表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/70

65.茶髪の少女

 ショウが意識を取り戻した次の日。カウレア鉱山の一室には、ショウ、リンネ、デュラン、茶髪の少女の四人が集まっていた。


 全員が岩で作られた椅子に座り、真剣な表情をしている。

 だが――。


「『だわこ』。色々と話してもらうぞ」


 ショウは茶髪の少女に告げた。すると、茶髪の少女が怒り始める。擬音で表現するならば『ムキィィィィ』以外ないだろう。


「落ち着くのじゃ、『だわこ』」

「リンネ様の言う通り。大人しくするのだ、『だわこ』」


 リンネとデュランが追随する。その瞬間、茶髪の少女が涙を流しながらリンネを見つめた。悲しそうに尻尾を下げ、猫耳を垂れさせてだ。


「すまぬすまぬ。つい反応が面白くて言うてしもうたのじゃ。許してくれぬか、ミレット」


 リンネがぽんぽんと膝を叩く。ここ最近の合図だ。ミレットの機嫌が崩れた時に、愛玩動物のように撫でて機嫌を取る時の。


「もちろん許します。いえ、許させてください!」


 言うと、ミレットがすぐさまリンネの膝に頭をのせる。さらに猫耳をピクピクと動かし、催促し始めた。


 すると、リンネがミレットを優しく撫で始める。撫でられているミレットはと言うと、とても幸せそうだ。尻尾をくねくねと動かす様は、なんとも面白い。


「……さて、緊張はほぐれただろう。ここからは真面目な話だ。ミレット。お前たちは何の目的でデュランを従えていた」


 ミレットが名残惜しそうにしながら起き上がる。それから姿勢を正し、おもむろに口を開いた。


「オルテニシア王国に復讐するためなのだわ」

「オルテニシア王国に復讐。……それは、力によってこの国を支配しようとしていた、と言うことでいいのか」

「肯定なのだわ。私たちが立ち上げた組織――『夜明けの楽園(アルバエデン)』は、(しいた)げられてきた魔族や『半魔』が寄り集まっているのよ。積年の恨みを果たすために」


 室内の雰囲気が一気に重くなる。ミレットから(あふ)れ出るような怒りは、おそらくリンネにもデュランにも伝わっているだろう。


 特にリンネに関しては、この感情を知らないわけがない。リンネ自身も感じたことがあるはずの感情だからだ。


「……残りの魔将石はどうなっているんだ。お前たちが盗み出したんだろう」

「何事もなければ、封印が解かれているはずなのだわ」

「そうか。すると、デュランのように使役されているとみていいわけだな」

「察しの通りなのだわ」


 返答で事態を把握できた。ミレットが所属する『夜明けの楽園(アルバエデン)』が、国家転覆するために、(いにしえ)の魔族達を解放したと言うことだ。


 ――ということは、封印の解除方法を聞く必要はないな。


 ミレットの言動を総合すると、封印の解除方法は、現状価値の無い情報である。四魔将の封印はおそらく全て解かれているのだ。つまり、今更解除方法を知ったところで全く役に立たない。聞くだけ無駄だ。


「……魔王石が王都(ツェントルム)近郊に落ちていたのはなぜだ。お前たちの目的を果たす一番の近道は、間違いなくリンネの封印を解き放つことだったはずだ。何においても、魔王石を確保する必要があったはず。それなのになぜ」


