。


ルーセフが発射した魚雷5本に直面した敵第二艦隊は見事なまでに艦隊を崩して魚雷を交わし、旗艦の命令にてたちまちその艦隊を建て直した。


このような芸当はカールトン公国の海軍のように高い艦隊運用技術の持つ海軍しかできない。


その技術の高さに驚き、ルーセフの艦橋内では敵でありながら賞賛の声が上がった。


彼らはこの時知らないが実はその賞賛の声が上がっている間、彼らは非常に危険な状態にあった。


攻撃を敵第二艦隊に集中していた時、敵第一艦隊がシャーロット達の後ろに忍び寄り、第二艦隊と足並みをそろえてシャーロットの第一戦隊を挟撃しようとしているのである。


この状況を作り出すために敵第二艦隊は世界のどの海軍もまねできないような高度な技術を使って立て直しを図ったのであった。


挟撃されるといち早く気が付いたモルレーンの艦長によって現状の早期打開が提案されたころ、敵第一艦隊は足並みを揃えるべくさらに速力を上げてシャーロット第一戦隊の右舷に出ようとしたのである。


それに対する、シャーロット第一戦隊は左舷に今なお存在する敵第二艦隊へ攻撃を集中しようと一斉回頭し、進路を180度転換する。


その時のシャーロットと敵第二艦隊の距離は実に5000メートルもなかった。






戦場において好機は突然現れる。


敵も多少、隊列ががいびつな形をしていようと敵に逃げる機会を与えまいと距離を詰め、魚雷を放とうとしたがシャーロットが急激な進路変更をしたために敵艦隊は動揺し、敵第二艦隊は舵を左へ切った。


すると、敵の防御態勢に間隙ができる。


シャーロット率いる第一戦隊の優秀な艦長らはこの機を見逃さなかった。


直ちに、6番艦が敵第二艦隊旗艦に向かって魚雷を撃ち込む。


その放たれた4本の魚雷は、群れ成すイルカのように海面ギリギリを泳いで敵旗艦に命中した。


4本の魚雷がその場より消えた瞬間、艦の腹が真っ二つに割け、天にまで届くような火柱を上げるのであった。


同時にその衝撃波はシャーロットの前にあるガラスを勢いよく揺らし、その後すぐに耳を劈くような爆音が遅れてやってきた。


モルレーンの艦橋にいる全ての士官は声をあげて喜んだ。


しかし、シャーロット一人だけが喜ばずに、じっと敵の方を見ていた。


が、興奮していないわけではない。


この場の空気に飲まれ、自分が昂揚しているのが手に取るようにわかる。




相変わらず戦場には様々な決断と犠牲があった。


そのうちの一つが、シャーロット達によって沈められた旗艦の指揮官の移行だった。


敵第二艦隊はカールトン公国のゼルシア大将によって運用されている。


しかし、彼がランドシア製の魚雷によって船ごと沈められた今、カールトン公国は後任者の決定を急がねばならなかった。


カールトン公国海軍はアヴェルセ海軍と異なり、司令長官に次ぐポストは参謀長ではなく副司令官2名によって構成される。


そのため、副司令官であるレーゼン副指令とウェトバル副指令のどちらかが後任者となるのだが、この二人は長らく対立関係にあったのもあって、冷静に判断することもなくそれぞれ乗艦する2番艦バリアーンと3番艦ゾルゾラが同時に旗艦を自称するようになった。


結果、それに後続する各艦は激しく動揺したが、幸いなことに2番艦のバリアーンが先頭に立つと、縦陣を横にして待ち受けるコンコルド艦隊第一戦隊による砲火にさらされ、あっというまにバリアーンは艦橋の指揮所を潰され、さらには操艦不可能な状態にまでされてしまった。


