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合同実践演習



今度こそルシア視点に戻ります。



 午後になって、動きやすい軽装に着替えて魔力補助のブレスレットを付ける。裏山に続く道に出ると、そこには上級生が集まっていた。


 岩の上で、そこから代表らしき生徒が声を上げた。上級生だろうか、凛々しい眉が印象的な青髪の男だ。彼は拡声器ばりの声量で高らかに訓練の説明を始める。


「今回の実践演習について説明する!今回は3・4年生混合チームによる合同演習を行う!各チームは決められた時間内に、裏山にて素材を採集してもらう!踊りキノコの足、もしくはホーンラビットの角を1人一本手に入れること!」


 その言葉を聞いた俺はとても嫌そうな表情をしていたと思う。なぜならば、それはすなわちモンスターと戦うということだ。魔法学園とはいえ、か弱い令嬢(平民)にやらせる授業ではないと思う。


 しかも、昨日の王子から聞いたレジーナについての話を読み取る限り、レジーナを追い出した王族は俺と同じ3年生の中に居て、素行が相当ヤバいらしいと聞いたのだ。そんな奴が武器を片手に居るだろう場所になんて、出たくない。


 それに…


「…そ、そんな顔をされると……っレジーナ嬢、君は私が守るから安心してくれ!」


「はぁ?どんな顔ですの?」


 変態王子が意気揚々としているのも嫌だ。視界に入らないで欲しい。だけどそうやって思っていると余計に王子が喜ぶので無限に面倒臭い。困っていると、またスレイが割って入ってくれた。


「お嬢様、私の後ろに居てくださいね」


 ルシアが不安がってると見たスレイが心配そうにこちらを見ていた。こいつもムカつくけど、ちゃんと仕事はやってくれるんだよな。さっきまで「マリちゃんに迫られてどうだった?」とスレイをからかっていたルシアは、急に罪悪感を覚えてしまった。


「……ありがとうございます。私は戦いがあまり得意ではありませんので、お二人にはとことん頼らせて頂きますわ」


「はい、よろしくおねがいします」


 まぁ、実際殴るだけだったらいくらでも戦えるんだが。俺が頼る事を伝えるとスレイは少しだけ表情を明るくさせて、山道の先を歩いていった。


(んんー…?なんか頼られると喜ぶよな。この執事)


 ルシアはその背中をぼんやりと見ながら後ろをついて行った。



 ***



 裏山の森は、日光が当たらなくなればひんやりしていて涼しい。木の葉を透かすようにして太陽が地面を照らし、そこら中に影を落としていた。


 ルシアはスレイ達より少し遅れて歩いていく。魔力のこもったブレスレットのおかげで魔法が使えるとはいえ、3年間学園で訓練してきたスレイやネルス王子よりも魔法を使った戦闘力は劣るため、後衛として陣形を保つ。


「2人とも止まってくれ。…踊りキノコの群れだ。」


 ネルス王子が指差した先には、少し大きいキノコ達がわさわさと動いていた。大きなキノコの下に足のようにキノコが生えていて、珍妙な見た目をしたモンスターだ。


 それらは一本の木の周りを輪になってステップを踏んでいた。あれはフェアリーサークルという踊りキノコの繁殖行動らしい。おとぼけな動きが、ほんの少し愛らしく見える。


「お嬢様は所定の位置に。ここは僕たちが対応しますので」


「ええ。危なくなったら魔法を使うわ」


 スレイに「余計なことはしないでください」と睨まれながら俺は下がって行く。スレイ達は剣を抜き、戦闘態勢に入った。


「泥に沈め!」


 スレイがブレスレットを振り、土魔法で踊りキノコの足元をずぶんと沈ませる。


 もがく踊りキノコにネルス王子が長剣で斬りつけ、止めを刺す。しかし、魔法から逃れた他の踊りキノコ達は次々とこちらに向かってくる。キノコは自慢の軽やかな脚で泥沼を高く飛び越え、王子の頭上を狙う。