 問いに対し、ミレットが困ったような表情を作る。そして、少しだけ間を置いてから話し出した。


「詳しいことはわからないのだわ。『白』――『夜明けの楽園(アルバエデン)』のリーダーが言うには、わざとそうしたような感じではあったけど」

「情報が共有されていないと言うことか……。というより、先にお前の立場を理解しておく必要があったな。『夜明けの楽園(アルバエデン)』ではどんな立ち位置にいたんだ」

「ランデル地区のトップ。組織の幹部なのだわ。主に資金調達を任されていたというところね」


 ――なるほど。そうなると、その『白』と言う人物はかなり用心深いみたいだな。幹部にすら情報を流さないんだ。これ以上有益な情報は引き出せないとみた方がいいだろう。


 追及を諦める。それからリンネとデュランの方を見た。


「……とりあえず俺の質問は終わりだ。他に何か聞いておきたいことはないか」

「あるのじゃ。ミレットよ。お主たちは復讐を果たした後、どうするつもりでいたのじゃ」


 鋭い目つきで、リンネがミレットを見つめる。凍り付くような威圧感こそ放っていないものの、恐怖を与えるようなものだ。


 その証拠に、ミレットがビクビクと体を震わせる。嘘を吐けばただでは済まないだろう。まぁ、リンネの配下なので嘘を吐けるわけがないのだが。


「……実は、その辺りの取り決めをしていないのです。えっと、『白』の配下に近い形になっていたと言えばわかるでしょうか」

「ふむ。そういうことであれば質問を変えよう。ミレットよ。お主はどうしようと思っておったのじゃ」


 一度うつむいた後、ミレットが強く手を握った。そして、力強い目つきをして顔を上げる。


「私は『夜明けの楽園(アルバエデン)』の皆が――『半魔』である私が平穏に暮らせる場所をつくろうと思っていました」


 リンネがミレットの瞳を見つめる。まるで全てを見透かすかのように。


「……良い覚悟じゃ。なれば、妾の下で励むがよい」

「あっ……ハイ! 精一杯、務めさせていただきます!」


 ミレットの周りに星が輝いているように見えた。錯覚なのだが、それほど嬉しいのだろう。


「さて、堅苦しい話はこれで終わりなのじゃ」

「待て、その前に一つ聞いておきたい。リンネ、さっきから言う『半魔』とはなんなんだ。聞いたことがないぞ」


 リンネとミレットの方を見つめる。すると、リンネがミレットの表情をうかがい、様子を確認してから口を開いた。


「一言で言えば、魔族の血が非常に濃い人間じゃ。つまり、お主とは対極の存在と言うことじゃのう」

「そうなのか。ちなみに、耳と尻尾が生えるのもその影響か」

「うむ。血が濃い故に、魔族としての特徴を継承しておる。ミレットは『ケットシー』の血を継いでおるから、モフモフとして気持ちの良い耳が生えるのじゃ」


 リンネが言い終えたところで、ミレットが耳をピクピクと動かす。愛嬌があり、可愛らしいものだ。


 しかし、先ほどまでの会話を合わせると違うものが見えてくる。ミレット自身が口にした、『(しいた)げられてきた』から想像すれば、非常に簡単な事だ。


「差別……いや違うな。一般人には伏せられてきた。存在そのものをなかったことにされてきた。そうなんだろう、ミレット」

「その通りなのだわ。自分たちにとって都合の良いところだけ見せる。この国の汚いやり口なのだわ」


 (いきどお)るミレット。その気持ちは大いに理解できた。魔法を使えない『無能』として、差別されながら生きてきたからだ。


「『だわこ』も大変だったんだな」

「『だわこ』とか言うなのだわ!」


 本日二度目の『ムキィィィィ』を見せるミレットに、リンネが小さく吹き出す。


「リンネ様も笑わないでください!」

「仕方ないではないか、可笑(おか)しいのじゃから」


 ここぞとばかりにリンネが笑う。


「むぅ。何か特徴的な語尾をつけた方が良いのだろうか……」


 その隣で、先ほどまで一言も話さなかったデュランが、割と真剣に悩んでいるように見えた。悩みの内容に関しては、どうして悩むのか甚だ疑問なのだが、なんとなく声をかけるのをためらいたくなってしまう雰囲気だ。


 ――さて、どうやって()(くく)ろうか……。


 思い思いに動き、どう収めようか悩み始めた時――。


「リンネ様、もうすぐお昼になります」


 丁度いいタイミングで、フェンリルが部屋の外から声をかけてくる。まさに神の一声だろう。


「ご飯なのじゃ! つまらない話は終わりなのじゃ!」


 リンネがすぐさま立ち上がり、部屋を出ていく。すると、デュランもミレットを後に付いて出ていった。


「……まったく、アイツらときたら」


 あまりにも俊敏な行動だったため、部屋に一人取り残されてしまう。だが、楽しそうで何よりと思うのだった。

次回は2/9(火)です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