そのバリアーンに対し、第一戦隊には容赦なく砲弾を送り込み、15時22分には沈没に追い詰めたのである。


それを受けて、幸い生き残ったレーゼン副指令は半分ほどの乗組員をカッターに乗せた後、3番艦ゾルゾラに乗艦しようと試みるが乗艦拒否にあう。


その後、彼がどこでどのようにして過ごしたという記録は残っていない。文字通り、彼は歴史の表舞台より姿を消した。


歴史家の間ではレーゼンは生きていたのではないかという声があるが、現状それは一、陰謀論的な主張に過ぎない。




ともかくも、バリアーンの喪失というのは艦隊にとっては好都合であった。


その理由はバリアーンの航行速度にある。


基本的に艦隊という形をとる以上、速度は艦隊で統一しなければならない。


そのため、艦隊の速力は一番足の遅い艦に合わせることとなるのである。


今回の場合のそれが、融通の利かない副指令を乗せたバリアーンであり、結果的に指揮権の統一、艦隊速力の向上という点で大いに吉であった。


シャーロット率いる第一戦隊が奮迅の働きを見せている時、サヴィアント提督も彼女の持つ軍事的才能を世界へ見せつける機会のど真ん中にあった。


戦闘開始当初の一斉回頭の後、第二戦隊は敵の第4・第5艦隊の前方に躍り出て、艦隊側面の砲全体を使って敵を迎撃した。


加えて魚雷を発射し、敵の両艦隊に一隻ずつの損害を出している。


機敏に動く第二戦隊に対し、敵の第4・第5艦隊は到底追いつけないため、挟撃して第二戦隊の両側面より雷撃しようというほうに方針転換する。


サヴィアントは両艦隊の間隔が少しずつ広がっているのを見逃さなかった。


またも艦隊を一斉に回頭させて進路を180度変更し、敵の意表を突いたのである。


しばらくこのイタチごっこを繰り返して、敵を振り払おうとしていた時、サヴィアントの隣で双眼鏡を覗く参謀の一人が言った。


「副指令!艦隊前方に濃霧が現れました」


サヴィアントはゆっくりと目を瞑り、彼女が左手に持つ軍刀の鐺を床に付ける。


しばらくじっと黙って動かなかったのだが、ぱっと目を開けて彼女の後ろにいる士官たちに話しかけるようにして言った。


「濃霧に突っ込む。全速力で敵前方に出るぞ」


急ぎ水兵たちによって、艦隊の一番後ろにいるサヴィアント第二戦隊旗艦に旗旒が掲げられた。


「全速力デ霧ヲ抜ケロ」


この文が掲げられた後、2,3分してから旗が降ろされた。


「面舵ヲ取レ」


比較的速力の早い艦を集めていたということもあって、艦隊はますますスピードを上げながら濃霧に突っ込んでいく。


「やはり、全く周りが見えませんね」


艦長の不安そうな言葉にすべてが詰まっていた。


一面、ミルク色の霧に包まれている艦は、敵はおろか前方の味方すらも薄っすらとしか見えない。


もはや、戦闘するような余裕はなく、艦隊崩壊の危機であった。


不安の色を示す艦長に対してサヴィアントは片頬笑みながら言う。


「これで敵から我々は見えなくなったな」


「前方の味方も見えません」


そして、艦長の方を見ながら言った。


「心配するな。一見の危機は最大の好機だ」


すると後ろにいた砲術長が笑いながら「まさしく」と答えた。


だんだんと霧が光を帯びて外が見えてきた。


第二戦隊は弾丸の如く濃霧をブチ破り、霧を纏いながら敵前方に出現する。


一方の第4艦隊と第5艦隊は霧を大きく避けてそれぞれ右側と左側とに分かれたため、両艦隊は分断されている状況にある。


第五艦隊がランドシア艦隊を迎撃しようと速力を上げだしたころ、サヴィアントが突如、前方に出現した。


いきなり現れた第二戦隊と並走しようと第五艦隊は面舵を取ったのだが、その途中で第二戦隊からの集中砲火を浴びた第五艦隊の旗艦が爆沈したため、第五艦隊内で玉突き事故が発生したのである。


もちろんサヴィアントがこの絶好の機会を見逃すはずがなかった。


直ちに艦隊速度を落とすことを命令して敵を包み込むようにして砲弾を浴びせかける。


第五艦隊は全滅した。


しかし、霧を大回りしてやってきた第四艦隊が包囲攻撃をしているサヴィアントを発見し、後方から大量の砲弾を第二戦隊へ送ったのであったが、数発を除き艦隊に大きなダメージを与えることはなかった。


だが、今までの戦闘で満身創痍であったサヴィアント第二艦隊にはもう戦闘継続能力はなくなっていた。


雨あられのように降り注ぐ砲弾によってどんどんと周りの艦が沈められていく。


戦勝ムードとは打って変わって、艦には血まみれの兵卒や下半身だけ無くなっている死体など転がり、辺りは火の粉が舞う地獄を作り出した。


流石のサヴィアントも、もう駄目かと思われたその時、敵の艦隊に嵐が吹き荒れる。


流星群のように飛来した砲弾は敵の船体を次々と貫通し、船を海に沈めていった。


サヴィアントもその周りの士官も一瞬驚いたが、サヴィアントは思い出したようにふっと笑う。


「やっと来たか」


マストで望遠鏡を覗く水兵の一人がサヴィアントがいる指揮所へ向かって大声で報告した。


「敵の側面より第二艦隊が出現!」


その方向を見ると、雲の隙間から差し込む光に照らされたヴェルヴッド提督率いる第二艦隊・殲滅部隊が艦隊を横一列に並べて現れた。


その中心にいる第二艦隊旗艦・ヴィクターリアにはザンスタッド国旗と共にランドシア国旗が掲揚されている。


はためく両国旗の下、ヴェルヴッド提督による攻撃によってサヴィアントは救われたのだった。







問題はシャーロット第一戦隊である。


50分後には同地点に来るのだが、彼女の場合もかなりボロボロの状態だった。


敵の放った魚雷複数本が第一戦隊・6番艦に命中し、敵に一太刀浴びせた英雄たちは無残にもその四肢を散乱させながら海の底へと姿を消した。


60名、すなわち乗組員の5分の1の水兵は救助されたが、その者の多くが顔面や背中に痛々しいやけどの跡を負っていた。


しかし、それでもまだよい方で、ほとんどの者が自身の血と肉をまき散らしながらまるで砂のように消えていったのである。


それでもなお戦争はその悲惨な光景を尻目にその足踏みを止めない。


16時32分には再び、急激に彼我の距離が縮められ、旗艦モルレーンの放った奇跡の一発によって敵艦ウォーリアは沈められた。


敵旗艦の喪失によって艦隊は壊滅し、その後も局地戦が行われることとなったが、大きな攻防はモルレーンの一発以後見られることはなくなった。




夜を迎え、多くの敵艦は帰港しようとする最中、暗闇に引きずりこまれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