「甘いッ!ハァ!」


 飛びかかってきた踊りキノコを突くようにして払い落とす。そしてすかさず背後に迫るもう一匹を、そちらを見ることなく斬った。


 その光景に思わず目を奪われる。


「すげぇ……これが王子の戦いか……」


 迷いのない剣捌きに思わず見惚れて声を漏らしてしまった。ハッとしてスレイの方を向くと、向かってくる踊りキノコの傘をナイフで淡々と切り落としていた。


「ふっ」


「…………」


 ついでに余裕のある表情で微笑まれた。ムカつく顔だ。


 そうこうしている間にも、残りの数匹は王子に切り捨てられていき、踊りキノコの群れは完全に沈黙した。


「さすがですね。ネルス様」


「ありがとう、でもまだまだ未熟さ。怪我はないか?」


「触れられても居ませんわ。ご心配頂きありがとうございます」


 当初はか弱く見えるルシアを囮にして、敵をスレイが作った泥沼に引き寄せるという作戦だったのだ。


 相手が弱いモンスターだったのでこの手段を使ったのだが、王子が全ての踊りキノコを即座に斬り払ったので作戦は特に意味のないものに終わった。


「私もドカンと一発魔法を打ってみたかったのですけれど、結局何もできませんでしたわね…」


「やめてください。本当に何が起こるか分かりませんから」


 ルシアが不機嫌そうな声でぼやくと、スレイに嗜められた。先程の戦闘でも自分は何ひとつ役に立たなかったのだ。それどころか、ただ戦っている王子に見蕩れてしまっただけのような気さえしてくる始末である。


「では、お嬢様は踊りキノコの足を採取してもらえますか?沢山あるので、手分けして取っていきましょう。」


「!やる!ナイフ貸してくれ!」


 ナイフを受け取って、根本からさくさくと採取していく。こういう解体作業は以前の仕事でよくやっていたから得意だ。しかも今回採っている踊りキノコは食べ物としても使える素材なので、自然と心が躍るのを感じる。スープにすると美味いんだ、これが。


「おや、丁寧なのに早いとは。流石はレジーナ嬢だな」


 後ろをついてきたネルス王子が感嘆の声を上げる。スレイがそんな彼を睨んで注意をするがルシアは特に気にしなかった。褒められて嫌な気はしない。


「スレイほどじゃない。…ですわ」


「……それはどうも」


 素直に感想を言うと、同じく作業をしていたスレイは眉を寄せて顔を背けた。耳まで赤く染まっているように見える。いつもからかってくる執事を出しぬけたようで、何とはなしに嬉しくなった。


 この時だけ、俺はつい令嬢のフリをすることを忘れて笑ってしまった。



 ***



 3人で分担して作業を終えると、袋いっぱいの踊りキノコの足を手に入れることができた。1人1本手に入れば良いとされる中で、予想以上の収穫だ。これなら今夜の晩餐は期待できる。


「では学園へ帰りましょうか。他の皆様をぎゃふんと驚かせてやりましょう」


 俺は踊りキノコが入った袋を両手で抱えて2人に言う。だが、王子は浮かない顔で立ち止まったままだった。


「……私は少し用事があるから残る。レジーナ嬢は先に帰っていてくれないか?」


「えっ?ですが」


「すぐに追いつく。スレイ、彼女を頼んだ」


「はい。お任せください」


 ネルス王子はスレイにそう言い残すと、そのまま森の奥へと消えていった。スレイはこちらに振り返ると、にこりと笑って一礼する。


「では、参りましょうかお嬢様」


「え、いいのかよ?アイツ残していってさ」


 スレイしか居ないので、素の口調で話しかけるとスレイは呆れたようにため息をつく。


「王子は剣術の天才ですし上級生ですから、心配せずとも平気ですよ。…それに他の人がいつ通りかかるかも分かりませんので、口調は徹底してください。」


「ぅひいっ!?わ、わかりましたわ…」


 すっと唇をなぞるようにして囁かれた言葉に、ぞくりとしたものが背中を走り抜けた気がした。確かにこの男口調を聞かれてしまうのはまずいだろう。俺は慌てて口を閉ざした。



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